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X'mas Rose〜聖夜に咲く白き薔薇は紅に染まる  作者: 里井雪


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告白

 見てはいけない秘密を見てしまった罪悪感、だけど()()であるアンジュに隠し事があったの? 分からない、理解できない。ただ黙って立ち尽くすロゼに、アンジュは観念したような調子で言った。


「ロゼ様は、なんでもお見通しなのですね。私は、王に拾われ、ロゼ様にこんなによくしてもらい、なのに、何一つ、何一つです、あなた様に、お返しできるものが、ございません」


「そんなぁ、アンジュは、十分、私に尽くしてくれているわ、むしろ、私こそ、籠の鳥の人生に付き合わせてしまって、申し訳なく思っているのよ」


「違います。違うのです。私は、あなた、ロゼ様、と一緒にいられるのなら、何もいらないです。この幸せを独り占めする自分が、許せない。だから、せめて、せめて、大した魔力もない役立たずの私が、できること、少しでも、ほんの僅かでも、あなた様の痛みを感じられればと」


「そ、それで、まさか……」


「馬鹿ですよね。こんなことをしても、なんの役にも立たないばかりか、むしろ、ロゼ様がお心を痛めてしまうだけ。だけど、どうにかして、あなたに、好きで好きで堪らない、あなたに近づきたくて……」


「そうね。あなたは、大馬鹿者よ。だから、お仕置きしてあげる」


 そう言って、ロゼは、アンジュをベッドに押さえつけ、口付けをした。


「初めてだったの。だから、これくらいで許してちょうだい。女同士って、どうするのかは知らないけれど、万が一にも、あなたを殺すことになってしまうのが怖いから」


 分かった、全て理解した。アンジュの好きは、私の好きとは、別のもの。女同士の愛というものが、存在することは知っていたし、それは宗教上のタブーだとも知っていた。


 だけど、リバで見たあの絵、あんなにも純粋に愛を貫けるものなのだ。「愛の前に性別など大した意味をなさない」という真理をロゼは理解している。


「同性愛は罪、もしこれ以上のことをしてしまえば、ロゼ様に災禍が及ぶやもしれません。ですが、ロゼ様、もう十分でございます。あなたに口付けをいただいた、その瞬間から、私にとっての死は、取るに足らない些事に、成り果てました」


「そう、なら、もう一回」


 この国の慣習として、キスは挨拶代わり、だが、それは親族など、ごくごく親しい者同士でするもの、主人がメイドに口付けるなど、常識外れと見做されてしまうだろう。でも、誰かに見つかっても、通報されることはないわよね? ロゼはそう思った。


 ロゼの性的指向は男性に向いている。叶わぬ恋と知りつつもニールが好きだ。だが一方、とても、とても大切な人、血のつながった親子兄弟はおろか親類縁者すらいないロゼにとって、唯一無二の家族であるアンジュ、彼女が幸せな気分になれるのなら、全てを差し出しても、なんの後悔もない。


 だが、アンジュの言う通りだろう、そのために、双方が破滅することは避けねばならない。命が惜しいからでない、自分が死ねばアンジュが悲しむから、その逆もまた真なりである。


「さあ、もう、これは、明日、花壇の隅に埋めてしまいましょう」


「そうですね。失礼しました」


「傷は痛む? 私に、治癒魔法の才があればいいのだけれど」


「あ、そうだ! ちょっと待ってて」


 ロゼは自室に戻り、薬箱から丸薬を取り出し、持ってきた。


「これを飲んでおきなさい」


「これは?」


「いいから、深くは聞かないで」


 ロゼがアンジュに飲ませたのは抗細菌薬だ。自傷行為ともいえる出血、ディルドは彼女の膣内も傷つけているに違いない。この薬は感染を恐れた、保険ということだ。


 この世界の魔法文明は、物質文明の科学とは異なる独自の発展を遂げている。抗細菌薬、以前、述べたように抗ウイルス薬も存在する。だが、彼らは、「なぜ、この薬が効くのか?」というメカニズムを把握している訳ではない。


 傷口を治癒魔法で塞いでも、後に高熱が出ることがある、という経験則があり、それに対処する魔法的な閃き、啓示のようなものを受けた魔導士が書いた書物などにより、症例を積み重ねているに過ぎない、ということだ。


 従って、これらの秘薬が有効であるにも関わらず、魔法世界であるが故の迷信、誤認識によって、不治の病とされている病気もある。例えばハンセン病は、患者の外見に惑わされ、「呪いによるもの」とされている。


「じゃ、もう寝ましょうか? あ、それから」


「はい?」


「明日から、私を起こす時、寝覚めのキスをちょうだい」


「それは、恐れ多いかと」


「何を言っているの、あなたは、私にとってこの世でたった一人の家族。アンジュの幸せは、私の幸せでもあるのだから」


「かしこまりました」


 もちろんアンジュは知っている。ロゼの気持ちが自分に向いていないこと、彼女がニールに恋をしていることも。とはいえ、確かに感じる、彼女の強い家族愛を。同性愛のタブーがあるくらいなのだ、この世界におけるインセストタブーも、また罪とされている。


 ならば、私は、実の姉に懸想してしまったということなのね。二重にタブーを犯している私、なんて罪深いのかしら……。幸福感と、どこか後ろめたい気持ち、アンジュの心は混沌の渦だ。


「じゃ、おやすみなさい」


「おやすみなさいませ」

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