ロゼの力
ウエイトレスが食事を運んできた。ニールとロゼが、パンとシュニッツェル食し、ワインを飲んでいると。
「おーーい、そこの、エルフの姉ちゃん、なかなか可愛いいじゃねぇか、そんなヒョロヒョロ男じゃなくて、俺と遊ばねえかぁ、俺のあっちは、よぉ〜 そいつなんかより二倍は大きいぜ、一晩、ヒィヒィ、鳴かせてやるけどよぉ〜」
どこにでもいる酒乱タイプの冒険者だ。でっぷりと太った体は、糖尿病でも患っていそうで、大きくても役に立たないのではないか?
汗と臭い口臭を撒き散らしながら、ロゼの肩に手を掛けようとした。咄嗟に、庇おうとしたニールを目で止めたロゼは、軽くその男の手首を掴む。
「イ、イテテテテ!!!」
ロゼは本当に軽く、親指と人差し指で、男の手首を巻いただけだが、このデブには、万力で締められたように感じるだろう。加護の力恐るべし、ロゼの持つ加護全体の中で、力、STRの強化は最も小さい、それでも十分に「人」の領域を超えている。
「いいこと、私の、この肩も、この体も、愛しい人のためにあるの、あなたになんか、触らせてあげないわ。このまま手首を折るけど、いいかしら? なんなら手足も首を折って差し上げましょうか?」
「わ、分かった、すまない、すなない、もう手出しはしないと誓うから、どうか許してくれ」
手を離すロゼ。
「この、アマ!!」
お約束の逆ギレ行動、男は腰の短剣に手を掛けようとした。
グキ!
男の手が短剣の柄に届くより速く、ロゼは指パッチンをするように、人差し指一本で軽く男の手、その四指を下から上に弾く。男の人差し指から小指は手の甲に向かって妙な曲がり方をして折れた。
「ウグググ、グワァァアァーー!!!」
激痛にその場に蹲る男。騒ぎを聞いた宿屋の主人が大慌てで駆けつけてきた。
「バカか、お前は! この方々は、Aランクの冒険者だぞ! 命があっただけ幸運だと思え」
主人は丁寧に頭を下げた。
「申し訳ございません。私としたことが、気付くのが遅くなってしまいました。もう一本、奢らせていだたきますので、どうか、ご勘弁を」
と言って、主人は男を連れ、フロントの方へ去って行った。
「いいから、こっちへ来い。分かった、分かった、大の男が泣くんじゃねぇ〜 後で治癒魔法士に直してもらうから」
「凄いな。ロ、オリヴィア」
「さすがに、護身術くらいは、習ってるわよ」
「そうだ、今度、剣術を教えてあげようか?」
「いいわね。二人で魔獣を狩って収入を得る、クリーニング屋さんより稼ぎがよさそうだわ」
二人はもう一本のロゼワインを、瞬く間に空にして、部屋に戻った。
翌朝、今日も晴れたいい天気だ。窓から見えるイチョウの木に付いた雪が、朝日を反射して輝いている。二人はパン、コーヒー、スクランブルエッグにソーセージという、ワンパターンな朝食を食堂で食べ、チェックアウトした。
「では、お世話になりました」
「じゃ、銀貨一枚で」
「え? 一人銀貨一枚では?」
「せめてもの、お詫びさ。昨晩は申し訳なかった。どうか、人族がみんな、あんなのだとは思わないでくれよ」
「もちろんです、どんな種族にも、酔っ払いはいます。善人ばかりの種族、悪人ばかりの種族など、存在しませんから」
「そう言ってもらえると、嬉しいよ。こういう商売をやってるから、各国の事情はよく聞いている。だから、人類は兄弟姉妹などと子供みたいな事は言わんよ。だけど、人族とエルフ族、魔族なんかも含め、もっと交流していくべきだと思うんだ。共存共栄じゃないか! 普通に考えて、経済協力しようというシンプルな発想に、なんで至らないんだろうね?」
「宗教的な建前でしょうか? 確かに、お互い、もっと功利主義的であってもいいと思います」
「各国の事情」という言葉に、ビクリと反応したニール、主人が一般論に移ったのを聞いて、安堵の表情を浮かべつつ、そつない答えを返した。
「聖職者と称しているけれど、『あなたが仕えているのは、神ですか? それとも、教義ですか?』と言いたい方、多数いらっしゃいますからね」
「その通り、オリヴィアさん、顔に似合わず、きついこと言うね。それはそうと、撃退はされたようだが、オステンがリバを侵略しようとしたじゃないか。他種族の前に、まずは人族同士の平和だな」
「道のりは長いかもしれませんが、地道に努力するということでしょう。大変、貴重なお話ありがとうございました」
主人とニール、ロゼはそれぞれ握手を交わした。
「すまない、ついつい長話しちまって。昨晩の件を謝るだけのつもりだったんだがね。道中気を付けて……。ああ、お二人さんの実力からすれば、危険などあり得ないか。じゃ、いい旅を」
「ありがとうございました」「おじさんも、お元気で」




