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X'mas Rose〜聖夜に咲く白き薔薇は紅に染まる  作者: 里井雪


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火葬

 翌朝、まだ冬には早いが、鈍色の雲が垂れ込める中、イーサ領と魔族領の境界にある峠の検問所に魔道車は到着した。


「では、夕刻には戻りますので、運転手さん、それまでお待ちください」


「へい!」「了解です」


 一行は、ロゼが飛び降りた崖の上を目指し森を進んだ。紅葉した樹木の黄色い葉が秋の風に舞っている。途中、魔獣が顔を出すこともあったが、先頭を行くニールが一撃の元に片付けた。


 一時間ほど森を歩き、一行は運命の崖の上に辿り着いた。


「行ってまいります」


 鳥翼人、天使のような大きな翼で空を飛べるが、重い荷物を持っての飛行は難しい。二人がかりでも、ロゼの遺体を抱えて飛ぶことはできない。


 さらに、崖下までは二百メートルもある。物質文明については、さほど進歩していないこの世界に巨大な重機などなく、彼女を引き上げるのは容易ではない。


 長く遺体を放置するわけにもいかず、崖下で荼毘に付し、彼女が最後に見た絶景、この崖の上に、その遺骨を埋葬することになった。


 鳥翼人は崖の下に舞い降り、ロゼの汚れた服を死装束に着せ替えさせる。魔道具で体を清め、血を拭き、死化粧を施した。周囲の枯れ枝を集めクッションを作ったら、白い布で巻いた遺体を慎重に、厳かに横たえる。炎の魔石が四隅に置かれた。


「では、点火いたします」


 崖の上から見つめる喪主ニールにナオミが声をかけた。


「お願いします」


 魔道具のライターで着火した炎の魔石は、轟々と音を立て燃え上がる。ロゼの紅い髪が炎に包まれた。炎は灰色の煙となり、空に立ち上る。ロゼの魂は、高く高く舞い上がり、天へと帰って行った。


 一時間ほどの後、二人の送り人は、骨壷にロゼの遺骨、と、灰を丁寧に回収し、崖の上へと戻った。


 崖の上には、ニールとドロシーが掘った深さ一メートルのほどの穴がある。泣くこともなく淡々と作業をするニール、骨壷を納め土をかけ、喪主自らが背負ってきた墓石をおいた。


 それは低床型の墓碑で、横一メートル縦五十センチほどの長方形、側面が台形になっており、地面に対し三十度ほど傾いている。磨き込んだ黒御影石には、こう刻まれていた。


〜*

ロゼ・リースフェルト 3683/10/10〜3702/10/08 「赤き薔薇の麗しき乙女、ここに眠る」

*〜


 最後まで一粒の涙も見せずニールは墓石に花を手向け、くるりと背を向けた。その背中には「慰めの言葉は不要」と書かれている。一行は黙って、検問所に戻った。




 再び、魔都に戻った一行、ドロシーは彼ら全員を自分の家に来るよう勧めた。


「いや、まぁ、一人で住むには大き過ぎてさ、掃除するのも大変だから、いいかなと」


 魔王城から歩いて三十分ほどのところにある、瀟洒な住宅街、その一角に木造二階建ての白い壁の家があった。庭は綺麗に手入れされ、四季の花が咲き乱れる。今は、コスモスが赤、ピンク、白、可憐な花が秋風に揺れていた。


「ドロシーさん、ここに、メイドも置かず一人で?」


「うん、だからさ」


 あえて道化を演じ、明るく振る舞うドロシー、その気持ちを察したのだろう、アンナは、


「掃除は私にお任せください。村長、ニールさん、ウィル君、いいですね?」


 散らかった室内を見てアンナの「プロ」意識が頭をもたげたともいえるだろう。自分の荷物を置いたら、エプロン姿になって、早々に掃除を始めた。




 翌朝、ニールは魔王に会いたい言った。


「なにも、そう慌てなくとも、少し静養したら? 初七日が済んでからでも、いいんじゃない?」


 ドロシーの気遣いに耳を貸さないニール、精力を取り戻したはいいが、今度はどこか憑かれたような目をしている。


 不安を禁じ得ないドロシーだが、朝食後、一緒に登庁することにした。ちなみに、この世界の暦も一週間は七日、人の魂は七日だけ地上に止まった後に天昇る、という言い伝えもある。


 午前の会議を終えた魔王、ドロシーとニールを執務室に通した。マホガニーの大きな机に本棚、レースのカーテン越しには、よく整備された庭園が見える。とはいえ、魔王という権威を考えれば、とても質素な部屋だ。


「そちらに」


 魔王は革張りのソファーを勧め、自ら紅茶を淹れた後、二人の向かいに座った。


「人族の国から輸入した茶葉じゃ、ご賞味あれ」


 出されたお茶に口を付けるより早く、ニールはせっつくような口調で、こう言った。


「魔王様、折り入ってお願いがあります」


「なんじゃ?」


「私をクトゥル・アル・シュタールからの使者として、オステン帝国に派遣していただきたい」


「使者? なんのために?」


「彼の国と魔族の国、軍事同盟を結び、リバ、イーサを討つ」


「何を言ってるニール! 私怨に駆られ、気でも触れたか」


「復讐心がないと言えば嘘になるが、これは、魔族の国にも益のある話だ」


「ニールいくら君でも看過できない。復讐のために国を動かし戦乱に導くだと! 馬鹿も休み休み言え!」


「待て、ドロシー、ロゼ殿の死は、いつまでも隠し果せるものではない、いずれ、オステンは攻めてくる、ならば、その切先を制す。彼らが知る前に情報提供し、恩を売ったことにする、そういうことじゃな?」


「はい」


「ダメだ。ニール! 復讐などしても、ロゼは蘇らない。ただ虚しいだけで、なんの解決にもならない、そんなこと分かっているだろう?」

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