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X'mas Rose〜聖夜に咲く白き薔薇は紅に染まる  作者: 里井雪


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和平会議

「この度は、我がオステン帝国、並びに、クトゥル・アル・シュタールが、貴国に多大なる被害を与えたこと、心よりお詫び申し上げる。にもかかわらず、リバ王、偉大なるカリフ・アデールの寛大なるご配慮により、両国の王を助命いただいたこと、恐悦至極にございます」


 ひとまず、侵略の首謀国であるオステンの外務大臣が、定型句の詫びを入れた。


「うむ、相分かった、余は、つまらぬ儀礼は好まぬ。率直に賠償金の話をしようではないか」


 え!! ちょっと待て! 王の隣に控えていた勇者ニールはリバ王の対応に驚いていた。


 フランクな振りをしただけで、ただ、面倒なのではないか? あるいは、強国オステンの影に未だ怯えているのか?


 ドルティアはロゼの活躍により無傷だったが、カロブレフでは、兵はもちろん、一般人にも多数の死傷者が出ている。さらにはオステン軍の戦時法違反行為も多数行われていた。


 オステンの将校や兵を軍事裁判にかけることからはじめ、王は助命するとしても、関係者、責任者の何名かは、見せしめとして首を刎ねてしまうべきなのだ。


 斬首は野蛮な行為だが、オステンの略奪や女性への蛮行は許し難く、二度と行われてはならないこと。関係将校の首は、カロブレフの城門を彩るオブジェとならねばならぬ。


「軍の通過を認め、補給の手助けをした、クトゥル・アル・シュタールも、敗戦の責を負っておるのは事実。じゃが、我が魔族は一人たりとも人族を殺めてはおらんし、施設の破壊も行ってはおらん、従って、当方は賠償金のみをお支払いするつもりでおります。それで、ご勘弁願いたい」


「うむ。して、いくら払う?」


 この魔王、なに? のじゃロリ、偉そうな物言いだが、押さえるべきは押さえているようだ。ひとまず、魔族の方はいいだろう。ニールは、異形ともいえる魔王が、存外、常識的、論理的な考えを持っていることにも驚きを感じていた。


「金貨十万枚でいかがか?」


 日本円にすれば百億円換算だが、この世界の光熱費をはじめとした一般生活費が安いことを勘案すれば、もう少し価値のある賠償金だろう。


 直接の交戦国でない国が払う金額としては妥当な額と言える。もちろん、国家といえど即金でこのような大金を払うことはない、十年償還くらいになるだろうが、魔族国側は相当まともな話をしている。ニールは少しホッとした。


「で、オステン側は?」


「同じく、金貨十万枚でお願いしたい」


 な、何を言っている!! 正気か? 冗談じゃないぞ!


 リバが受けた被害を鑑みれば、将校全員処刑、かつ、その十倍でも足りないと思われる。魔王も渋い顔を通り越し、唖然とした表情で、オステンの外務大臣を睨んでいる。ニールは堪らず、会話に割って入った。


「そ、それは、いくらなんでも!」


「ま、まぁ、勇者ニールくん、直接、戦闘に関わった君の気持ちは、分からぬではないが、ここは、穏便に」


 もはや理解不能だ、この王は惰弱などという言葉では言い尽くせぬ。王たる職務を放棄しているとしか思えない。これでは、カロブレフで死んだ多数の人々に顔向けできない。


「よかろう、両国、同額の賠償金ということで、了解した」


 ニールは子供ではない、自分がこの場で、あれこれ言える立場にないことも承知している。彼は、血の出るほど唇を噛んで、耐えた、ひたすら耐えた。


 興奮していたニールは気付かなかったらしい。だが、この時、魔王ルドラがじっと彼を見つめていた。「コイツ、もしかして、使える男?」気脈を通じ合えるかもしれない、そう考えて秋波を送っていたのだろう。


 いずれにせよ、この会議を機にニールの気持ちは、王、いや、リバの国から離れてしまった。もういい、この王、この国に命を掛ける価値などない、彼は、そう考え、ある決断をした。





 一方、ロゼは、その日、何かの予感があったのだろうか。いつになく、彼女の心は晴れ、澄み切った湖のように穏やかな夜だった。カーテン越しにはC星が見える。今夜は一際大きく、血糊のように紅い。


「ロゼ様、今夜はご気分が、よいようにお見受けします」


 何度も何度も、感情の赴くままに怒鳴ってしまった、ロゼ。それでも、責めず、怯まず、忠誠を尽くすアンジュ、もはや、忠誠という言葉は正確でないかもしれない。


 身も心も捧げ尽くす、主人の供物となることを、ひたすら待ち望んている、被虐性癖すら感じさせる風情、側から見れば、ある種の凄み、いや、恐怖すら感じるような、二人の関係性だ。


「ええ、なんだか、妙に晴れやかなの」


 冬の風は清澄な冷たさをもって、レースのカーテンを揺らす。窓辺にもたれかかり、ハミングするように、小さな声で、ロゼは歌った。


〜♪

Sah ein Knab' ein Röslein stehn,……


 童は見たり 野中の薔薇

 清らに咲ける その色愛でつ

 飽かず眺む 紅匂う

 野中の薔薇

♪〜


 イーサの古語はどこかドイツ語に似ている。この歌詞もゲーテの詩そのものだ。ロゼの澄み切ったソプラノは、静かに、密やかに、夜の庭に満ちて行った。

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