隠れ里の暮らし
三人が最初に訪れたのは家具屋、といっても、お金はいらないリサイクルショップだが、で事情を説明したら、ビューロー二つと椅子、丸い円形の食卓と椅子三脚、腰ほどの高さの小さな食器棚をもらえることになった。いずれも、ロゼの好みで漆塗りされた民藝風の家具にした。
家具類全てはリヤカーに積みきれなかったので、二回に分けてドロシーが運んでくれた。その時間を利用して、ニールとロゼは服屋、布のリサイクルショップで、カーテンとパジャマ二人分を調達した。
カーテン、これもロゼの好みだろう、渋めの茶褐色、鳶色と表現すればよいかもしれない。
原始共産制、相互扶助のルールが生きているこの村、いずれの店主も余所者にとても親切だ。一点だけ問題があるのは、店番をしている者はおらず、店に置かれたメモを頼りに農作業に出ている主人を探す必要があることだ。
その分、若干、効率は悪かったが、ロゼもドロシーも加護の魔法により、その体つきからは想像もできない力がある。家具の設置など瞬く間に済ませることができた。
その日の午前中には、二人が暮らす準備は整った。
そもそも、リュックに詰められる程度の荷物しか持ち出せなかった二人だ。収納を考えると、昨夜、泊まった一部屋があれば十分だろう。ドロシーが使ったもう一部屋は、変わらず客間として使うことになった。
早々、貰ってきた丸テーブルにアンナが用意してくれたサンドイッチを並べ、こちらは、村長から貰った食器に紅茶を注ぐ、三人は昼食のテーブルを囲んだ。
「そういえば、本棚がないわね」
「持ち出せた本は数冊しかない、あの食器棚に入れるくらいで十分じゃないか?」
「ロゼ、本好きだよね。きっと」
「本を読む以外の娯楽はなかったもの」
「これからは、魔獣狩りがあるじゃないか!」
「そうね! そして、前にも言ったけど、街へのお使いは私ね。だって、私が『お尋ね者』になる心配はないのだから」
「街で本を少しずつ仕入れてくるってことかな? なるほどね」
そんなことも話していたのだが、日が変わり、ドロシーが魔族の国に向かう朝になった。
この地方の冬は気候が安定している。ブナの枝についた雪の粒が、昇ってきたA星に照らされ、煌めきながら雫となり滴り落ちていた。
「村長さん、アンナさん、お世話になりました」
「いえいえ」「お気を付けて」
「ニール、ロゼ、お幸せにね」
「ああ、姫を攫った責任は果たすさ」
「あら、私を幸せに……は、義務感なわけ?」
「そこ、ツッコムかよ!」
「ドロシー、私を姉と呼んでくれて本当にありがとう、感謝してるわ」
「だからー、今生の別れみたいなこと言わないで、お姉ちゃん。魔族の国は目と鼻の先、遊びに来てくれてもいいくらいだから」
「そうね、じゃ、また」
「ドロシー、またな」
リュックを背負ったドロシー、体が小さいので、『ダ⚫︎まち』のリリ⚫︎カのようになっているが、その足取りは軽やかだ。村長の家から、北東に続く林道に消えた。
そして、それから、しばらくの間、ニールとロゼは平穏な日々を過ごした。
まず、ロゼはニールからさらなる剣の奥義を教わった。以前から分かっていたことだが、ロゼの才能は群を抜いている、いや、その表現では足りない、ぶっ飛んでいる。座学で説明するだけで、次の日から実践できてしまうのだ。
瞬く間にロゼは短剣同士の勝負ならニールをも凌ぐ、すなわち、この世界屈指の短剣使いになってしまった。彼女が達人となったのを機に、二人一緒に出ていた狩は別行動とすることにした。
フツノミタマを操って、ロゼは、毎日、ニール以上の戦果を上げ、大量の魔石を村にもたらした。それはそうだ、彼女の魔獣狩りは、自らが「不死身」であることを利用し、とても手荒い。
上位魔獣が多い森の最深部までヴァイスハーゼで出かけ、魔獣寄せの香を炊くという、彼女にしかできない狩をする。
魔獣が好む香料は、どうやら、あのケシから採れるようで、甘ったるくどこか官能的な香りがする。まるで媚薬のようだ、というところまでは、色っぽい話なのかもしれないが……。
実はロゼ、香料を固めて蚊取り線香のように巻いたものを、金属製の丸い携帯蚊取り線香皿に入れ、腰に吊るしているだけだ。これに火を付けて、魔獣を寄せるということだ。
常人がやると、間違いなく魔獣の群れに押しつぶされ即死だろうが、彼女の素早さは群れ来る魔獣すら上回り、同時に十体くらいなら、易々と片付けてしまう。もちろん、ブラッディローズの力という保険もある。
終わったら、魔獣避けを兼ねてヴァイスハーゼを再召喚、蚊取り線香を消して別の場所に移動する。ということを半日も繰り返すと、数百の大きな魔石でロゼのリュックは一杯になる。




