トーネードの過去
卒業後、トーネードは、家督を弟に譲り、騎士となる道を選び、騎士学校に入学、運命の出会いが待っていた。
彼と時を同じくして、ニールも父とのマンツーマン指導を終え、勇者としての教養を身につけるべく騎士学校に入学したのだ。
ニールは先代魔王を討った勇者の息子であり、その血統を継ぎ、幼いころから父の薫陶を受けている。勇者としての自負、その気負いは、ややもすれば傲慢さにも繋がる。このころのニールは少々、高慢だったようだ。
騎士学校では馬上槍の練習試合が勝ち残り戦形式行われていた。馬上という言い方をしたが、この世界によくいる有袋類、ケングルというカンガルー型獣のことだ。
ニールは馬上槍でも圧倒的な強さを発揮、今、九人を倒し十人目の相手と向き合っているところだった。
そこにどことなく貧相なケングルに乗って表れたのは、リバ人らしいブロンドの髪に碧眼だが、どこか貴族のお坊ちゃま風の男、どうみても好敵手となるうる相手には思えなかった。
「こんなヤツが十人目か……」
ニールは内心落胆していた。
ところが、試合が始まればニールは冷や汗にまみれた。その男の操馬術はどうだろう。自分の手足のように右に左に巧みにケングルを操る。突いたと思えば躱され、彼は一瞬にしてニールの懐に飛び込んできた。
敢えて短槍を選んでいたらしいが、彼の繰り出す槍の素早さは一本の槍が二本にも三本にも見えた。ニールは為すすべもなく敗北を喫した。この男こそ若き日のトーネードだった。
ニールは自らの傲慢さに教育的指導をしてくれた、トーネードを親友と見做し、将来の勇者パーティメンバーに誘った。
「ああ、お前、放っておくと、のぼせ上がるタイプだしな。俺が面倒みてやるよ」
トーネードは二つ返事で、その誘いを承諾した。実は、トーネード、ずっと以前からクラスの花形であるニールを意識していた。
ある日のこと、休み時間中ニールが長剣の練習を行なっているのを見るともなしに見ていたトーネード。
「アッ!」
ニールの飛び散る汗に、幼いころに感じたあの感覚がトーネードの中でフラッシュバックした。その日から、彼はチャンスを狙っていたのだ。練習試合でニールに勝つことができれば、目立たぬ自分に、彼は振り返ってくれるだろうと。
その夢は叶った。だが、ニールの実家であるリンハルト家は爵位は侯爵、トーネードのヴィレール家は子爵であり身分違いだ。騎士学校卒業後、トーネードは名目上ニールの従者として、勇者パーティの一員となることを選んだ。
メンバーのバランスを考え、得物は、得意の短槍を捨て短剣を選んだ。もっとも、彼のフォービドゥン・アビリティは「ハイド」。全ての気配を消す、というものであることからも、RPGジョブでいうところの「盗賊」資質を持っていたのかもしれない。
彼は、トラップ解除など冒険者としてのノウハウも率先して学び、便利屋としてパーティに貢献するよう、ひたむきに努力した。それは、ニールの側に、彼の横に立っていたい、という一途な想いからだったのだろう。
さて、話をロゼに戻そう。
翌朝、緑の多いこの街には、アカゲラも飛んでくる、チッチッチッという甲高い鳴き声に、ロゼは目を開けた。どうやら、あれから髪もとかささず、寝てしまったようだ。
しばらくは待機期間、のんびりと過ごせることだろう。ひとまず、イーサに帰ってからのことは、頭の外に追い出し楽しむしかない、気持ちを切り替えた、ロゼ。
だが、ロゼはもはやこの街で知らぬ人がいないほどの有名人だ、しかも、軍事の要である最重要人物が、物見遊山をしている、というのも体裁が悪い。そんなロゼの気持ちを察したのだろうか。
「ああ、じゃ、これを貸してあげる。一週間、デートを楽しみなさい」
朝食の時、アゲーテが差し出してくれたのは「変装の指輪」という魔道具で、精神操作魔法がかかっている。物理的に髪色や目の色が変わるというものではなく、あらかじめ設定された姿に、人の脳が誤認識するという効果がある。
実際の姿ではなく見た人の脳認知を誤魔化す魔法効果の指輪、であるが故、ロゼのように強い魔力を持つものには全く無効ということになる。
ただ、これを見破れるレベルの魔力を持つものは、そうそういないので、十分実用に耐える代物ではある。ただ、ロゼにとっては、自分がどんな姿に変装したのかが分からない。
アガーテによると、この世界によくいる金髪碧眼に見えているらしいのだが……。
「ねぇ、お姉ちゃん、今日だけデートのお邪魔をしてもいいかしら?」
「ちょっと、ドロシー」
アガーテの静止も聞かず、ドロシーはロゼの腕に絡みつく。
「一週間もあるのだから、一日くらい、いいでしょ?」
彼女も目立つ容姿なので、ブロンドのウィッグと茶色のコンタクトで変装している。




