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X'mas Rose〜聖夜に咲く白き薔薇は紅に染まる  作者: 里井雪


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鹿型魔獣

 宿屋から外に出てみれば、昨晩の雪が路肩に残っている。吐く息も白い寒い朝だが、常人ではない二人の歩みは速い。街外れに出たところで、ニールはロートハーゼを召喚した。


「さて、行こうか」


 春には一面緑なすクローバーは枯れ、所々に根雪が残る冬の平原をロートハーゼは疾走する。魔法の外套を着ていると、寒さを感じることはなく、頬に当たる冷たい風がむしろ心地よい。


「あれは?」


 魔獣というものは、お互いの格付けにとても敏感な生き物だ。ロートハーゼのような高レベルの召喚獣に乗っていれば、いわゆる雑魚が寄ってくることはない。


 ロゼがさし示したのは、大きな鹿型の魔獣、木の枝のような立派な左右二本に加えて、真ん中に螺旋状の角があるのは、魔獣の証ということか。漆黒の滑らかな肌、血のように赤い目、草食獣の形とはいえ、ずいぶんと凶暴そうだ。


「ロゼ、試してみないか? 俺の経験からいえば、高位の加護を持つ者、習わずとも剣が使えると思うが……」


「いきなり実践ですか、先生。でも、やってみましょう」


「じゃ、これを。間合いに気を付けて、ま、魔法で殺してしまったら、しまったで」


 ニールはブラッディローズの力が絶大な保険となっていることを承知の上で、無茶振りをしたようだ。リュックの中から、短剣を取り出し、ロゼに渡した。


「魔獣も首が急所ですか?」


「ああ、このあたりを狙うといい」


 ニールは自分の頸動脈のあたりを撫でて、ロゼに説明した。ロゼはロートハーゼから降り、ヒルシュホルンと呼ばれている鹿型魔獣に向かって走る。


 チーターは百メートルを三秒で走るといわれているが、それはトップスピードまで加速した後の話だ。一ミリセカンドで数百キロまで加速したロゼ。


 数百メートルは先にいたヒルシュホルンとの距離は、一秒もかからず、わずか五メートルとなった。ロゼが放つ殺気に気付いたのだろう、大鹿は驚いて逃げようとする。


 素早い動作で踵を返し、後ろに走ろうとした魔獣だが、ロゼの動きがこれを上回った。そのまま、ジャンプして一瞬でゼロ距離に詰め寄るロゼ、すれ違い様に、短剣で大鹿魔獣の頸部を薙いだ。


 そのまま着地したロゼは次の瞬間、素早く後ろに飛ぶ。返り血を浴びるのを嫌った動作だが、助走なしで十メートルはジャンプしている。慌てて追いついて見ていたニールは、予想を遥かに上回る神技にあんぐりと口を開けてしまった。


 ロゼのとてつもない素早さ、その相対で時間が止まって見える、背面ジャンプの着地に合わせたかのように、大鹿魔獣の頸部から血が噴出した。噴水のような血の雨は、褐色の枯野を朱に染めた。


 このように魔獣は普通の獣と同じ、斬れば血も出るし、一旦は死骸となって横たわる。だが、ここからが、魔獣の、この異世界の不思議なところだ。


 本来、魔獣は、隠世の存在。何らかの理由で、現世と隠世が交わる時、こちら側に湧き出る。であるが故に、死んだ魔獣は、黄金色に輝く光の泡となり隠世に帰るのだ。


 しばらくすると、大鹿魔獣も流した血も、跡形もなく消え去り、そこには差し渡し二十センチほどの、空色の宝石、氷の魔石が残されていた。


「凄い魔石ですね。高く売れるのでは?」


「そうだなぁ、金貨十枚くらいにはなりそうな大きさだが、換金はやっかいかもしれない。冒険者ギルドに持ち込めば、否が応でも目立ってしまう」


 ちなみに、この世界の魔石、エネルギー資源の流通は、冒険者ギルドが独占している。


 元々、魔獣を退治し治安を維持したり、行商人の護衛などを生業にしてきた冒険者だったが、二百年前に起きたこの世界の産業革命以降、そのポジショニングが変わった。


 魔石がエネルギー資源として有用だと判明した時、大きなパラダイムシフトが起こり、社会のヒエラルキーがひっくり返った。


 冒険者ギルドは、一夜にして「石油メジャー」となったわけだ。すなわち、国家に並び立つような権力を持つ存在に化けた。当然、そこで働く冒険者たちの地位も大きく向上し、貴族でもなく平民でもない自由民として、社会的な特権を与えらることになる。


「ヒルトハイムのギルドマスターなら、俺の古くからの知り合いだから、何とかなるかもしれないかな? 間違いなく、身バレするだろうけど、彼女なら大丈夫だと思う」


 国境を超えたリバのヒルトハイムは、人族領の中で魔の森に最も近い街で、ニールが幼い頃、父と修行する時のベースキャンプになっていた。そんな縁で、冒険者ギルドとも何かと交流がある、ということらしい。


「ひとまず、冒険者ギルドの話は置くとして……。いやいや、今のロゼの動き、習ったことはないと言っていたよね? それ、本当? 加護の力によることは確だが、いくらなんでも、ここまでできるなんて信じられないよ」


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