第6話 自分らしく
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万屋を後にした俺の元に、見知った声が届いた。
「おおぃ、キール!!!」
声のした方を見ると、騎士団のみんながいた。皆私服だったが、腰に剣をさしている。
「ダンケ!皆も!祭りに来てたんだな。休憩時間なのか?」
ダンケが笑顔で頷く。なにやら、屋台で買ったであろう食べ物を山盛り携えている。カイルがそれを渋い目で見おり、ムースは苦笑いしていた。
何かあった時の為にすぐに剣を抜けるよう、両手は開けておいた方がいいのではないか──。
恐らく、そんなことを考えているのだと思う。
ふとハインリッヒが、俺の手にあるヌイグルミを見て、ニヤニヤとした笑みを浮かべた。
「あれぇ〜? キール、もしやそれは、フィーリちゃんへのプレゼントかぁ??」
ケビンとミドも、気になったようだった。
「んー?まぁ、そんな所かな……」
自分でもどうしようか迷っているので、はっきりと答えられなかった。
あの万屋の婆さんが、俺に必要だと言って買わせた(押し付けた)ものだが、正直な所、フィーリに渡すことになるんじゃなかろうか?──と思っている。これは、プレゼントと言って良いのだろうか?
しかし、ハインリッヒは何を勘違いしたのか、態とらしく頷く。
「そぉかそぉか!いやぁ、キールも隅に置けないねぇ……やるなぁ!! このこのぉ〜〜」
と、何やらこずいてくる。
なんだと言うのか。
地味に痛いので逃げるも、ダンケまでもが、ガッハッハッと笑いながら背中をバシバシ叩いてくる。
《さっきまで持ってた食い物は……食べたのか。食べたんだな。早いな……》
「キールは本当に、フィーリ嬢の事が好きだな! その年から異性に贈り物とは、将来きっとモテるぞ!
だがまあ、きっとキールは、フィーリ嬢一筋なんだろうな!」
「モテ……。ダンケが言うと、説得力ないな」
「なぬ?!」
ダンケがガーン……という効果音付きの表情で固まる。その横で、カイルがメガネを押し上げつつ、俺に同意の意を示した。
「まったくですね。隊長もハインリッヒも、直ぐにそのように考えるのですから……。そんなだから、隊長は振られるのですよ。
いいですか、貴方たち。
キールのこれは、あなた達の言うような、邪なものでは無いのですよ。もっと清らかで、純粋な親愛と思いやりというものです。
一緒にしないでいただきたいものです、ねぇキール?」
そう言いつつ、俺の頭を撫でるカイル。目線はダンケとハインリッヒを捉えながら、片手で飴玉を差し出してきた。
何処にしまってあったのだろう……?──と、考えたら負けなので、されるがまま両手を出すと、キラキラとした宝石みたいな飴玉が降ってきた。
《後でフィーリに分けてやろう…》
カイルはかなり腹黒だが、ダンケやハインリッヒに比べると、なんと言うか、ピュアなところがあるように思う。
だが、確かに俺のフィーリへ感じる思いは、親愛の情だと思う。フィーリも同じだろうし、それ以上でも以下でもない。
しかし、俺やカイルのそんな様子が、不満だったらしい。
二人がブーブー言っている。
《駄々っ子か》
「ええぇ? カイルってば、案外乙女なんだな?」
「そうだそうだ!お前ばっかりモテるなんてずるいぞ!」
「はっ倒しますよ?」
「カイル様、落ち着いて下さい」
煽ってくる二人に(若干一名は個人的な私怨だ)、カイルが青筋を立てるが、すかさずムースに宥められた。
しかし、そこでミドが余計なことを口走る。
「そぉだよぅ…カイル様の言う通りだよぅ…。
先輩達はもうちょっと、邪念を捨てましょうよぅ!
ダンケ様は特に、もっとカイル様みたいに、ピュアにならなきゃですよぅ」
「カイル、ピュアだってよ?」
「……」
「ちょっと待て?! 何故俺に向かって抜こうとするんだ?!カイル?!?!」
ミドが地雷をぶち抜き、ハインリッヒが煽ったのだが、カイルはダンケの方を向いて、静かに腰から剣を外した。刀身は鞘に収まってはいるものの、ジリジリと詰寄るカイルに、ダンケは後ずさった。
「部下の不始末は上司の責任と認識致しますが、如何でしょう?」
確かに……、と俺とケビンが、思わず頷く。
それを見ていたダンケが焦った。
「ハインリッヒのお守りは、むしろ同期のお前の役目……って、待て待て待て!!! ゥオオイ?!?!」
二人が追いかけっこを繰り出す横で、ケビンがやれやれと、ミドを振り返った。
「もぅミド、一言余計なんだよ……。どうすんのさコレ…」
「うわぁ、カイル先輩落ち着いて!! ダンケ様逃げて! どどどどうしよう、ムース先輩?!」
「……」
「はははは、お前も苦労人だなぁムース」
「ハインリッヒ様が原因ではないでしょうか……」
オロオロと、ムースに助けを求めるミド(元凶その1)だったが、ムースはムースで、遠い目をしていた。
けれど、そんなムースを、ハインリッヒ(元凶その2)が芝居がかった様子で肩を叩いて労う。
ムースは本当に苦労人だろう。主に、手のかかる三人の上司のせいで。
物憂げな目でカイルを追うムースの様子に、道行く女性陣がキャーキャーと騒ぐ。
こんなにあからさまにモテているのだが、気付かぬは本人ばかりである。
俺は、先程から聞きたかったことを訪ねてみた。
「それはそうと、皆はどのくらい休憩時間なんだ? フィーリは四の鐘まで店の手伝いで居ないんだけど、その間良かったら、一緒に見て回らないか?」
ミドが高速で首を縦に振る。
「うん、いいよ! 僕達は、今日はもう非番なんだよ! 僕らとは別でお祭りの警備してる奴らがいるから、殆ど仕事終わりなんだぁ〜」
「そうそう。 もし良かったら、オススメの出店とか教えてくれよ。 そのヌイグルミの買った店とか……」
「えっ。ケビン、誰かに渡すの? まさか、彼女?!」
「違うわ!! エックルハント師に渡すんだよ! ホラ、あの人こういうのに目がないから……」
「「ああ……あの人か」」
エックルハント師とは、ケビンやミド達若手騎士達の剣術指南役である。
ガチガチムキムキの初老の男性なのだが、フリフリとかレースとか、そういうものを好む人として有名だ。
孫娘へのプレゼントだとか、自分が好きなのだとか、色んな説がある。
あまりにも剣術指導が厳しいので、可愛いものをプレゼントして機嫌を取って、数日で良いから地獄から開放されたい──と考える者が多いのだとか。
ただ、あんまりやりすぎると機嫌を取っているのがバレて、逆にデスモードの特訓に変わる……とも言われている。
「大丈夫なのか?」
「余裕だ。前に渡したのは3ヶ月前だからな。ちゃんと周期は計算済みだ」
フッ……と笑みをこぼすケビン。流石である。
「いいけど、これ買った店は何でも屋みたいな所だったぞ? もう一体あるか、分かんないけど…」
「そうなのか? ま、いいよ。取り敢えず、ついてくから。 ダンケ隊長たちと一緒だと、食べ物の店ばっかなんだよ……。
ムース先輩はどうします?」
ムースは、未だ追いかけっこを上司達と、それを見てニヤニヤしながら野次を飛ばすハインリッヒをチラリと一瞥し、俺たちに向かって頷く。
「私も行こう。 あの人達は、暫くあのままだろうから」
それでは、という事で、先程訪れた万屋に四人で向かうことになった。
店主の婆さんは、回れ右して店に戻った俺を見て片眉を上げたが、他にも連れがいるのを見て納得したのか、先程俺に言ったのと同様に店の紹介をすると、他の客の相手に戻ってしまった。
ミドとケビンが興味深げに、並べられている品物を見ている。
先程俺が来た時よりも、品数が増えているような気がするので、商品を追加したのだろうと思う。
「万屋って面白いな。並べてあるものに規則性が無い。……お。コレなんか、良いかもな」
ケビンが何やら手に取って、満足そうに頷く。早速婆さんを呼び、無事に買い物を済ませたようだった。
何を買ったのか尋ねたが、秘密だと言って笑われた。
余計に気になる。
「僕も買ったよぉ〜。時間のある時に作ろうかと思ってね〜」
ミドが見て見てと言うように、買ったものを目の前に差し出してくる。それだけで動作が幼く見え、これで本当に自分より5つも年上なのかと疑いたくなる。
ミドが買ったのは、色とりどりの布と陶器の湯呑みだった。
「湯呑はまだしも、何で布なんか買ったんだ?」
「最近刺繍にはまっててねぇ〜。時間が余ると、ハンカチとか作るんだよぅ〜。布屋さんで買うと同じ布ばっかりになっちゃうから、こういう風に種類が多くて小さめの安いのが欲しかったんだ〜」
「今度キールとフィーリちゃんにも、作ったげるねぇ〜」と笑うミド。意外な趣味に驚くも、なんだかんだ似合っていて面白い。
お礼を言うと、一層嬉しそうに笑ったミドを見ていると、何やら微笑ましい気持ちがする。
ムースは俺達に付いてきただけで、特に見たいものは無いらしい。万事屋を後にし、暫くそのまま四人で出店を回った。
その後、用を足しにミドが席を外したタイミングで、ケビンからお礼を言われる。
「ありがとな、キール。ミドの趣味を笑わないでくれて」
「え?」
ケビンは少し、苦笑いをして続けた。
「ミドは、あんな見た目だろう? 加えて趣味が裁縫だから、馬鹿にするやつも多くて……」
俺は、ああ成程と頷く。
いつもならケビンがミドをからかいそうな事柄だったのに、何も言わなかったから、少し不思議に思った理由がわかってスッキリした。
ミドは言動も見た目も幼そうに見える。
フワフワの若草色の髪と、くりりと丸みを帯びた茶色の瞳と少し下がった目尻とが柔らかい印象を持たせ、加えて身体の作りが華奢なので、身長は5フィート5インチもあるのに小さく見える。
そして、特徴のある語尾の伸ばし方。雰囲気も優しげで、虫が苦手。
加えて趣味は手芸とくれば、まるで女の子みたいだと、からかう者もいるのだろう。
俺の場合、それがミドの個性だと思っているのだが、騎士団の中は規律の厳しい男社会で、なよっとして見えるミドには風当たりが強い場所なのかもしれない──と思った。
でも、いつも一番にミドをからかうケビンが、なんだかんだで一番ミドを気にかけているのが分かり、安心した。良い奴だな、と思った。
「ミドはミドだと思う」
俺がそう言うと、ケビンは一瞬だけ目を丸くし、次いでニカッと眩しい笑顔を見せた。
四の鐘が鳴り、フィーリと合流する。今日だけで、いつもの倍稼げたと嬉しそうにするフィーリに、件のヌイグルミを渡すと殊の他喜んでいた。
それから、何やらぐったりと休憩しているダンケ達とも合流した。なんと、あれからずっと早歩きで追いかけっこを続けていたらしい。三人揃って、ムースに苦言を呈されていた。
皆で愉しく過ごす時はあっという間に過ぎて、気が付くと、精霊祭りの本命、【精霊のお告げ】を聞く時間になっていた。
読んで下さり、ありがとうございます!
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