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X'mas Rose〜聖夜に咲く白き薔薇は紅に染まる  作者: 里井雪


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ベアトリーチェの肖像画

 順番に絵を見ていき、この先は、まだ整理されていない場所まで到達した三人。ロゼは飾ろうして、まだ、床に立てかけられている、少女の絵に目が行った。


 なぜかターバンのような布を巻いて振り返る少女は、息を呑むような美しさ。その瞳の輝きは見る人を魅了する。だが、なんだろう、この違和感は?


「とても美しい少女なのに、なぜか死の香りがします」


「ああ、やはり、霊感の強いロゼ殿、気になりますよね?」


「あんまり、お姉ちゃんには聞かせたくない、暗い物語だけどね……」


 これは、かつてリバに暮らした貴族の娘、ベアトリーチェの肖像画だ。ターバンのような布を巻いているのは、これから斬首されるため、長い髪が振り下ろす斧のじゃまにならないようにするためのもの。


 ベアトリーチェは、側付きのメイド・アンジェラとベッドの中にいたことを密告され、同性愛による性行為を犯罪とする悪法の餌食となった。


 彼女は高位の貴族の娘であったことから、リバの王は一計を案じた。裁判でベアトリーチェは「メイドに性行為を強要された」と、嘘の証言をする予定だったのだ。メイドだけに罪を着せる、ということだ。


 だが、彼女は、裁判官である王の目をまっすぐに見て、こう言った。


「私はアンジェラを心より愛しております。恥ずべき行為をした覚えなどございません」

 

 王はベアトリーチェに死刑を宣告せざるを得なかった。リバの人の多くは同性愛について鷹揚で、大っぴらにはしないが、ベアトリーチェとアンジェラに同情的だ。


 とりわけ、命を賭して愛の真実を貫いた、ベアトリーチェに共感する人も多く、九月十一日、彼女の命日には、絵画の前に手向の薔薇が、いつのまにか置かれているのだという。


 え!! アンジェラの名は、イーサ流に言えばアンジュ、偶然の一致なのだろうが、どこかベアトリーチェに自身を重ねてしまったロゼであった。


「最後に、すごい話を聞いてしまいましたが、そろそろ帰りましょうか?」


「ですね」「だねぇ〜」


 三人で作戦本部に戻ったら、すでに夕食準備が整っており、トーネードは早くも酔っているようだ。


「ちょっとぉ! しっかりしなさいよ。もぅ」


 姉さん女房のようにアガーテがトーネードをこずいた。なかなか二人はいいコンビなのかもしれない。そもそも、アガーテは俗にいうツンデレ、未だトーネードに思いを寄せている。だが、彼女自身も重々承知していた、これは叶わぬ恋だと。


 三人は早々、御相伴に預かり、それぞれ自室に引き上げた。


 歩き回ったものの、昨日、熟睡したからだろうか、夜が更けても、ロゼの目は冴え渡っている。本棚にあったリバの歴史書を読んでいたのだが、少し、飽きてしまった彼女は、窓を開けテラスに出た。


 この星には月、衛星はないが、第三の太陽、赤いC星が夜の空に浮かんでいる。夏の夜とて、パジャマ姿では少々肌寒い、部屋に戻ってクローゼットにあったガウンを羽織る。美術館で見た絵画、どうしても「彼女」のことが頭に浮かぶ。そう言えば、アンジュ、この歌が好きだったわよね。


〜♪

Tell her to make me a cambric shirt,

Parsley, sage, rosemary and thyme,

Without no seam nor fine needlework,

And then she'll be a true love of mine.

♪〜


 小さな声でハミングするように歌っていると、ロゼは人の気配を感じた。ちょうど隣の部屋のテラスにニールが出ていた。


「遠くに、素晴らしいソプラノを聴いてしまいましたので」


「あら、お上手ですこと。でも、これは、とても悲しい曲なのですよ」


 この曲はロゼがアンジュに教わったもの、その歌詞はどこか遠い島国の古語で書かれている。


「聞いたこともない言語です」


「はい、翻訳すると『縫い目も針仕事もなしでシャツを作る、そうすれば、彼女は私の恋人』」


「なんとも不思議な歌詞だ」


「現実には成し得ぬことを成した時、彼は私の恋人になる、すなわち、決して叶わぬ恋を唄っているのです」


「なるほど、歌詞はもちろん、そのメロディーといい、とても悲しい曲なのですね」


「これは、メイドのアンジュが好きな曲、私が彼女から教わったのです」


「そうですか、でも、今、あなたが、この曲を歌われたのは運命かもしれませんね。その歌詞に抗えと叱咤激励されたように思います。見ててください、私は不可能を可能にしてご覧にいれましょう」


「私を恋人にしたいということですか?」


「ええ、その通りです」


「冗談には冗談でお答えください。お気持ちはありがたいですが、現実はとても残酷です」


「本当にそうでしょうか?」


 ニールから感じる強い意志、だが天地がひっくり返ろうと、この恋が叶うことなどない。ロゼの当惑に感づいたのだろう。


「いや、失礼しました。これ以上、あなたを困らせてはいけませんね。そろそろ、寝るとしましょう」


「その通りですわ。おやすみなさい」


「おやすみ」

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