フォービドゥン・アビリティ
子供とみて、見下すような物言いで禿げ親父は続ける。
「あのねぇ〜 お嬢ちゃん、この指輪が本物だったら、国宝級だよ? 言っちゃぁ悪いが、君の身なり、そんな宝石を持つ身分の人とは思えんねぇ。銀貨一枚で不服なら帰っておくれ」
ドロシーは言葉に詰まってしまった。
と、その時。店のドアが突然開いた。
「オヤジ、その指輪、ちょっと見せてくれないかな?」
「へい?」
突然、声をかけてきた男は、近衛兵の制服を着ている。中世風世界の常として、近衛兵は、街の治安維持、警察の役目も担っているのだが、なぜ、計ったようなタイミングで登場する?
実は、ドロシーは兼ねてより、王宮、この国の王から目を付けられていた。以前に述べたように、リバの王は策謀に秀でている。というより、政治手腕だけで、この国の安全を図っているといっても過言ではないだろう。この国には中央情報局なる組織も存在し、諜報活動が盛んに行わていた。
であるから、王宮はエミリーが魔王の血を引くらしい子供を産んだ、という情報も掴んでいた。魔王の非嫡子、どう考えても、紛争の火種となりそうな存在だ。とはいえ、王は専制君主というほど権力があるわけでもない。彼の独断で庶民を始末するなど、あり得ぬことだ。
王は密かにドロシーをマークし、弱みを握るタイミングを見計らっていたようだ。
「オヤジ、このお嬢ちゃんの言うのが正しい、これは本物、国宝級の代物だと思うぞ」
「へっ?」
「お嬢ちゃん、申し訳ないが、君のような子供にこんな宝石、どう考えても不釣り合いだ、少し、話を聴きたいから、一緒に来てくれるかな?」
「そ、そんな、お母さんが病気なんです。薬を買うためにお金が必要で、それで、大切な指輪を売る決心をしたのです。決して、疾しいことなどしていません」
「だから、少し話を聞くだけだから」
「ダメです! そんなことをしていたら、お母さんが、お母さんが、死んでしまいます」
「うるさいガキだな! お前、魔族との混血だろ? 魔族と交尾するビッチの娘がクソ生意気な!」
「い、今なんと言った! 母さんを侮辱するなんて、許せない!」
ドロシーは十歳にして類稀な武術の才を持っていた。だから、近衛兵の一人や二人、彼女の敵ではない。だが、彼女にはアキレス腱ともいえる弱点がある。
彼女は、とても優しく清らかな心の持ち主だ。身内や仲間に対し、その愛情、友誼をとても大切にするタイプでなのだ。ただ、反面、強い絆を結ぶが故、このような心無い言葉に対し、我を忘れてしまうこと、しばし。
「ウッ!」
「よくやった、コイツが本気になったら、俺でも命が危ないらしいからな。さすが魔獣用、あっという間に、ネンネしちまったぜ」
「親も親なら子も子」ということだろう、あの王にしてその家臣、彼らはとても狡猾だ。ドロシーを挑発して隙を作り、後から、麻酔の吹き矢で眠らせる。あらかじめ、そんな戦略を立てていたのだろう。
ドロシーは暗い牢屋の中で目を覚ました。周りを見回す。小さいながらも電話ボックス型のトイレが付いている。衛生状態はそれほど酷いところではないようだ。裁判、といっても、この国では王の決裁だが、を待つ囚人の留置場といった場所だろう。
鉄格子の嵌った高窓を眺めると、日はほぼ天頂にある。多分、まる一日、あの麻酔で寝てしまったに違いない。あれから一日! 母は家を出た時点で危篤状態だった、ならば……。今、のんびり、裁判を待っている余裕などない!
「ドーピング!」
そう考えた、ドロシーは奥の手、禁忌の魔法を行使した。この世界で魔法を使える人は、皆、自分の能力に合った特殊なアビリティを持っている。
これを「フォービドゥン・アビリティ」という、その名の通り禁断の力だ。彼女の場合は、自身の魔力、運動能力、全てのステータスを三分間だけ十倍にするというチートアビリティだ。
金色のオーラに包まれたドロシーは、鉄格子をまるで飴細工のように広げた。看守が走り寄って誰何しようとしたが、彼女のオーラ、その凄まじさに尻込みし道を開けてしまう。
「サンダーボルト」
ドロシー魔法は雷属性、その鉄拳に雷の力を込めることが可能だ。牢屋の鉄の扉が木っ端微塵に砕け散る。やはり、ここの留置場は王宮地下だったようだ。
ちなみに、この世界におけるステータスとは、RPGに例えると、STR、VIT、MND、INT……に相当するが、加護により底上げされる場合、それぞれプラス10、などというように均一ではない。
勇者パーティメンバーを例に引くと、ドロシーは攻撃力STR、ロゼは魔力INTの底上げ、アガーテはMND、トーネードはDEXに対する加算が特に大きい、ちなみに勇者ニールは非常に珍しいタイプ、STR、VIT、MND、が平均的に加算されている。




