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X'mas Rose〜聖夜に咲く白き薔薇は紅に染まる  作者: 里井雪


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それぞれの誤算

「では、おやすみなさい」


 部屋を出ていくアガーテ。


 ベッドで横になったロゼは、アガーテに対し邪推してしまった自分を恥じていた。


 あの時、酔いも手伝って、きつい言い方になったのだろうが、あれはロゼの境遇を聞き、止むに止まれずに出た彼女の「忠言」だったのかもしれない。


 糊の効いたシーツ、清潔なベッドがとても気持ちいい。疲れているはずなのに、なぜか目が冴えてしまう。ロゼは目隠しをしていても、外が見えるくらいだ、レースのカーテン越しに星空を見上げることなど造作もない。


 地球流に星の名をいうと、白っぽく輝くのはアルタイル、青白いのはベガだろう。そう、もしかしたら、この世界、この星は、地球と同じ宇宙にあるのかもしれない。


 仮に同じ宇宙だとすると、この星から仰ぎ見る恒星、太陽は三重連星であることから、ケンタウルス座のどこかの惑星ということになるのだろうか。


 もっとも地球に人類、ホモ・サピエンスが生まれ、文明を築き、滅亡するまでを約三十万年とすると、この世界の今は地球とは、まったく別の時間軸にあって、二つの文明が相交わる可能性は極めて低い。


 宇宙の誕生から21世紀までは約138億年といわれている。


 138億÷30万=0.00002173913


 人類の歴史など瞬きの間でしかない。そう考えれば納得がいくだろう。


 朝、誰かが窓を開けてくれたようだ。初夏の爽やかな薫風、夜明け前に降った雨に現れた緑の香りが、窓から朝の到来を告げていた。


 早々に支度をして、会議机に着席するロゼ、すでにニールとウーシュカは、パンとスクランブルエッグの朝食を食べながら、難しい顔で話をしている。ニールの隣の椅子に、ロゼは腰掛けた。


 当番の兵士がロゼの着席を見て朝食を運んでくる。この国の人々は黒くて苦い液体、コーヒーを好む。ロゼは紅茶の方が口に合ってはいるが、眠気覚しに、この飲み物は最適なようだ。一口飲むと、なんだか頭がはっきりしてくる。


 そうこうしている内に、昨日の将校とパーティメンバーが揃い、パワーランチ作戦会議が始まった。


「斥候からの報告によると、攻城兵器組立の進捗から見て、総攻撃は明日の夜明けと思われます」


「夜襲の恐れはないですか?」


 昨日からミーティングはウーカシュが報告し、それにニールが質問するという形で進んでいる。


「今夜は、夜間の見張りを倍に増やす予定にしております」


 終始沈黙を保っていたロゼだが、どうしてもこれだけは聞いておきたかったのだろう、口を挟んだ。


「あの、昨日から、お聞きしていいかどうか、迷っておりましたが、ドルティア守備隊の兵力は?」


 これを聞いたウーシュカ、閥の悪るそうな顔をした。


「ロゼ殿に隠していたわけではありませんが、どうも言いづらく、失礼しました。昨日、街を見られたので、お察しになってはいるでしょう、五千です」


「五万に対して五千……」


「決闘システムは、勇者殿にとっては命を賭けた戦い、ニール殿の目の前でこういう言い方は気が引けますが、リバと魔族国は、これによって、暗黙の平和協定を結んでいたともいえます」


「リバ王カリフ・アデール様は、とても聡明な方ですが、であるが故……」


「ウーカシュ殿、私のことは気にすることはない。だが、あなたの立場では、それ以上は言いにくかろう。リバ王は、策に溺れたということだ。今、リバは全軍かき集めてもせいぜい一万」


「その半分をこちらに割いているということは、リバにとって、これは最終決戦ということですね?」


「その通り、ロゼ殿に来ていただかなかったなら、市民も巻き込んだ市街戦で持ち堪える、ことになっていたでしょう」


「持ち堪えるなどと仰っても、援軍なき消耗戦、そうなってしまえば、もはや……」


「はい。ですので、我々にとってロゼ殿は、突如舞い降りた女神様、であります」


「それは少々言い過ぎかと……」


 リバの王は確かに頭が切れ、遠慮深謀のできる男だが、魔族国の「裏切り」を読むことができなかった。さらにいうと、リバがイーサと同盟しロゼの力を借りた場合のリスクをオステンが取る、とも考えていなかった。


 いずれにせよ。リバは、イーサのように近衛師団しかいないというほど極端ではないにせよ、軍備を極限まで縮小し、全軍一万体制を取る方針としてきたのだ。


 一方、領土侵略欲により、結果的にロゼという死神を呼び出してしまった、オステン帝国なのだが、その皇帝、フォルセイス・マスリュコフも決して愚かではない。


 だが、よく考えてみてほしい、魔法というものの存在が、疑う余地のない現実であるこの世界だったとしても、五万の軍勢を一瞬で砂に変える死の魔法、その実在を信じる者が、そうそういるだろうか。

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