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勇者パーティ

 勇者ニール・リンハルト、その紺碧の髪とマリンブルーの瞳は勇者の証、辛子色のパンツにキャメルのブーツ、藍色のチュニック風の上着、寸鉄も帯びぬのも勇者としての仕来りだ。そして、唯一の金属、聖剣アメノハバキリを背負っている。


 残り三人が勇者パーティのメンバーなのだろう。


 勇者という存在はRPGでいうところの最強戦士であり、攻防に秀でているが、複数人で戦う場合は、防に特化し盾役として振る舞うのが定石だ。


 勇者の右隣はトーネード・ヴィレール、短剣を帯び軽装ということから、偵察、トラップ解除などを行う盗賊タイプといったところか。


 歴代勇者は、鍛錬のみを行い形式的に冒険者として振る舞う者も多いが、この手のメンバーがいるということは、ニール、ダンジョン攻略などもこなし、真面目に冒険者をやっている、ということだろう。


 定番のヒーラーはアガーテ・フォルクヴァルツと名乗った。


 トーネードもアガーテもこの世界の典型的な容姿であるブロンドに碧眼、お似合いの美男美女のカップルに見える。


 最後、一人異彩を放っているのが、武闘家タイプの少女だ。紅の髪、血色の瞳、おそらく魔族と人族の混血だろう、寿命が長い分、成長が遅い魔族の血のなせる技か、人族なら十歳くらいの背格好だが実年齢はすでに成人だと思われる。


 魔族と人族の混血をこの世界ではダンピールと呼ぶ。それは、勇者、魔王すら凌ぐといわれる世界最強の証、しかも女性だ。強力な魔法の加護を持っているに違いない。


 ドロシーと名乗ったその子は、自分の髪を触り、あどけない笑顔をロゼに向けた。


「お姉ちゃんとお揃い、仲間だね」


 と言わんばかりの微笑み。すなわち、目隠しをしているロゼの目が見えていることに勘付いている、ということでもある。あどけなさは演技に過ぎず、この子、その魔力、知力とも群を抜いている「恐ろしい子」であるのは疑いの余地がない。


 一通りに自己紹介と挨拶が終わったところで、勇者ニールが口を開いた。


「イーサの王・ランドルフ・アウエンミュラー様におかれましては、ごきげん麗しゅう、恐悦至極にございます。この度は、私共の急な来訪にも関わらず、謁見の栄を賜りましたこと、心より感謝申し上げます」


「勇者ニール殿、私は、典礼様式などというものは、少々苦手でな。よいから、来訪の要件を、ずばり、お伺いしよう」


 フランクに、という言い方だが、イーサ王、勇者の持って回った物言いに辟易したのだろう。だが、ランドルフはなかなかの曲者、表情ひとつ変えていない。


「はっ! ありがたきお言葉、では……」


「うむ、だが、ロゼを貸せ、ということなら、断る!」


「え!」


 さすが、この世界でも屈指の切れ者と言われるイーサ王、ずばり本音で切り込んできた。


 今、リバは魔族と共謀したオステンの侵略を受けている。侵略と書いたが、例によって、オステンの建前は異教徒エアルメラ教の国イーサで迫害を受けているアルカーン教徒の解放、ということになっている。


 キリスト教やイスラム教に近い一神教のアルカーン教、八百万の神を信じアニミズムともいえるエアルメラ教とは相入れない。とはいえ、リバにアルカーン教徒など、ほとんどいないのだが……。


 すでに、国境の都市カロブレフは陥落し、オステン軍は魔族の支援を受けながら、次の城塞都市ドルティアに向かって進軍を開始したらしい、という情報は、ランドルフの耳にも届いている。


 魔法文明により発展してきたこの世界にあって、物質文明を取り入れ、機甲師団すら擁するオステン軍、しかも五万という大軍だ。カロブレフは、わずか二ヶ月で陥落したのだという。


 さらに、彼らの「伝統」により、略奪や虐殺もかなり起きているらしい、カロブレフは廃墟と化したとのことだ。


 同じ宗教を信ずる者という以外、特別な同盟関係にもない隣国のイーサに、リバの最重要人物でもある勇者が膝を屈しての願い事、もはや賢明な王にとっては自明ということだろう。


「王様、少々お待ちくださいませ」


 ロゼは、まだ十四歳とはいえ、とても聡い女性だ。一言の元に勇者の願いを蹴るつもりなら、この場に自分が呼ばれるはずはない。さきほどの「断る」はイーサ王一流の演技、おそらく彼は彼女の発言を待っている、と気付いたらしい。


「どうした、ロゼ殿」


「勇者様、あなたのお国のカロブレフでは、オステン軍による非道な行為が行われたと聞きます。それは、事実でしょうか?」


「ロゼ殿……」


「どうされました? 私の顔に何か?」


 あっ、いけない、見えているこたがバレたかもしれない!


「いえ、あなたのその燃えるような髪が、あまりに美しく、見惚れておりました」


「えへへ、お姉ちゃん、私の髪もだよ?」


 ドロシーは、こんな場でも臆することなく、冗談を言ってしまう性状を持っているようだ。


「お戯を。将を射んと欲すれば先ず馬を射よ、でしょうか? そうとしても、この場に相応しくない物言いですわ」


「し、失礼しました。はい、仰る通り、虐殺、このような場では話しづらい行為も行われております」

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