二振りの聖剣
二人は山犬亭に戻り、夕食を供にした。昨夜の反省に立ってニールはサーベル、ロゼも今買ったホルスターにフツノミタマを挿し、帯剣をした上で、食堂の席に座った。
「イーサは、どうしてもお肉料理中心ですが、今夜はアイスバインなど、いかがですか?」
塩漬けの豚すね肉を、タマネギ、セロリ、クローブなどの香辛料とともに煮込こむ茹で豚料理。ソーセージ、シュニッツェルとともに、大概の食堂の定番料理となっている。注文をとりにきたウエイトレスに、ロゼは。
「マウルタッシェンはあるかしら?」
「はい」
「じゃ、それをまず。メインデッシュはアイスバインとパン、あと、ロゼワインを一本お願い」
「かしこまりました」
マウルタッシェンは水餃子といえばいいだろうか。パスタ生地にひき肉、玉ねぎ、ほうれん草などを詰めたラビオリを、鶏肉スープに浮かべたものだ。
この二人が帯剣した際の殺気は大したものだ。昨夜の酔っ払いのように、魔力が弱く、勘が鈍い男でも、十分にヤバイヤツと感じでもらえるだろう。
その証拠に、夕食時で混んでいるにも関わらず、彼らの周りのテーブルは全て空席となってしまっている。
「これは、これで、目立ってしまいますね」
「ああ、なかなか加減が難しいが、内緒話をするには、ちょうどいいかな。フツノミタマのことだが、まるで、君のためにある短剣のようだ。なんだか運命を感じるよ」
聖剣と呼ばれるアメノハバキリは勇者の光属性魔力を糧に魔法剣となり、その切れ味、威力が増す。だが、サブウエポンであるフツノミタマは光属性の魔力には全く反応しない。勇者が使っても普通の短剣と特に変わりはないのだ。
だが、先ほどのロゼの戦いを見ていて、ニールが唖然としたのは、彼女の動きが尋常ならざるものだったから、だけではない。ロゼはさも当然のことのように、フツノミタマを魔法剣として使っていたのだ。この剣はロゼのような闇属性を持つ者に使われた時、その真価を発揮するらしい。
「フツノミタマは、いつごろから勇者の家に伝わっているのですか?」
「三百年前くらいだろうか? アメノハバキリは五百年と伝え聞くから、対を成すといっても、後付けでセットにしたことになるかな」
「三百年前というと、リバとイーサが袂を分かったあたりでしょうか?」
「ああ、リバから見れば、イーサから独立したといことになるのだけど」
どこかポーランドとドイツに似たリバとイーサ、いずれもコーカソイド系の人族が住んではいるが、厳密にみればリバ人とイーサ人は別種族だ。
元々はイーサがリバを支配する形で二つの国は一つだったが、三百年ほど前、ある事件をきっかけに、リバの民が独立運動を起こし新国家を樹立した、という歴史がある。
「もしかしたら、フツノミタマは、ブラッディローズの短剣だったのかもしれませんね」
「ああ、そういうことで、間違いない気がするね。リバ独立の混乱の中、なぜか勇者が所有することになった」
「ということは、三百年前までは、勇者とブラッディローズは協力して国を守っていたと」
「かもしれないね。ならば、今の俺たちは、本来の姿に戻ったということになる」
「国を守ってはいませんが……」
「そこは、あまり深く考えない方がいいんじゃないか?」
「ですね」
そんな会話をして二人は夕食を片付け、ワインを二本空けた後、自室に引き上げた。
再びシャワーを浴びて、ベッドに並んで座る。二度目の夜、キスが来た。どこか硬い感じのするキス、ふと、アンジュの柔らかいキスを思い出してしまう。でも、これはこれで悪くない、ロゼはニールの首に手を回して、さらなるキスをせがんだ。
二度目の交わりでは、ずいぶんと痛みも少なくなった。
ちなみに、エロ漫画、エロゲーなどは、エロという作られた架空の世界を楽しむものだ。あのような仮想現実世界の「快感」などというものは、本来、存在しない。現実の情交は、愛する人との絆を確認する行為、愛しい人とひとつになる満ち足りた時を過ごすものなのだろう。
翌朝、この街は森に近い、大きなキツツキ、クマゲラだろうか、響くようなドラミングの音で目が覚めたロゼ、ベッドから起き出して、窓を開ける、肌を刺すような寒風、その清洌な空気に、心身が洗われるようだ、清浄の魔法が部屋に満ちてくる。
「おはよう」
愛しい人の頬を軽くなでた。そうだ! ロゼは、今さらながら気付いてしまった、彼が男性だということに、ほんのわずか伸びた髭が手に当たる。
「おはよう」
「お先にどうぞ」
ベッドから起き出したニールは、魔道具のシェーバーで髭を剃り、顔を洗った。
「男の人は簡単でいいわね」
と言ったロゼだが、地球に比べれば、この世界のメイクはいたって簡単だ。洗顔料を使って顔を洗うまでは同じ。ベースメイク魔道具は、頬に当てればファンデとチークが、いい具合に塗られてしまう。
リップも唇に当たるだけ。アイメイクも魔道具を目に当てると、シャドーとアイラインが綺麗に入る。右目、左目の順でアイメイクを終えたロゼは、洗面所を出た。
「じゃ、食事をして国境を超え、ヒルトハイムかな。そこで準備を整えて、いよいよ魔の森へだね」
「ああ、そうそう、私用の召喚獣もお願いね」
「そうだった、適当なヤツがいればいいのだけど」




