フェイクのチョーカー
勇者パーティとウーカシュは、和かな面持ちで、民衆に手を振りながら帰途に着いた。当初、ドロシーに肩を貸してもらっていたロゼだが、少し顔色もよくなったのを確認したニールは、
「ロゼ殿、ちょっとそこの魔道具屋にご同行願えるか?」
杖と魔導書が描かれた木の看板がかかった魔道具屋を指差した。
「は、はい」
「ヒュー、ヒュー、二人っきりですか」
すかさず、ドロシーが茶々を入れる。
「ドロシー、あなたね、気の遣い過ぎなの。さっ、帰るわよ」
アガーテ、毒舌だが、皆のことをよく見ている。何気に彼女は思慮深いのかもしれない。女二人を追うように、トーネードとウーカシュは作戦本部に引き上げる。
残ったニールとロゼは、宿舎にほど近い魔道具屋に入った。
「やぁ、ゼッド、久しぶりだね」
「おお、誰かと思えばニール殿ではないか」
ゼッドと呼ばれた店主は、立派な口髭を生やし、大人にしては背が低い、ドワーフ族なのだろう。地球で流行していた異世界物と同様、この世界にも、ドワーフ、ハーフリング、エルフ、獣人など、お馴染みの魔法種族がいる。
だが、この世界全体として人種隔離政策をとる国が多く、お互い自らの国を持ち、そこに同種族同士で暮らしているのが常だ。
とはいえ、種族間に差別意識があるわけでもなく、魔道具作りに長けた種族であるドワーフが、人族の街で道具屋を営むのもそう珍しいことではない。
「今日は、ゼッドを見込んで、内密な依頼があるのだが……」
「魔道具屋に守秘義務など、聞いたことがないな。まぁ、勇者様はお得意さんだし、大概のことなら貝になってもいいがね」
「この女性の首のチョーカーとこの指輪、誰の目にも区別がつかぬ、イミテーションを作ってほしいのだが」
「ふむ、あああ、これは酷い魔法が掛かっているね。何か深い事情があるのだろう、心得た、どんな大魔導師でも見破れぬ、精巧なフェイクを作ってみせよう」
「恩にきる」
「ニール様、お気遣いとてもありがたく思いますが、この間の誓いは?」
「大丈夫ですよ。勇者が付ける嘘もあるのです」
「そうですか。でも、私、逃げるなどという考えは、持ち合わせておりません。チョーカーなど、王ごと砂に変えてしまえば、なんということもないのです。敢えてそういう選択をしないだけですから」
「前にも話しましたが、魔王と必敗の決闘に心が塞いでいた私、リバの民に申し訳ないと思いつつも、晴れた空のような気分を今味わっています。無理にとは言わないけれど、あなたにも考えてみてほしい。そういう気持ちを込めたプレゼントですから」
「分かりました」
「お話はそれでいいのかな? では、きっちりしたものを作りたいから、二日ほど時間がほしい」
「すまない。これで」
ニールは金貨十枚を差し出した。
「お代はいらないよ。こんな魔法で綺麗なお嬢さんが縛られる、あってはならぬことだからな、人として協力しない訳にはいくまいて。もちろん秘密は守るよ」
「私のような者に、お気遣いいただき、ありがとうございます」
「恩にきる」
二人は魔道具屋を出て宿舎へ戻る、一つ目の太陽が、まもなく南中するようだ。街路樹のポプラの葉が夏の風に戦ぎ揺れていた。
これはいつか本で読んだデートというものかしら、私がこんな立派な男性と二人で歩ける日が来るなんて、ロゼはニールに一センチだけ肩を寄せた。
心踊る時は、またたく間に過ぎ去る。作戦本部に着いたロゼは、サンドイッチの軽い昼食を済ませ部屋に引き上げだ。書棚にあったリバの歴史書を読んでいたら、ノックの音がする。ドロシーとアガーテが出てくれたようだ。
「なに、これ!!」
驚きの声が聞こえてくる。ニールがウーカシュとともに、何やら赤いもの、目が痛くなるような真紅のドレスを持って入ってきた。
「これ? もしや、私が着るということですか?」
「ああ、明日は、これを着て、魔法を行使してほしいのです」
「私は、見えての通りの髪色、赤いものを身につけるのが、あまり好きではないのですが……」
「そのことはよく知っています。ですが、これはパフォーマンス、敵にあなたの姿を強く印象付けておきたいのです」
「その程度のことで、敵が怖気付くのでしょうか?」
軍事のことは自分が専門、ニールとロゼの会話に、ウーカシュが割って入った。
「ちょっとした心理作戦ですが、この種のことは意外と有効なのですよ。赤過ぎて道化のようなドレスになってしまいましたが、どうかお許しを」
道化を演ずるのも使命の内なの? ロゼは真紅のベルベット地、これでもかっ、というくらい、フリルとリボンで飾られたドレス、地球の言葉ではゴスロリ風ドレスを不承不承受け取る。
しばらくして、ハム、ソーセージ、ザワークラウト、ロゼに気を使ったようなメニューで夕食を終えた皆は、早々に就寝した。




