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X'mas Rose〜聖夜に咲く白き薔薇は紅に染まる  作者: 里井雪


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原始共産制

 急な話の展開に少々面食らっていた村長、場を取り繕うように、


「ま、とはいえ、しばらくは、こちらにいてくださいね」


「そうでした」


「ありがとうございます」


 そんな会話もあり、五人は夜遅くまで、大いに食べ、飲んだ。


「では、私は、そろそろ家に帰ります。お三方はお二階の二部屋でお休みください」


 ニールとロゼ用に村長が提供してくれた部屋は客間として使っていたらしい。めったに来客などないこの家だが、アンナが日々、清掃してくれているようで、塵一つ落ちていない。


 大きめのツインルームをニールとロゼ、その横のシングルルームをドロシーが使うことになった、いずれも、ホテルのように、シャワーとトイレが付いている。


「ちょっと、疲れましたね。寝ましょうか?」


「だな」


 シャワーを浴びた二人は下着姿で、それぞれのベッドに横になった。清潔な部屋、糊の効いたシーツがとても心地よい。


 レースのカーテン越しには紅いC星の月明かり、裏庭のポプラが葉を落とした枝を冬の風に揺らしていた。


「ニール、ほんとうに、ほんとうに、これでよかったのですか?」


「君のためなんかじゃない、俺の我儘に付き合えと、言ったまでだ」


「それは、私を騙す、優しい嘘ではないのですか?」


「そんなことあるものか!」


「だったら、証明して見せて」


「ああ、もちろんだ」




 翌朝、結界の中には小鳥も平穏に暮らせているようだ。どこから飛んで来たのだろうか、シュジュウカラの囀りに目を覚ましたロゼは、窓から空を見上げる。A星に続いて、そろそろB星が昇ってきた。


 下を見る、この家は村の北端ということだろう、裏庭の先は針葉樹の森林地帯が続いている。


「おはよう、お姉ちゃん」


「ドロシー、おはよう」


 あくびをしながら、ドロシーが部屋にやってきた。


「この先に、細い林道が見えるかな?」


「ええ」


「そこを、召喚獣なら半日、徒歩でも一日も行けば、魔族領に入るよ」


「ドロシー、明日には、行くのか?」


「うん、そう長く、新婚さんのお邪魔をしてもなんだから」


「なに言ってるの」


「ちゃんと、今日は買い物、手伝うからさ。それに、心配しなくても、また、会えるよ、魔族の国でね」


「この村に迷惑はかけられない。行く行くは、そうなるかもしれないな」


「ですね」


 身支度をして三人が一階に降りていくと、すでにアンナが来ており、朝食の準備が整っていた。


「私たちの分まで、申し訳ない」


「いいんですよ。一人も四人も手間はたいして変わりませんから、これからも、食事はお任せを」


「そうは言われましても……」


「折角、若い方々が来られて、どういうメニューがお好みか? などと考えると心踊るのです。それとも、なんですか? 勇者様は、老人の細やかな楽しみを奪うのですか?」


「ああ、やられたわね、ニール。では、私たち分の、食費だけ……。って、あ、そうか!」


「そうです。この村に貨幣の流通はありませんよ」


 黙っていた村長が、村の仕来りについて解説した。人が増えれば、アンナは野菜や肉を提供してくれる店に行き、余分にもらってくればいいだけなのだ。


「お部屋のお掃除はお願いしたいですが、シーツなどは出しておいていただければ、一緒に洗濯しますよ。ああ、昼食も準備してありますので、後で、どうぞ」


 この世界には、動く仕組みは違えども、洗濯機、乾燥機、掃除機などなど一通りの魔動家電が存在する。しかも、魔法がある分、高機能だ。


 シーツなどは洗って乾燥機に入れれば、糊付けし綺麗に畳まれ排出されてくる。掃除機、魔法の箒はルンバなどより全然優秀、床だけではなく、部屋中を飛び回って綺麗にしてくれる。「電源」はもちろん魔石、少しだけ魔力を注いで掃除する範囲を教えてやれば、後は全自動だ。


 朝食を終えた三人。


「では、今日もらってくるのは、家具、カーテン、食器、と、着替えくらいでしょうか?」


「ロゼさんのお好みかどうか、分かりませんが、ティーポットとカップ、ソーサーなら、余っているものがありますよ」


 村長はロゼを食器棚のところへ案内した。彼の趣味なのだろうか、そこには何種類もの、紅茶器が陳列棚のように置かれていた。


「どれでも、お好きなセットを持って行ってください」


「ありがとうございます。では、これを」


 ロゼは白い磁器に藍色の薔薇が描かれている紅茶セットを指差した。カップの持ち手と飲み口、ソーサーの周りが、金メッキされていて、豪華な感じのするデザインだ。


「ほぅ、さすがロゼさん、お目が高い」


「あっ、もしかして、一番いい食器を……。貰ってしまっていいのですか?」


「もちろんです。お部屋の準備が整ったら、持って行ってください」


 この世界の魔法は、いろいろな面でとても有用だ。例えば、治癒魔法というのは「物でも人でもあるべき姿に戻す」魔法だ。


 割れた陶器、壊れた家具でも、仕組みが単純なものなら、簡単に元通り。魔法を前提としているが故、この村の自給自足生活は成り立っている、という側面もある。


「さあ、みんなで、家具屋さんと服屋さん、行こうよ!」


「ああ、庭の納屋にリヤカーがありますから、引いて行かれるといいかと思います」


 冬の晴れた朝、ニールはロゼとドロシーを乗せ、リヤカーを引きながら、静謐な風が流れる村の道を下っていった。

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