アガーテたち
魔力を使い切ったニールを気遣うように、ロゼは森の中をゆっくりとシャルトガルトに向かった。
「あっ! いけない! 忘れてた。これを!」
ニールはシンプルなデザインの銀の指輪を差し出した。
「これは?」
「ああ、以前、ドルティアで街に出る時に使っただろう? 変装の指輪だよ。俺たちの見た目が指輪に設定された姿に変わるはずなのだが……」
二人は笑顔を交わしながら左手の薬指に指輪を嵌めた。
「ああ、この指輪、アガーテが気を利かせてくれたんだけど、今回はどんな姿になるのかを聞きそびれた。困ったな、俺たちには自分がどう変わったのかが分からない」
以前説明したように、この指輪には精神操作の魔法が掛かっているだけ、着けた当人たちの魔力が強過ぎると、自分の変身後の姿が分からず、少々不便なことになってしまう。
「それは、お楽しみということで、いいのでは?」
「まぁ、そうだな。アガーテ、ああ見えて思慮深いタイプだしな」
ところで、この指輪をくれたアガーテたちだが……。
ここは、リバの首都、ワルバードの冒険者ギルド。この世界の風俗、中世風というより、何から何まで地球のRPGワールドにそっくりだ。
もしかしたら、因果関係は逆で、こちらの世界の住人が、地球人に転生して、RPGというものを創ったのかもしれないが。
その話はさておき、冒険者という職業があることは以前にも述べたが、ギルドがあり、そのギルドは酒場も兼ねているという点もそのままだ。
当日の狩りを終え、夕食のテーブルを囲むアガーテ、ドロシー、トーネード、メニューはコトレト・スハボヴィ、豚のカツレツだ。ビールを飲みながら、額を寄せ何やら小声で話す三人。
「そろそろ、ニール、ロゼに会えたころかな? 攫われの姫様が、納得してくれればいいのだけれど」
と、ドロシーが口火を切った。
「どうかなぁ。でも、あのニールの様子なら、口説いてるんじゃない? トーネードは複雑かもだけど」
チラ、とトーネードに視線を送るアガーテ、ドロシーはキョトンとしている。
「アガーテが、何を言いたいのか分からんけど、俺も二人のことは応援してるんだぜ」
「そうだよね。応援、応援だよ、僕ももちろん、そうだよ。だけどさぁ〜」
ドロシーもトーネードも忸怩たる思いがないといえば嘘になるだろう。『大好きな人が、自分を好きにならずとも、幸せでいてくれることが、私にとっての一番の幸せ』などと『CCさ●ら』知●ちゃんのように達観はできない。
そうはいっても、二人には、何をおいても幸せになってほしい。複雑ではあるが、自身の善意、その衷心に偽りはない、そう思っている二人。
「どうしたの? ドロシーもトーネードもボケーっとして、らしくもない。そろそろ、私たちも潮時ってことでしょ?」
アガーテが物思いに沈む二人に現実を突きつけた。
「あの王様だからなぁ〜 勇者の行き先を吐けとか、なんとか、言ってくるってことかい?」
「それも覚悟の上で、ニールを応援したんだから、後悔はないよ。だけど、あの王、ああ見えて甘くはないと思うよ。ニールは早晩、国家反逆罪で指名手配される」
「俺たちは、共謀者、犯罪人ってことになるのかい?」
「ま、それは間違いないでしょうね。でも、国から追われる身となろうとも、ロゼへの非道許すまじ、と私は決意したつもりよ」
「アガーテってツンデレだよね。本当は三人の中で、一番、正義感が強い」
「つまらないお世辞はいいからさ。で、ドロシーは、どこへ逃げるの?」
「僕はクトゥル・アル・シュタールへ行こうと思う」
「え! 魔族の国! 彼らは一戦交えた相手だぜ?」
「僕なら大丈夫だと思うんだ。彼らとの混血だし、そもそも、魔族は強い者に敬意を示す種族だからね」
「昨日の敵は今日の友ってこと? ま、確かに、敵といっても直接殺し合ったわけでもなし」
「ま、そんなところかな」
「さすがに、私たちが同行するのは難しいわね」
「そうでもないとは思うけど……。まぁ、念には念を入れ、僕が先行して、二人が来ても大丈夫かを確認してからが、いいかもしれないね」
「俺たちはさ、ドロシーと違って、目立つ容姿じゃない、ただのモブ。そのあたりに転がってる石ころになれるはずだろ? イーサに行って紛れちゃおうぜ」
と、アガーテを見てトーネードは言った。
「それがいいわね。じゃ、これ、変装の指輪、三人分。トーネード、私じゃ不満だと思うけれど、旅の夫婦って触れ込みで、私たちはミュルンを目指しましょう」
「え! 首都へ行くのかい!!」
「僕の経験からも、木を隠すには森、潜伏先は大都市の方がいいと思うよ」
「さすが、ドロシー分かってるわね」
「じゃ、善は急げね。今夜中に荷物をまとめて、王宮の手配が回らない内に、街を出ましょう」
そう言った三人はギルドを出て家路を急いだ。




