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X'mas Rose〜聖夜に咲く白き薔薇は紅に染まる  作者: 里井雪


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タロット占い

 そんなロゼの気持ちを察したのだろうか、場を和ませる配慮がなんとアガーテから出た。


「さて、さて、何の取り柄もない勇者パーティにあって、唯一余興ができる私、どうです、ご希望の方、占って差し上げますよ」


 と言って準備してきたカードデッキを出すアガーテ、毒舌を除けば、案外、社交的な女性なのだろう。


 この世界のカード占いはタロットのワンオラクルに酷似している。占いをして欲しい人が、七十八枚のカードから一枚抜き、そのカードの意味を占い師が答える、というシンプルなものだ。


 だが、ここは魔法の世界、占いは、単なるお遊びではない。当たる、とてもよく当たる、魔法統計学的に五パーセントの有意水準がある、などと言われているのだ。


 逆に考えれば、それも地球の統計学と同じ、たとえ占いの結果がバッドエンドだったとしても、その結果は五パーセントの確率で棄却され、トゥルーエンドに至ることもある。


「おお、それは面白い。アガーテ殿の占いなら、かなり当たるでしょうからな」


 勇者、ロゼ、ドロシーという別格がいるので霞んでしまっているが、アガーテ、一般標準からすれば、かなり高位の魔導士だ。将校たちは、次々と占ってもらい、悲喜交々の表情を浮かべている。


「ロゼも、やってみる?」


「なんだか、怖いですわ。でも……」


 アガーテは丹念にカードをシャッフルし、広げてロゼに差し出した。


「これを」


「あら、死神の逆位置」


「え!」


「ああ、死神といっても、不吉ということではないのよ。現状の逆転、デッドロックしている何かがあれば、予想外の進展をする、という意味でもあるわ。あなたにとって、とても幸運な未来になるかもしれない」


「ありがとう、アガーテ」


「言っておくけど、私、占いでイカサマなんてしないからね。この間のこと、言い過ぎだった、言葉を選ぶべきだったと、反省はしているけど、忌憚ない私の気持ちであることには違いない。だから、謝るつもりもないの」


「重ねて、ありがとう。分かっているのよ、自分が世界一の愚か者だってことも」


「だからぁ〜 そういうところよ!」


「はい、はい、お二人さん、難しい話はそれくらいにして」


「こら! トーネード、酔っ払ってはダメと言われているでしょ」


 トーネードだけではない、一杯だけと上官に釘を刺されているにも関わらず、これを破る者もいるようだ。疲れも相待って、赤ら顔をしている将校が多い。


 ロゼが来てくれるまで、その力を示してくれるまで、彼らは死を覚悟していただろう。多少浮ついた気持ちになるのは、やむを得ぬところだ。


 とはいえ、さすがと言うべきか、リバの将校は軍機に忠実だ。二時間ほど続いた祝宴の中、本当に酔っ払っていたのは、トーネードのみ。他の将校たちは、宴が終わるや否や、持ち場に戻る者、休息をとる者、潮を引くように解散となった。


 宴席が終わり部屋に引き上げたロゼ、早朝に一度、フォービドゥン・アビリティを使っただけだが、精神的な疲れだろう、彼女には珍しいことだが、妙に体が重い。


 柔らかいキャメルのブーツは、いつもとても歩きやすいが、底に鉛を入れられたようだ。やっとのことで、シャワーを浴び、倒れ込むようベッドに横たわった。




 では、ここで……。ロゼが熟睡している時間を使って、今度はトーネードという男について、少し語っておくことにしよう。


 トーネードは、リバの国ヴィレール家の長子として生まれたが、幼い頃は体も小さく病弱だった。そんな彼を哀れんだのか、祖母が、か弱い美しい母から彼を奪いとり、病気と老いの匂う部屋の中で育てられることになる。


 ある日のこと、祖母と散歩をしていた時、幼いトーネードは騎士学校の教練を見学する機会に恵まれた。夏の前の曇り空、湿度が高いせいだろう空気が粘りを帯びているように感じられる。


 槍や剣は木製の模造品だが、鎧兜や盾は本物、実戦さながらの模擬戦が行われていた。木刀を打ち合う甲高い音が響く。初めて見る迫力ある戦闘シーンにトーネードの心は踊った。


 木刀とはいえ、打ち所が悪ければ骨折などの大怪我は避けられない。トーネードの横を担架に乗せられた怪我人が通る。足を打たれたのか打撲部分を庇いながら、騎士の息遣いは荒い。激しく上下する鍛え上げられた厚い胸。額から流れ落ちる汗と鎧の金属臭に混じった獣のような匂い。


 と、その時だった。彼の中に稲妻と表現すればいいだろうか。未だかつて感じたことのない感情が湧き上がった。


 この感情が何なのか、幼いトーネードには分からなかったが、彼は得体の知れない後ろめたさを感じていた。

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