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X'mas Rose〜聖夜に咲く白き薔薇は紅に染まる  作者: 里井雪


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自死

 我が子、子孫、未来を考えた時、ロゼの迷いは消えた。


 そうだ! そうなのだ!!


 迷うことなどない、子の将来を憂うるのなら、そもそも子が実在しない世界を現出させればいいだけの話ではないか?


 全ての条件を洗い出し、帰納的に考えれば、この問題への回答は自明。だが、それは、答えてはならぬ問い、もしも、もしも、正答されてしまえば、ロゼはスフィンクスの運命を辿ることになる。


 ダメ、ダメ、だけど……。


「アンジュ、あなたは『待っています』と言った、その言葉、その意味が、今、分かったわ。あの手紙は遺書なんかじゃない。招待状、私をあなたの元に誘うメッセージだったのよね」


 誰もいない薄暗くなってきた森でロゼは一人呟いた。


「この死は、アンジュ、愛しいあなたの死に意味を与えるもの。ごめんなさいニール、私は、あなたを捨て、アンジュを選んでしまった。そして、ウィル、愛する子を残し逝く母、ごめんなさい、私は母親失格、最低ね。だけど、でも、これは、あたたたちを守る、最善の方法、そうだと思うから」


 一呼吸置いた、ロゼは、ヴァイスハーゼを召喚する。


「天なる三星に絆を結びし僕よ、契約の元、真の姿を我の前に示せ、出よヴァイスハーゼ(白兎)封印解除(リベレーション)


 ロゼは真っ白い犬神の鼻先を優しく撫でた。


「ごめんね。私が死んだら、あなたも消えちゃうのよね。短い間だっけど、ありがとう、楽しかったわ」


 主従の契りを結んだ召喚獣、マスターの考えは全てお見通しだ。


クゥゥゥン


 ヴァイズハーゼは、その恐ろしげな姿に似つかわしくない、まるで子犬のように、悲しげな鳴き声を上げ主人に甘えた。


 ロゼの母は日記の中に「今度、あの崖に行こう」という言葉を記していただけだ。この言葉は、風光明媚な近隣の観光地に出かけたい、という何気ない日々の出来事に巧みに混入されていた。


 事前に読んだアンジュさえも気付かなかったのだろう。おそらく、母はロゼだけに最後の手段、自殺の方法を教える意図があったのだと思う。


 そう、ブラッディローズの力を持つ者が、自死する方法、それは投身自殺以外にはない。飛び降りれば、ロゼを「殺そうとする」地面の岩は砂に変わるだろう。だが、二百メートルも落下して地面に叩きつけられたら、砂のクッションなど何の意味もなさない。


「じゃ、行くわ、さよなら」


 ロゼは、毛ほどの怖れもみせず、なんの躊躇もなく、虚空に身を踊らせた。


ワオォォォーーーーン!


 犬神、ヴァイズハーゼは、昇りくる月、炎の如く、血の如く、真紅に燃える月、C星に向かい、哀しき遠吠をした後、光の泡となって消え去った。




 その頃、魔族の検問所にニール一行は到着していた。イーサ領と魔族領の境界にある峠、切り通しを利用した鉄製のゲートが行く手を阻む。


 切り通しの向う側は、広場になっており、谷側にログハウス風の木造二階建て、検問所、兼、見張り番の宿舎があるようだ。


 ゲートのこちら側からでも川が流れる音が聞こえた。川は滝となり南側の谷底に落ちている。一行が到着する気配に気付いたのだろう、検問所から屈強なオーガの兵士が二人、槍を構えてこちらに向かって来た。


 と、その後から思いもしない出迎えが付いてきている。


「ドロシー!! なぜ、俺が来ることが分かった」


 オーガの兵士に指示を出し、ゲートを開かせたドロシー。


「知らなかったのかい? 僕たち魔族には『夢見の力』、予知能力があるんだよ。魔王は国の命運に関わる一大事しか予知しないようだけど、僕はさ、気になる人の夢しか見ないかな……」


「なるほど、それじゃぁ、もしかして、ヒルトハイム冒険者ギルドで待ってのも、その力があったからか!」


「ストーカーみたいで、恥ずかしかったから黙っていたのだけど、ま、そういうこと。ということだからさ、魔王にも話は付けてある。大型の魔動車を準備したから、避難民の人は乗ってもらって」


 検問所の先にある広場には、大きなバス型の魔動車が二台も横付けされていた。


「魔都・クトゥル・オル・ナドリクまでは一昼夜かかるけど、これで行けば魔獣に絡まれることもなく、安全だと思う」


「魔族の技術力はすごいな」


「いや、これ、オステン製だよ。ヤツらとは、今のところ共闘関係にあるからね」


 説明しながら、ドロシーは不審な顔をしてニールに問うた。

 

「そういえば、ニール、別行動ということは、ロゼ、魔獣掃除をしているのかな? だけど、もう、さすがに合流していい時間じゃない。遅すぎないかい?」


 ドロシーもロゼが露払いをやるだろうと予想はしていたようだが、どんな丹念に掃除をしたとしても遅過ぎる、と思ったのだろう。


「ああ、来る道、全く魔獣に出会わなかったということは、ロゼ、森の奥まで掃除してくれていたんだと思うが……」


 ロゼの力の絶大さを知り尽くしているニール、そこまで心配はしていなかったようだが、日が暮れるに従い不安が募って来たらしい。


「村のみんなを魔動車に乗せたら、探しに行こう!」


「そうだな!!」

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