閑話 大人達の裏事情(ムスカリム)
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「あの時はたしか、国からの依頼で国境の防壁を新しく作り替えにミアの実家であるバーフ領に行ったときだっけ?」
「ええ、貴方との出会いはその時が初めてでした。」
クスクスとその時のことを思い出したのかミアが笑う。
国王から、国家からの依頼で土魔法で上級魔法の使い手は東西南北に別れて、各領土の国境防壁を作るという制度がある。
もちろん、国の依頼なので公共事業であり、制度も報酬もきちんとしている。が、いかんせん上級魔法の使い手が少ない。
土魔法事態は多くの使い手がいるが上級魔法を使えるのはほんの一握りなうえ、王都である中心都市を中心に東西南北で四分割にされる。
四分の一の領土に土魔上級者はいったい何人いるのか。
自分達の受け持っている領土だけでも大変な少人数でまわしているので、他の人が受け持つ領土に誰かを貸し出す事もできない。
そんな状況の中、私の妻が倒れ、亡くなった。
せめて一年、いや半年、四十九日があけるまで喪に服させてほしい。
そんな願いも聞き入れられない。
城壁の強度は日に日に変わっていく。
少しの綻びに攻撃を受けたら、その領土はあっという間に火の海になる。
脅威となる憂いをとるのが勤めだと王命をだされたら、断ることもできない。
失意のどん底にいる気分の時は、こんな国滅んでしまえばいいとさえ思っていた。
だが、隣の領土にいる南東担当のスゥーギュ殿が手を上げてくれた。
「南東は数人でまわしてるので、まだ余裕がある。
私がカッテージ殿のところを担当しよう。
なに、四十九日までならばこの老いぼれでもなんとかなるさ。」
あの言葉には救われた。
私の魔力量は多い方なので、担当している北東部はほぼ私だけでまかなっていたから。
他の方だと数人は必要になるレベルだ。
だが、スゥーギュ殿は私とほぼ同じくらいの魔力量をお持ちの方だから、私の受け持つ北東部をお一人でまわしてくださった。
もちろん、スゥーギュ殿がもともと担当していた場所は他領の方々が補ってくださったので、その方々にも大変な借りができてしまったが。
仕事はどんなに辛い状況でも待ってくれない。
私の場合は周りの上級土魔法使いの方々がよくしてくださったから何とか気持ちを切り替えられたが…。
あの時の感謝は今でも残っている。
数年後にスゥーギュ殿がエリカと同じく長い旅へ出かけた後は、あの時のご恩を返そうと思い四十九日の間だけでも南東の一部を手伝ったのだったな。
その間に南東部の新しい範囲の取り決めなどを全部終わらせていたな。
彼らのところも新しい上級土魔法使いが育たないっていってだいぶ悩んでいたな。
私もだけど。
その時手伝ったスゥーギュ殿の担当地域に、バーフ家があったんだっけ。
私達の仕事は防壁作りが終われば接待のパーティーに出ること。
お金が無ければ内輪のパーティー。
大きな領土であればあるほど、パーティーも大きくなる。
まぁ、見栄や権威もあるからね。
そんななか、バーフ家は男爵家なのに、それはそれはみごとなパーティーを開いた。
伯爵家もかくやというほどの。
おまけにけっこうな感じで我々土魔法使いが馬車馬のように働いているのを見下していたな。
その土魔法使いに防壁を直してもらっているのだけれどね。
なぜ接待パーティーをやるのか彼は分かっていなかったな。
我々土魔法使いのさじ加減ひとつで、国をも揺るがす大惨事になりえる事案を作れる。
それを防ぐために我々土魔法使いに感謝をしているという態度をとるのだ。
例えそれが表面上だけであっても。
だがバーフ殿は私の領土の事もあってなのか、スゥーギュ殿の範囲まで手伝っているのはそうとう金に困っているという印象になったみたいで、まぁ、事あるごとに下にみてきたな。
だがそのおかげでミアに出会えたし。
自身の娘の悪口をこれでもかと言った後に、私へ紹介しようかと言ってきた時は頭に虫でも湧いて正しい判断ができなくなっているのではないかと本気で思ったほどだ。
愛想笑いで誤魔化し、バルコニーに避難しているとミアが私に謝罪をしに来てくれた。
本当にあの男の娘かと疑ったくらいだ。
私への謝罪から、ミアの境遇、私の現状。
これからの領地のこと、ユンの事。
その場だけでは語りきれないと思うほどに話が弾んだ。
これほどの人がこれから先の私の人生に現れるだろうか?
答えは "否"
後悔しては遅いと直感を頼りに、私はその場でミアにプロポーズをした。
□□□□
「あの時は驚きましたわ。」
「私もだよ。」
「あら、プロポーズしてくださったご本人が驚いていたんですか?」
「まあね。あったその日にプロポーズする私にも驚いたが、それを受け入れてくれた、ミア、君にも驚いたんだよ。」
「あら。」
ふふふっと、悪戯が成功したような楽しそうな笑みをみせて、
「あの時、私もけっこう限界がきていたのですよ。」
と呟いた。
優しい笑みで、しかし、目元だけは寂しそうで…。
「男爵かい?」
「こちらに来るときに"離縁しても戻る場所はない"と、はっきり言われてしまいました。」
ミアの手に自分の手を重ね、強く握りしめる。
「君は、君達は、もう私達の大事な家族だ。
手放すつもりはないぞ。」
ミアの目を見つめて言うと、
「ありがとうございます。
でも、サンシュユン様がお倒れになった今では、私達がカッテージ家に入ることはあまりよくないのではと思いまして。
でも、できたら、ジュリアのためにもせめてここで働かせていただけたらなと…。」
「もう一度言う。
手放す気はない!」
放す気はないとミアの白く細い手を更に強く握る。
「それに、ユンは大丈夫だとカラン先生も言っていた。」
そう。大丈夫だと言っていたんだ。
後は、目を覚ますのを待つしかないと。
□□□□
「ぼっちゃまが目を覚ましまして、本当にようございました。」
書斎で書類を整理していたら、ジェームスが休憩ですと紅茶を運んできた。
そのジェームスの言葉に心から頷く。
「あぁ、エリカの時のようになっていたら私は本当に神に見捨てられたと思っただろうよ。」
「ですが、神は見捨てなかった。」
「あぁ、そうだな。
そして、試練を乗り越えた者にはきっと褒美を下さる。」
「と、言いますと。」
「ミアは本当に優秀なんだ。
少し調べただけでその優秀さがわかる。」
「なので、あの件はミアと共に進めてくれ。
全ての判断は二人に任せる。
好きにしろ。」
「御意に。」
「辛い思いをさせるな。」
ジェームスの煎れてくれた紅茶を飲みながらポツリともらすと、
「私が御せなかったせいですので、全ての否は私に。」
恭しく一礼をするとジェームスは書斎から出ていった。
「お前のせいではないのだけれどな。」
自分しかいない部屋に声だけが響いた。
読んでいただきありがとうございます!!!
閑話はあと、一話分で終わります。その次からは二章に入ります。がんばります!
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