表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
X'mas Rose〜聖夜に咲く白き薔薇は紅に染まる  作者: 里井雪


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

61/87

魔力の狼煙

 食事を終え、食器を清浄の魔法で洗った一行。


「さて、お腹もいっぱいになったし、キャンプの常として、早めに寝ますか?」


「そうだな」


「あの、この子を枕に寝ませんか?」


「いいね!」


 言った三人はドーム式テントを張りシュラフに包まって、その中に足を突っ込む。テントの入り口付近には、ヴァイスハーゼが寝そべってくれた。


 三人はテントから頭だけ出して、腹のあたりを枕にする。大きな犬神は、ロゼに鼻を擦り付けて、おやすみの挨拶をすると、スッと目を閉じた。


 ヴァイスハーゼ、見た目より、ずいぶんと柔らかい毛並みで、とても暖かい、もちろんシュラフとテントの魔法防寒があるのだが、まるで暖炉の前で寝ているような幸福感、微妙に犬臭い匂いがするのも、これは、これでいい。


 三人はあっというまに夢の世界に誘われた。




  翌朝、空は晴れ渡り、静謐な寒さを感じる。ヴァイスハーゼがいて魔獣が全く寄ってこないため、ここは清浄な深い森、という風情になってしまった。


 このあたりまで来ると、鳥類はいないということか、鳥の鳴き声もしない。風の音以外、なにも聞こえぬ静寂に包まれている。パン、チーズ、紅茶の軽い朝食をとった三人。


「近くに小川があるようだから、水を汲んで行こうか?」


 魔族だけが持つ野生の勘というのだろうか、ドロシーの耳はとても鋭い。彼女の言う通り、道を左に折れて少し降ると、清い水の流れがあった。


「ちょっと待ってね」


 ドロシーはリュックから長さ三センチ、直径一センチほど、短い試験管のような物を出した。中には試薬が入っている。試験管に水に入れて、試薬の色を確認する。


「大丈夫みたいね。水筒いっぱいに汲んで行こう」


 ここは魔の森、きれいで透明なただの水に見えても、毒物や、恐ろしい細菌が含まれている可能性がある。サバイバル技能に長けたドロシー、彼女が使ったのは、それらを検知する魔道具だ。


 水を補給した三人は元のルートに戻り、さらに森の奥を目指した。途中、干し肉、パン、水で昼食をとり先を急ぐ、そろそろ日が傾いてきた。アンジュの地図によると、ミシュラ・ワハームまでは残り十キロくらいだろう。


「やっぱり、明るい時間に到着した方がいいよな?」


「だね。この広場で、もう一泊しますか」


 昨日、薄く積もっていた雪はもうすでに蒸発し、木の根元に残るのみ、地面も乾いているようだ。三人は、木々が切れ、小さな広場になっている場所で、召喚獣を止めた。


「二晩、お風呂に入れないのは、ちょっと辛いですが、また昨晩のように、この子と寝ましょう」


クンクン


「ちょっと、ドロシー」


「濃厚なスズランの香り」


「もぅ!」


「あはは」


「ドロシー、彼女は俺の妻だということを忘れないでほしいな」


「私にとっては、お姉ちゃんだからね」


「はい、はい」


 三人は昨夜と同じようにシチューの夕食と取り、ヴァイスハーゼを枕に横になった。今夜は雲ひとつない晴れ渡った夜空。おまけに「新月」すなわちC星が出ていない。


 夜空には満天の星、まるで金剛石を流したような銀河は、十字架の意匠をもって空を彩る。光の帯に抗がうは、オレンジ、白、青白色、一等星がその煌めきを競い合っていた。


 ゆっくりと夜空を見上げるなんて、今まで経験したことがない。こんな日が来るとは、想像だにしなかった。なんだろう? この気持ち、私の辞書では、墨で黒く塗りつぶされていた言葉、「幸せ」。


 アンジュを差し置いて、私がこんな気持ちに包まれてしまって、いいの? 幸せとアンジュへの背徳感、行ったり来たり、ロゼはただ戸惑うばかり。


 と、その時、突然、ドロシーが耳打ちした。


「ロゼ、いい、あなたのフォービドゥン・アビリティは厳禁」


「は、はい」


「来てしまったようだね」


「相当強い、多分、ドラゴンクラスだと思うけど、一体だけだから僕とニールのフォービドゥン・アビリティで一気に倒そう!」


「なぜ、私が、使かってはいけないの?」


「フォービドゥン・アビリティのような強い魔法は、その痕跡を残す。俺たちくらいなら、せいぜい、ブレッドクラムを置く程度、ここまで来ればパン屑一つで、道を辿られる心配はない」


「お姉ちゃんのはさ、でっかい狼煙を上げるようなものだから」


 そこまでなのか! オステン戦では、攻城兵器を破壊しただけだが、あの場で五万全員を殺そうと思えば殺せた。そうなんだ、私って……。


「お姉ちゃんの力が凄いのは、別にお姉ちゃんの罪ではないからね?」


 いつもながら鋭すぎるドロシー、すかさずフォローが来た。


「う、うん、大丈夫だから」


 三人は素早くシュラフを出て、ロゼは敵に飛び掛かろうと構えるヴァイスハーゼを押さえた。


ギッギッ バリバリバリ


 木々を倒しながら、広場に遭われたのは、スタンディングタイプのドラゴン、身の丈は六メートルほどあるだろうか。鋭い牙が並ぶ巨大な口と大きな頭に比して貧弱な前足、鋭い鉤爪をもった大きな足、その姿はティラノサウルスそのものだ。


 地球の恐竜との相違点は、額にある螺旋状の角と皮膚の色だろう。炎のような紅い輝きを放っている。


 爬虫類系の魔獣は脳がそれほど大きくなく、哺乳類のような知恵はない。人の気配を感じたら、闇雲に襲ってくるのが常だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ