3話 グルグルグルグル
「契約結婚……ですか?」
「ええ。サンシュユン様のお父上と、私の利害が一致しましたので。」
「さしつかえなければ、どんな契約かお聞きしてもよろしいですか?」
「ええ、もちろんですわ。
ムスカリム様の領土、つまり、カッテージ家の領土を運営できる手腕をムスカリム様は求め、私は自身の経営手腕を存分に発揮できる場所を求めたのです。」
「利害の一致…。」
「はい。そして、もう一つとても重要な条件があります。」
「もう一つ?」
「はい。この子の、ジュリアンナの安定した生活です。
ジュリアに貴族としての作法や、礼儀、外に出しても恥ずかしくない教養を身につけさせるために、貴族としての地位が欲しかったのです。
実家はきっと助けてくれないでしょうから。」
そう言うと、ペペロミア様はジュリアンナを抱きよせた。
あぁ、母親の目だな。
ジュリアンナへ向ける眼差しは、母としての我が子への幸せを願っている目だ。
「それに、」
えっ、まだあるの?
「それに、ムスカリム様がおっしゃってました。
サンシュユン様はとてもお優しいので、家族になればきっとジュリアを可愛がって下さると。」
父上!?
「ムスカリム様のおっしゃるとおりでしたわ。
会ってそうそう、いえ、きっと会う前から私達の事を考えて下さっていたのでしょう。
でなければ、開口一番にこんな没落する家に嫁ぐな!なんて、言いませんわ。」
ペペロミア様は、コロコロと可愛らしい顔で笑った。
なるほど、利害の一致か。
それなら、おれがこの結婚を反対する理由がないな。
おれはペペロミア様とジュリアンナを交互にみて、
「これからよろしくお願いします。
義母上、ジュリアンナ。」
にっこり笑ってみせた。
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「あぁ、良かった。
ユンに反対されて、どうしようかと思ったよ。」
父上がホッとした顔をして、胸をなでおろしていた。
「ごめんなさい。
だけど、部屋に入ったら目の前にこんな美人と美少女がいたら、誰だって幸せな家に嫁げって思うでしょ?」
「我が家だって大丈夫だよ。」
「そんなわけないでしょうが!
今回は義母上との契約を信じて反対しませんが、普通のお嬢様でしたら、今も反対していますからね!」
ちょっと強めに言っておく。
母上が亡くなってからの我が家の傾きかたえげつなかったんだぞ!?
父上の経営能力が皆無だという認識はゆるがないからな!!
ジト目で父上を見つめ続けていたら、目をそらされた。
はい、勝ちー!おれの勝ちー!!
やっぱり、自分でも分かってたなこの人…。
まぁ、だからこその義母上なんだろうけど。
「それじゃあ、顔合わせも済んだことだし、ユンは二人に邸の案内をしてくれるかい?」
そういえばそんなことも言っていたな。
「分かりました。
では、義母上、ジュリアンナ行きましょうか?」
二人に声をかけサロンを後にした。
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エントランス、食堂、大広間(一応はある)、使用人の棟に、訓練場。
警備兵がいざというときに使い物にならなければ、雇う意味がなくなってしまうので、訓練場は遠慮なく使ってもらってることと、我が領地は荒れた土地や魔物の派生する森を多く持っているので、訓練場はその場所を開拓し広大に使っていることも伝える。
でも、訓練場は危険な場所でもあるので、用事がないかぎりは近寄ってはいけないと釘を刺すことも忘れずに。
客間、書庫、執務室と案内して、さて、残すところは両親の部屋におれの部屋、それから、ジュリアンナの部屋だけだな。
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まずは両親の部屋。
義母上に部屋の位置と、これから側つきメイドになるメイド達の紹介。
メイド長のクフェアと補佐のオリーブ。
それから、マリー、アン、フリージアは補佐の補佐ってところかな?
あと、邸の案内に付いてきてくれている執事長のジェームス。ちょいちょい補足をありがとう。助かります。
料理長達は昼食の準備に忙しかったので、あとでの紹介。
警備兵達もあとで紹介しなきゃなぁ。
「義母上、メイド長のクフェアは他のメイドの指示や仕事で側つきが難しいとのことなので、補佐のオリーブを側つきメイドとして、付けさせていただきます。」
オリーブに目配せし、挨拶を促す。
「お初にお目にかかります。奥様。
誠心誠意努めさせていただきますので、これからどうぞよろしくお願いいたします。」
ふんわりとした笑顔を最後にうかべて、見事なカテーシーで挨拶を終えた。
オリーブは見た目ホワンホワンだけど、仕事はめちゃくちゃできるからな。
クフェア達に任せておけば夜会とか貴族の嗜み方は大丈夫だろう。
オリーブが他のメイドの紹介を終え、クフェアとジェームスも自己紹介を終える。
部屋の中は、あとで自分達で案内するだろう。
あとは、ジュリアンナの部屋だな。
「ジュリアンナおいで。
きみの部屋に案内するから。」
いろいろな場所に連れていったので、歩き疲れたジュリアンナは途中からジェームスに抱っこされていた。
…おれが抱っこしたかった!!
だが身長が足りなさすぎて無理!
ジェームスめ…羨ましい
いつだって、妹の世話ができる特権はおれだけのものだったのに。
ん?妹の世話ってなんだ??
「おにいさま、おへやはどこですか?」
ビクリと肩が跳ねた。
いつの間にかジェームスの腕から降りていたジュリアンナが目の前にいた。
そうだよね。やっぱり自分の部屋は、最初くらい自分の足で入りたいと思うんだよね。
おれも、あいつも、自分の部屋をもった時は一番最初に部屋に入りたかったもんな。
思い出した記憶と感情にドキドキする。
…あいつって、だれだ?
おれには最初から自分の部屋があった。
他に兄妹のような家族なんていない。
ジュリアンナが初めての兄妹で、妹のはずなのに…。
他にも、妹が、いる?
また思考の渦にグルグルとなる。
感情と記憶に引っ張られる。
思い出したいような。
思い出したくないような。
グルグルグルグル…
「おにいさま」
その声にハッとした。
目の前がクリアになってジュリアンナの不安そうな顔がみえた。
「ごめん、ジュリアンナ。
さぁ、行こうか。」
なんでもないように、左手を差し出した。
出された左手にパッと笑顔になったジュリアンナが自分に抱きついて腕をからめてきた。
おっと、思いがけずにエスコートのかたちが…
まぁ、四歳でも立派なレディですからね。
手を繋ぐよりも腕を組んだほうが安心だしね。
思っていなかった行動でドキドキしたのは内緒です。
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よろしくお願いします。m(_ _)m