閑話 大人達の裏事情(ジェームス)
評価、ブックマークありがとうございます!!!
大変励みになっております!!
サンシュユンの年齢四歳から五歳に変更しました。
さて、旦那様からのお許しもでたことですし、調査の裏付けといきましょうか。
と、意気込んだのはいいものの、なかなか調査は進まず…。
いかんせん、奥様いえ、エリカ様が床に付してからを含めば約三年分の横領の証拠。
三年分の量は思ってるよりもずっと多かった。
たまたま奥様に渡す資料を選定していたらみつけた違和感。
なにかがおかしいと思い調べていくうちにカッテージ領では決してあり得ない税金の未納と書かれた箇所。
それどころか、道路の整備費の縮小、農業や酪農などの補助に使われるはずの金額も縮小。
それ以外も警備費、環境対策費、上下水道の設備費などなど出るわ出るわ。
一つ一つの出所がわからない、何に使うかもわからない出費まである。これだって金額が少なくてもちりも積もればなんとやらだ。
しかも、気付かれていないのがわかったのか、だんだんと大胆に金額が減ってきている。
不明な支出はここ三年ほど前から、つまり、エリカ様が床に付してから。
そして、領の税金未納分と書かれているのは、ここ二年ほど前。
つまり、エリカ様が亡くなってから。
ずっと次の執事長や、その補佐になるべく教育を施し、信頼をしていたから、エリカ様がお倒れになった後の領の管理を任せていたのに……。
身内の裏切りほど辛いものはない。
ですが、辛いと思うのは私個人の感想であり、このカッテージ領にはまったく関係の無いこと。
キレイサッパリいらないモノは片付けてしまいましょう。
とはいったものの、この莫大な量の帳簿はどうしたものか……。
事情を知っている奥様にも手伝ってもらいながら、いらないモノを片付けたら出てきた裏帳簿と照らし合わせて、少しづつではあるが違いをみつけていく。
これは、正規の仕事をしながらこなすとなると、どれくらいかかるのでしょう?
…本当によけいな手間を取らせて。
□□□□
「ねぇ、ジェームスも義母上もだいぶ忙しそうだけど、俺にも手伝える事って何かある?」
「…忙しそうに見えましたか?」
「だいぶね。」
…これは本格的に余裕がなくなってきましたね。
ぼっちゃまや他の方々に悟さられないようにやってきたつもりだったのですが、私もまだまだですね。
「ねぇ、ジェームス。
五歳児に何ができるんだって思うかもしれないけど、一応読み書きはマスターしてるし、計算問題も時間はかかるけどできるし、何より雑用をやる人がいれば少しでも余裕ができてちょっとは楽になれると思うんだけど。
それでも、手伝わせてくれない?」
…基本的に私はぼっちゃまに弱いのです。
しかも、ジュリアお嬢様を妹御として迎え入れてから、ますます利発的なお子になられまして。
やはりぼっちゃまは天才なんですね。
一人こくりと頷けば、それを肯定ととったのか、
「やった!じゃあ、何を手伝えばいい?」
と笑顔全快で尋ねてくださいました。
「…奥様に許可が得られれば。」
「ええ?!…うーん。わかったよ。
じゃあ、はやく義母上のところに行こう!」
すみません奥様。
責任を丸投げにしてしまいました。
心の中で謝りながらも、奥様のいる書斎にぼっちゃまを案内した。
□□□□
「手伝いは必要ありません。」
「俺では役不足ですか?」
「そういうことではありません。
サンシュユン様、」
「ユンでけっこうです。」
「……では、ユン。あなたはまだ五歳なのですよ?
このような事務仕事はまだやらなくてけっこうです。
いずれはやらなくてはならなくなるのですから、その時まで待ちなさい。」
「ですが、お二人共だいぶお疲れですよね?
休憩はとられているのですか?
事務でなくとも片付けなどであれば、俺だって少しは力になれると思いますが。」
「気持ちはありがたく受けとりますが、その必要はありせん。」
「ですが、ーー、ーー。」
「ですから、ーー、ーー。」
長い攻防戦が繰り広げられております。
その間も奥様は大量の書類から目を離さずに、手を動かし続けています。
私はぼっちゃまと奥様に紅茶を煎れつつ、帳簿の間違い探し。
年のせいでしょうか、目が疲れてきます。
…なんかもう、ぼっちゃま天才ですし、こんな攻防戦をしているなら手伝って欲しいという思いが段々と強くなってきてしまいました。
年でしょうか?
後々考えてみたら普通ならありえないことを考えていたので、私、かなり疲れていたのでしょうね。
…やっぱり年か。
横領の資料は任せられなくても正規の書類作成は、手伝っていただけるのでは?
ぼっちゃま天才ですし。
ですので、助け船です。
「奥様、ぼっちゃまは読み書きはすでにマスターされておりますし、計算式もできます。
下手なものを雇うよりも有意義かと。」
天才ですし。
「ですが、ジェームス。」
「わかっております。
ですから、今奥様がおやりになっている今年度の予算内訳表を作成してもらってから、ご判断なされては如何かと。」
チラリと奥様は手元の資料を見られて、少し考え込む。
あともう一押しか。
「ぼっちゃまは色々とできるお方なので、ヘタな者よりも効率よくできる事を探してやってくださいますよ。
賃金を含め今は色々とございますから、他の者を雇うなどできませんし。」
声がわざと聞こえるくらいの大きさで話し、ぼっちゃまの味方ですと暗に示す。
そしてこっそりと、
「あのままですと、ぼっちゃま自ら動き出しますよ。
そうしますと、見せたくないものまで知られてしまいます。」
天才ですし。行動力ありますし。
グッと眉間に皺を寄せる奥様。
ですが、ため息と共に力を抜くと
「わかりました。
では、お願いしましょう。」
そう言い、先ほど私が提案したように今年度の予算内訳表として、予算編成や規模、会計予算などを任されていた。
□□□□
おおよそ一日で資料を見つつ、予算編成や規模をまとめているぼっちゃまは、やはり天才なのでは?
いえ、知っておりましたが。
さすがです。ぼっちゃま。
残りの会計予算を前に、使える金額を確認しているのか資料を読み込んでいる。
私もぼっちゃまに負けじと頑張りましょう。
手元の帳簿とにらめっこしていると、
「ねぇ、ジェームス。
これ、見やすいように書き換えてもいい?」
「と、言いますと?」
何やらぼっちゃまは資料を読み込んでいた訳ではないらしく、"何でわざわざ文章で帳簿を残しておくの?"や、"~を何倍にした。とか、~と~をいくつ買ったので~になった。とか、数字と記号だけで表せるのをわざわざ回りくどくして長く書くのが主流なの?"と聞いてこられた。
数字と記号だけで表せるとはどういうことでしょう。
記号とは?
「記号とはどのような?」
「あー…、たとえば、引くってかくのを、こう、-って表すと減ったように見えない?」
「…なんとなくわ。」
「うん。それに、|《たてぼう》を足して、+ってかくと今度は足されたように見えない?」
「…なんとなくわ。」
「そうそう、あとは、これが×でこれが÷。
これもまあ、なんとなくで!
えっと、俺が見やすいようにってことだから後でジェームス達がわかりやすい表記にしていいし!
あっ、その場合は俺にも教えてね!」
発想力!!発想力の塊ですかな!?
「して、それは、どの様にお使いになるのでしょうか。」
「ん?えっと、この数字に×とか÷とか+とか-記号をつけて、わかりやすく計算式を作るんだよ。」
ほう。
「あと、こう、枠組みを作って、左側のマスのなかに使う用途の項目を書いて、その右隣の枠に金額の数字をいれて…。
ほら、見やすくなった。」
ほほう。
「この金額のマスに支出入を書いたりして、えーと、とにかく見やすい表にしちゃえば、後々の見返しでわかりやすくなると思うんだよね。」
なるほど。
「今までのを全部とは言わないけど、ここ二、三年くらいの帳簿も見直しがすぐできるようにしておけば、参考資料にもいいんじゃないかな?」
やはりぼっちゃまは天才でしたか。
知っておりましたが。
この方法なら何度も同じ箇所を確認する作業がぐっと楽になります。
「ぼっちゃま。是非このやり方で資料を作りあげていきましょう。」
「え?あっ、うん。頑張る。」
ニコッと笑って私も作業に戻る。
さぁ、これで最後の方が付きますね。
読んでいただきありがとうございます!!!
感想、評価、ブックマークいただけたら、大変嬉しいです。
サンシュユンは、+はandを意味するetの走書きで、-はminusのmを崩した書き方みたいな知識はあっても説明ができないんです。ドイツやオランダの数学者の話をしたところで誰もわからない。
次の話から二章に入ります。長かった…(  ̄- ̄)
閑話って難しいですね…
次の章でもよろしくお願いします。