デモンストレーション
ロゼの提案を申し訳なさげに聞いていたウーカシュだが、
「ああ、ならば、中央広場にある噴水を壊してもらう、というのはいかがでしょう? もう随分と古く、数年前から故障しております。ちょうどよい機会ですので、新しく、この街を救った英雄の像に変えることにしましょう」
「え!」
「ロゼ殿の美しいお姿、大理石に刻んだら、とても映えると思います」
「ウーカシュ殿はご冗談がお好きなようですね。ですが、私、恐れられこそすれ、お世辞だったとしても、褒め言葉など、いただいた試しがございません。ありがとうございます」
ニールはじめ、リバ国民は、イーサほどロゼに対する恐怖心を持っていないということだろう。ロゼは、ウーカシュに自分への恐怖心がないことを知り、ちょっと嬉しい気分になった。
「じゃ、みんなで行くかい? 口上は俺に任せてくれるかな?」
トーネードが言ったのを先度に会議は終了し、勇者パーティ五名とウーカシュは、連れ立ってドルティアの街に出た。この街は内周から外周に向かい放射線状に道が通っている。
その中央が、街一番のメインストリート、商店街ということになる。三階建の立派な建物は、ショーウィンドウにドレスを飾った衣服屋、宝石商、魔道具商、銀行もある。
さらに行くと、建物の前に屋台が出ていた。果物屋、八百屋、魚屋、肉屋、日々の食材を買うための市場に行き当たる。開戦を間近に控え、人通りも少ない街だが、ここだけは別、夕餉の食材を買うべく、随分と人出もあるようだ。
「物資の搬入は、ひとまず、昨日で止めましたが、一ヶ月分ほどの備蓄はできております」
ウーカシュ、彼はここでは最高司令官のはずだが、上官の報告するような言い方で、ニールに解説した。
市場の風景、果物の甘い香り、野菜の青臭ささ、魚の生臭い臭い、その全てが愛おしい。どこか満ち足りてしまい、かつ、後ろめたい自分、ロゼの心は混沌の渦だ。
「さて、付きましたよ。あれです」
街の中央に位置する、円形の広場、その広さは一万平米ほどあるだろうか。その中央に、羽を広げた白鳥、四羽を模した噴水があった。
空を見上げる四羽の白鳥の口から水が出る意匠なのだろうが、四羽中三羽は、首から先が折れてしまっている。もはや魔法を使っても修理不能だろう、新しい噴水を設置した方がよいような状況だ。
「では、ちょっと拡声魔法を使いますね」
トーネードの魔法属性は風、風の精霊の力を使った魔法を使うことができる。今回は、声の波長を増幅するアンプのような役割をする魔法ということだ。
「空よ、風の精霊よ、その雄々しき御霊を示し、我が言霊をあまねく者に伝えよ! ヴェルフロー」
続けて、トーネードは口上を述べる。
「ドルティアの民よ、心して聞け、我、勇者を奉ずるものである。今、この街は、オステンの蛮族に包囲されている。市街戦ともなれば、多くの犠牲が出る、皆、そう案じているだろう。だが!! もはや、その憂慮の全ては、明日、この青空の如く、晴れ渡り、雲散霧消するであろう。我が勇者ニールは、イーサの国より、ブラッディーローズの力を借り受けた。皆の心の安寧を願い、これより中央広場にて、その比類なき魔法をご覧にいれる。近くば寄って目にも見よ! 我らが女神、ロゼ・リースフェルト様、ここに在り!」
「あ、あの、トーネード殿、それは、ちょっと」
「いいの、いいの、こういうのは、大仰に言った方が、いいのよ」
珍しくアガーテが笑って言った。
十分ほど待つと、珍しい物見たさだろう、ゾロゾロと市民が中央広場、またの名を、スパーニャ広場に集まってくる。頃合いを見て、今度はニールが群衆に宣言した。
「こちらにおわすが、我らが女神、ロゼ様である。今から、あの噴水にそのお力の片鱗をお見せいただくことにする。これを見れば、一目瞭然、オステン軍が何万来ようと、ドルティアは安泰、そう信じてもらえるであろう」
「さ、お姉ちゃん」
「はい、アポカリプス!」
ロゼがフォービドゥン・アビリティを行使した瞬間、ニールの言葉にざわついていた群衆が、突如、言葉を失った。魔法世界の人には分かるのだ、ロザのその惨烈たる力が。広場は水を打ったような静けさに包まれた。
ロゼは噴水を目視した。彼女の魔法は無詠唱、心中で「滅せよ」と呟く。四羽の白鳥は、目にも見えず音にも聞こえぬ、黒より黒い渦の闇、破滅を齎す死の魔法に包まれた。
サーーーーー
今まで白鳥を模っていた噴水は、細かな砂となって崩れ落ちた。
オオオオオオオオオ!!!!
群衆から驚嘆の声が上がる。その声は、恐怖ではなく安堵であった。今、まさに敵軍に包囲されている街だからこそなのかもしれない、観衆は、ロゼに対し、口々に励ましの言葉をかける。
「頑張ってください!」「よろしくお願いします!」
自分たちのリスクを他人に背負わせ、ヒーローと祭り上げる。民などというものは、今も昔も陋劣だ。それを知ってなお自己犠牲を厭わないロゼは、どこか偏狂にその信念を曲げようとしない。穏やかな笑みを浮かべ、歓呼の声に応えた。




