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X'mas Rose〜聖夜に咲く白き薔薇は紅に染まる  作者: 里井雪


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束の間のデート

 そんな、甘い夜もあったが、以降、ロゼはニールと二人、あるいは皆連れ立って、バリエーションを変えながら、少しずつ平時に戻っていくドルティアを楽しんだ。


 五日目の夜、勇者パーティの夕食席にウーシュカがやってきた。


「斥候の報告によると、オステン軍の撤退が始まったようです。今朝ほど、私のところに使者が来まして、停戦協定について打ち合わせました。さすがに、もう大丈夫でしょう。ですが、待機は皆様の休暇という側面もありますでしょうから、お戻りになるのは、約束通り一週間で変わらず、ということで、よいかと思います」


「休暇までご配慮いただき、ありがとうございます。では、明後日朝、私はロゼ殿とイーサへ、その他のメンバーはワルバードに帰還いたします」


「停戦協定会談は、一ヶ月後、ワルバードで行われる予定です。ニール様はそれまでに、お戻りください」


 オステン軍から仕掛けた戦争、リバのカロブレフは壊滅といってもよいくらいの大きな被害を受けている。「停戦します」「はい、さようでございますか」で、済むはずもない。


 正式な停戦に向けた、賠償金などの交渉は戦勝国となったリバの首都ワルバードで行われるらしい。


 撤退が遅れたのは、大将本人が首を落とされ、最終決裁者が不在となったオステン東方軍、どうやら本国に停戦の可否を問い合わせていたらしい。


 オステン皇帝フォルセイス・マスリュコフは、怒髪天をつくがごとくだったらしいが、ロゼの魔法が本物だという報告は信じたようだ。フォルセイスという男、領土拡大欲に取り憑かれてはいるが、決して愚鈍ではない、五万の兵をむざと死なせる判断はしなかったのだろう。


「そうとなれば、ロゼ殿、今夜は夕食をご馳走させてください」


「いつもいつも申し訳ない。でも、ありがとうございます。よい、思い出になりそうですね」


 あれから五日、街の有名レストランが店開きをしたという情報も入ってきている。その名も「美食亭(ガストゥロノミー)」というこの街で最も有名な五つ星に、ニールは予約を入れていたらしい。


 嬉しい! 心が湧き立つ。ロゼはニールの自らへの想いを知っている。彼女もニールに恋愛感情を持っている自覚はある。


 だが、自身の魔法が二人を阻む物理的な障壁であることも熟知している。さらには、万一、ニールが無理を通せば、これを奇貨として両国間の争い、最悪、戦争が起きることも理解していた。


 ロゼは自らに繰り返し言い聞かせる。「この恋愛の成就は愛する人の死を意味する」ならば……。彼女は鉄の克己心を持って心に蓋をした。


 その夜、二人はフォーマルスーツとドレス姿で作戦本部を出た。ウーカシュの粋な計らいで、送迎は軍が手配する魔動車が用意された。二人は変装の指輪を使うことなく、白っぽい煉瓦を積みアーチ状の玄関のある、高級レストラン「美食亭」の扉を押した。


「いらっしゃいませ」


 店主自から迎えに出てくれたようだ。軽く腕を組む二人に全席の食事客の視線が集まる。


「おお、我が街をお救いくださった、英雄お二人のご来店だ!」


「本当に、ありがとうございました!」


 誰からともなく、拍手が湧き上がる。


「お幸せに」


 ロゼの魔法をよく知らぬリバの民からすれば、二人はリバ、ニーサ両国の友好の証、やがて結ばれるであろう、公認カップルと認識しているようだ。


「さっ、こちらの席へ」


 店主は店の奥の方にある特別席へ二人を案内した。この席は、一般席との間に仕切りが設けられており、個室のような造りとなっている。有名人の二人が、落ち着いて食事ができるようにという配慮だろう。


 ほどなく食事が運ばれてきた。


 まずは、アペリティフ、よく冷えたシャンパンだが、やや赤みがかったピンク色をしている。甘口で口当たりがいい。魔法の加護により、肝臓の機能が常人の域を超えている二人、アルコールを感じることなどないのだが、なぜか頬が火照ってきてしまうロゼ。


 ちなみに、ロゼの加護がとても強力といっても限界はある。彼女でも青酸カリのような猛毒を飲めばあっさり死んでしまう。もっとも青酸カリのビンを口に近づければ、ビンごと砂となってしまうのだが。


 さらにいえば、加護は「ステータスアップの力」であり、加護によって免疫力が高まるということはない。ロゼとて、普通に風邪はひく、インフルエンザには罹患する。


 続いて出て来たのは、スープ、マッシュルームの入った冷製ポタージュスープだ。さらに、川鱒のムニエル、ローストしてリンゴで煮た鴨、付け合わせは、クレソン、ポテトのクリーム煮、人参のグラッセ、祝杯の時に出ていたロゼワインを飲みながら、いただく。


 アイスクリームはないこの世界だが、デーザートにはクリームブリュレが出てきた。苦いコーヒーとよく合う甘さだ。


 デザートを食していたら、店主が席に現れた。


「今夜はありがとうございました。これから定時の演奏サービスがありますので、是非、お聴きになってから、お帰りください」


 この世界にもピアノに酷似した楽器が存在する。そういえば、店の奥にはステージが設けられ、ピアノが置かれいた。開け放たれた個室のドア越しに、客からの拍手が聞こえた。ピアニストが登壇したようだ。

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