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X'mas Rose〜聖夜に咲く白き薔薇は紅に染まる  作者: 里井雪


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魔動車

 自室で朝食を済ませたロゼは、宮殿中央の螺旋階段を降り、その玄関に向かった。エントランスには、旅支度を済ませた勇者パーティ四名が待っている。これを見送りに出た王、王妃、王女と何やら立ち話をしていた。


 最後になってしまったロゼはアンジュに付き添われ、パーティの元へ急ぐ。


「すいません。遅くなりました」


「とんでもないです。本件は、昨日、私の方からお願いしたこと。準備をするのも大変だったでしょう」


 勇者ニールは柔和な笑顔でロゼに答えた。さすが勇者は如才がない。気遣いも一流ということなのだろう。だが、ヒーラーのアガーテは、どこか複雑な顔をしてロゼを見ている。


 この複雑な顔、ロゼにとっては見慣れた表情だ。彼女の持つ強大な魔法への畏れと、その美しさに対する同性としての本能的な嫉妬。いつものこと、ロゼは特に気にしてはいないが、トーネードの目は、この空気感にいたたまれぬ、と言っている。


 これに気付いたニールが何か言おうとした、その時、


「さっ、お姉ちゃん、行こ?」


 ドロシーが幼い笑顔を浮かべ、ロゼに右手を差し出した。


 子供の振り、であるのは明らかで、彼女なりの忖度なのだろう。だが、自分にシンパシーを感じてくれていることが、なんとなく分かる。ロゼはアンジュに引かれたいた左手を離しドロシーと手を繋いだ。


「では、勇者ニール殿、お気をつけて、ご武運を!」


 王宮の玄関を出た勇者一行は、それぞれイーサ王と握手を交わし、魔動車に乗り込んだ。


 ちなみに、魔動車は内燃機関を魔石の力で動かしているわけではない。地球の人々から見ればコロンブスの卵だが、この世界の人にとっては当然の理屈だろう。


 炎の魔石をガソリン代わりにしてピストンを動かし……、などという複雑な機構を作るより、風の魔石なら簡単な魔道具と組み合わせることで、とても強い風、噴流を起こすことができる。


 そう、こちらの世界でエンジンといえば、ジェットエンジンのことなのだ。ただ、残念なことに、リバやイーサの人はゴムというものを知らない。


 木で作った車輪と鉄のサスペンションでは、陸上を高速に走るのは難しい。陸上ではせっかくのエンジン性能を活かすことができず、車輪を壊さぬ程度の鈍足で走るしかない。


 魔動車は六人乗り、内装は馬車のそれとほぼ同じで、六人掛けのボックス席だ。席決めは、ドロシーがうまく差配して、進行方向に正体する席には、ニール、ドロシー、ロゼの順、向かいにアガーテとトーネードが座った。


 再び、簡単な自己紹介を終えた後、ニール、トーネード、アガーテはうとうとしだした。寝れる時に睡眠を取っておく、冒険者としての心得なのかもしれない。どんな話題で場を持たせていいのか、戸惑っていたロゼは、少し、ホッとした。


「あれ? 起きてるの、仲間二人になっちゃったね」


「仲間? ああ、目と髪の色のこと?」


「うん、だけど、それだけでもないんだ」


 このドロシーという()、とい表現は相応しくない、彼女の年齢は既に二十歳、数奇な運命を辿っている。


「不幸自慢をしてもしょうがないけど、いい機会だし、僕のこと、聞いてくれる?」


「ええ、私でよければ」


 ドロシーは勇者からロゼの使命、その運命について知らされていた。不幸を背負った者同士という思いが、強いシンパシーとなっているのだろう。問わず語りに自分の生い立ちについて、語り出した。




 ドロシーは、魔族との混血といっても、ただの魔族ではない、魔王、その人の血を引いている。前魔王が恋に落ちた、いや、上品過ぎる表現はむしろ誤解を生むだろう。不倫相手として手を出してしまった、人族の娘との間に生まれた子だ。


 そもそも魔族と人の間で子を成すというのは、とても難しい。双方の遺伝子は受精できるギリギリの適合度といったところで、たとえ受精卵となっても死産してしまうケースがほとんどだ。


 であるが故に、ダンピールという存在は稀有でもあり、その卓越した能力からも、虎子そのものといえる。妊娠が分かった娘、ドロシーの母エミリーは村から出奔した。


 このことは、生まれてくる可愛い我が子の将来を憂いてのことだ。ダンピール、しかも魔王との非嫡出子、政争の具となるか、あるいは暗殺されるか、いずれにしても、その出自が明らかになれば、この子に明るい未来などない、そう考えたのだろう。


 ドロシー自身、母については、なぜかその顔を思い出せない。赤ん坊のころに死別した訳でもなく、生まれてから十年以上も一緒に暮らしたのだから、本来なら覚えていないはずもない。


 だが、彼女の記憶の中の母エミリーは、その名とブロンドの美しい髪、すずらんの花のような甘い香り、それ以外、一切の記憶がない。


 あまりに過酷な死別であったため、彼女は一種の解離性健忘を起こしているのだろう。

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