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X'mas Rose〜聖夜に咲く白き薔薇は紅に染まる  作者: 里井雪


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涙のわけ

 王宮玄関先に来客の気配がする、三階に人が上がってくる! アンジュは廊下を走る……、いや、メイドである自分がそんなはしたない振る舞いはできない。早足で迎えに出た。


「ロ、ロゼ様、な……、おかえりなさいませ」


 おかえりなさい、より、ロゼの涙に動揺するアンジュ、だが、「泣いて」という言葉は飲み込んだ。


「ただいま。アンジュ、大丈夫よ、目にゴミが入っただけだから」


 ロゼの涙のわけが、ゴミなどではないことは、火を見るよりも明らかだ。直感的にアンジュは理解した、これは恋の涙だと。


 ロゼを案じ気遣う気持ちと、抑えても、抑えても、湧き上がる嫉妬心、だけど、こういうときこそ、笑顔で。


「ロゼ様、涙でお化粧が台無しです。それに、そのお姿、とてもほこりっぽく思います、どうぞ、シャワーを浴びてくださいませ。お着替えを準備いたします故。ああ、お髪もこんなに乱れて、はやく、こちらへ」


「では、私は、これで!」


 門兵は敬礼をして、持ち場に戻って行った。


 シャワーを浴びた、ロゼの着替えを手伝うアンジュ、ロゼはいつも着慣れた喪服のような黒いドレスに袖を通した。


「なんだが、ドレスの方が落ち着くわ。この色も」


「さようでございますか。落ち着かれて、なによりです」


 椅子に座るロゼの髪を梳きながら、話すアンジュ。ここしばらく、とても、とても、不安だった、もし、万一、ロゼに何かあって、戻らなかったら。


 先ほどの涙でも分かる、ロゼは、再び始まる幽閉生活に心塞ぐ思いなのだろう。だけど、私は、そんな主人とは裏腹に、とても、とても満ち足りている。


 最愛の人が傍にいる。それだけもう、全ての幸せを手にしている自分。今、この瞬間、小柄なロゼの背後から、力の限り抱きしめたい。


 後ろめたい高揚感、そして、それから……。


「では、ご昼食にサンドイッチでもいかがですか? 私、厨房に行って、もらってきます。ああ、先に、お紅茶入れますね」


 アンジュは魔法のポットでお湯を沸かし、ベルガモットの香りのついた紅茶をティーポットに入れた。ポットにデイジーの刺繍が施されたグレーの保温カバーを掛ける。


 蒸らし時間を計る砂時計の砂が落ちていく、しばし見つめていたアンジュは、魔法の製氷機から氷を取りだし、複雑な紋様が施されたクリスタルグラスに入れる。濃い目の紅茶をグラスに注いだ。


「どうぞ、ロゼ様が、お好きな香りの紅茶、用意しておきました」


「ありがとう」


 アンジュは、ずっと幼い時から一緒にいた、私のことは何でも知っている。ベルガモット、ミント、ローズ、香料入りの紅茶が好き、でもなにより、リーフが長くブランデーのような香りのする紅茶が好き。青い背のお魚が苦手で、ビネガーとレモンを大量に掛けないと口にできない、全て、全て、アンジュは知っている。


 しばらくして、アンジュが厨房から戻ってきた。


「すいません、残り物しなかくて、卵とレタスだけになってしまいました」


「十分よ、自分の分ももらってきたの?」


「はい」


「紅茶は?」


「さきほどの、残りをいただきます」


 二人はベッドルームの窓際に置かれたチーク材のテーブルに向かい合わせに座った。メイドが主人と一緒に食事するなどというのは、この世界でも一般的ではない。アンジュはメイドの制服を着ているだけで、ロゼにとっては家族と同じだ。身寄りのない二人、ずっと肩を寄せて暮らしてきた。


 勇者という存在は、いい意味でも、悪い意味でも、そんな日常に一石を投じたといえる。だが、朝咲いたムクゲの花は、もう萎んでしまった、ロゼにとっては儚い夢であったのだろう。


 夢? 今回の事件は本当に、夢という偶然の積み重ねの結果だったのだろうか? あまりにも出来すぎている、どこか、誰かの作為を感じずにはいられない。


 そんなことができる者がいるとすれば……。


 考えてもみてほしい。地球の科学者ダーウィンのいうように、生物の進化が突然変異と淘汰だったとして、地球にもこの星にも、全く同じ偶然が重なり、人類、ホモ・サピエンスが存在するというのか?


 さらに、三連恒星の中でA星の惑星であるこの星だが、その自転周期は24時間、公転周期は365日だ。A、B両星の位置関係で決まる季節も、なぜか春夏秋冬の四季、時間の単位についても、地球と全く同一だ。


 もう一つある、この星から遠く、月程度の大きさにしか見えないC星は、満月にあたる最も大きく見える日から次までの周期が約30日、これを一カ月として、一年を十二カ月とするのがこの世界の暦なのだ。


 ここまで同じとなれば、もはや疑いの余地はない。作為持つ者、神の存在が。


 ロゼもニールもアンジュも、その御手の上、神という脚本家が命じるままに、劇を演じる役者に過ぎぬ、そういうことなのかもしれない。

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