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X'mas Rose〜聖夜に咲く白き薔薇は紅に染まる  作者: 里井雪


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脱出

「あ、ありがとう、アンナ、私を目覚めさせてくれて。ここで私たちが死んだら、まさに、アンジュは犬死にじゃないか。ニール殿、ロゼ殿、三日、三日だけ、待っていただけますか? 訳ありの村民たち、この村と運命を共にする、という者が大半かもしれません、ですが、せめて生きたいと願う者を募ります」


「もちろんです」「天国にいるアンジュの気持ちを考えれば、是非そうしてください」


「私は付いて行きますからね。魔族の国を見るなんて、長生きはするものです!」


 と、アンナは笑った。




 その翌日から、村長とアンナは手分けけをして村の全戸を回った。余所者でも差別はないこの村だが、「結界が消失する」などという話は二人のような古参の説明、重みのある言葉が必要だろう。


 丸一日を掛け、村長とアンナは村を回ったが、脱出に応じた者は約百名、人口の一割に過ぎなかった。たいていの村民の反応は村長の予想通り。


「結界が消えるのも運命、これまでよく生きてこれた、もういい」


 という反応だった。脱出する者には二日の猶予が与えられ、それまでに支度を整えて、村長の家に集合することとなった。


 大概の者は、着の身着のままでこの村に来て、原始共産制で助け合う倹しい生活をしているに過ぎない、身の回りの物といっても、リュック一つ程度といったところだ。


 ニールとロゼも、家具は置いて行くことにして、ロゼのUb●rリュックに本と着替え、ロゼのたっての願いで、村長にもらった茶器を詰めた、これをニールが背負う。


 ロゼは自分の着替えと化粧道具など身の回りの物だけを詰めた、軽いリュックにした。なぜなら、彼女には、彼女しかできない特別な任務があったからだ。


 その特務とは、この世界の魔獣の特性を利用した「大掃除」だ。


 脱出希望者、百名の中には元冒険者もいる、だが、戦力となりそうな若い元冒険者は十名にも満たなかった。一日程度の旅程とはいえ、この先、北西部には強い魔獣が多い。彼らとニール、ロゼだけで、残りの村民を守りきるのは難しいだろう。 


 特性という言い方をしたのは、ここの魔獣、地球のネットワークゲーム(MMORPG)に似た振る舞いをする、という意味だ。ある時、突然、決まったあたりに現れるが、討伐されると、一定時間、だいたい一日の間は、消えたままだ。


 そう、ゲームモンスターのように、特定地点に「ポップ」するが、「プレイヤー」に倒されると、一定時間「リポップ」しない、ということだ。


 すでにロゼたちの居場所は、リバ王に知られている、彼女が魔法を使って、「狼煙を上げる」ことを躊躇う必要もないだろう。彼女には、ブラッディローズの力を駆使しての露払い、避難路一帯の魔獣を狩り尽くすというミッションが与えられた。


 出立の日の深夜、ロゼは支度を終え、軽い朝食を食べた。ニールはもちろん、村長、アンナ、なぜかどうしても寝なかったウィルまで見送りに出ている。ロゼはリュックを背負い、腰に短剣フツノミタマを手挟んだ。


「じゃ、チャチャッと片付けて来ますので、夕刻に合流しましょう」


「ああ、君の魔法は絶対、心配はしてはいないが、くれぐれも気を付けて」


「そうね。魔獣に気を取られて、崖から落ちるとか、笑えないものね」


 柔和な笑顔を返したニールだが……。


 このところロゼは軽いジョークを飛ばすほどに明るい。だけどロゼ、元々、思ったことをズバリ言う性格ではあるが、こんなにいつも冗談ばっかり言ってたっけ?


 その微笑みもどこか作り物めいている。アンジュの死を乗り越えようとして、勤めて明るく振る舞う気持ちは分かる、分かるのだが、無理をしている?


 いや、それとも違う、心がざわつく、目の端、視覚の隅に黒い影が見える気がするが、だが、どうしても、その実態が掴めない、ニールは漠とした鬼胎を抱きつつも、何もできぬ我が身を嘆き、ただ、黙ってロゼを抱きしめた。


「どうしたの、ニール」


「パパ、だめ! ギューッは、僕、僕」


 駄々を捏ねるようにウィルが足元に抱きついてくる。彼も、子供の鋭い直感で、何かを感じているのかもしれない。


「もぅ、二人とも、一日不在にするだけじゃない。いいから、離れてぇ」


 相変わらずロゼは明るく笑って、二人の抱擁から逃れた。


「ロゼ様、アンジュの仇ともいえる、この村のために、ここまでしていただけるとは、この通りでございます」


 村長は最敬礼するように頭を下げ、アンナもこれに倣った。


「いえいえ、この村を守る、それはアンジュの遺志です。私は親友の遺言に従っているだけ、そうお考えください。仇も何も、アンジュは、この村を、村民を何より大切に思って死にました故」


「ありがたきお言葉」


「ほんとうに、ロゼ様は、アンジュを大切に思っていらしたのですね」


「もちろんです」


 そう言いながら、ロゼはアンジュ交わしたファーストキスを思い出していた。だけど、これだけは、口に出すことはできない。


「では、ウィルのこと頼みましたよ」


「お任せください」


 アンナはテーブルに置かれた「おんぶ紐」を指さして言った。

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