第3話 平穏な日常
1話1話を区切ることにしました。
長さバラバラですが、ご了承くださいm(_ _)m
そんなこんなで、精霊祭りの日が2日後に迫っていた。当日は仕事が出来ないので、皆慌ただしく生活している。祭りの準備も進んでいるようだ。
俺もフィーリも相変わらず平凡な日常を送っている。
ちなみにあの後、フィーリに石を投げた奴は凝りもせずまた繰り返そうとしていたので、現行犯逮捕で辺境伯軍の警備隊に突き出してやった。立派な婦女暴行罪である。ざまぁみろ。
俺は今日、久しぶりに辺境伯のじっちゃんの所に顔を見せていた。
「という訳で、俺は剣一筋になると決めた!! 俺の相棒はこの剣なんだ!」
「ああ、つまり、フラれたんだな」
「チクショおおおおっ!!! 何がいけなかったんだ、 顔か?! やっぱり、顔なのか?!?!」
「隊長ぉはさ、ホラ。暑苦しいからな」
「だな」
「やっぱり、それですかね」
「それしかないよな」
「かもですぅ…」
「クソおぅ〜〜〜〜!!!」
そして何故か、俺は辺境伯第三騎士団の隊長である、ダチを慰めていた。なんでも、精霊祭りに一緒に行こうと誘った娘さんからフラれたらしい。
「まぁまぁ、ダンケ。いつか、お前の暑苦しさが好きって言ってくれる優しい娘さんが、現れるはずさ。元気出せよ」
そう言って俺は、ダンケの肩を叩いた。
ダンケ達は俺よりも十歳年上で、この村の駐屯所に勤務している辺境伯のじっちゃんの部下だ。
この村はじっちゃんのクウォーレンス辺境伯領の中でも端の方のサメノー村(ちゃんと名前があったらしい)という所なので、じっちゃんはいつも村にいるという訳では無い。
基本的に領主邸のある、ウォーレンという街に、奥方と三人の息子さんと住んでいる。娘さんもいたが、もう嫁に行ったらしい。
その代わりに、ダンケ達騎士団を各村村に警備隊として置いてくれている。じっちゃんは一週間に一度ペースで村に来てくれて、今日はその日だった。
俺は週に一度、じっちゃんの部下の人に体術を教わっている。ダンケ達とは違う、じっちゃんの護衛も兼ねた人だ。
初めの頃はじっちゃん自ら鍛えてくれようとしたのだが、周りの人が血相変えて止めたので、そういう事になった。
仮にも貴族なんだから、当たり前だよなと納得していたのだが、どうも違うらしく──。
じっちゃんは辺境伯軍の中でも一番強いので、若くて丈夫な部下にさえ、負けたことがないのだとか。三十人束になってかかっても、余裕で吹き飛ばせる程に力が有り余っているから、子供の俺では、うっかり殺してしまう可能性がある──という事だった。
そりゃ………なぁ……? という感じである。
じっちゃんの周りの人も、皆優しかった。孤児の俺を気遣ってくれるなんて、なかなかいないと思う。どうして強くなりたのかという理由を話したら、皆から泣かれた。王都の方だと、そこまで赤色差別は酷くないらしい。もう少し大きくなったら、フィーリとそっちの方で暮らすのもアリかもしれないと思う。
そんなこんなで現在。
俺は目の前で泣きべそをかく、十歳も年上の男を慰めている。ダンケの部下であるハインリッヒやカイル達も一緒になって慰めているのがシュールである。
「なぁいい加減、泣きやめよ。訓練再開しようぜ?」
「そぉだよ隊長ぉ、キールの言う通りだぜ。 良い年した男が泣いてたって、これっぽっちも可愛くないんだからさぁ」
「お前はいいよな、ハインリッヒ。 女の方が寄ってくるもんな」
ハインリッヒが人差し指と親指で砂粒ほどの僅かなすき間を作り、ダンケを一刀両断した。
ハインリッヒはザ・イケメンという感じの男である。副隊長としてダンケを支える程の実力の持ち主だが、如何せん語尾の伸びた雑な口調のせいで、だらし無く見える。しかし、そんな気だるげな雰囲気も、王都の女性には人気なのだとか。
「まぁ、そうですね。ハインリッヒはモテますからね。ですが隊長、隊長には隊長の良さがありますから」
「例えば?」
ハインリッヒ同様ダンケの副隊長のカイルが、ダンケをとりなしたのだが、ハインリッヒがすかさず、聞き返した。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「さて、訓練に戻りましょうか」
「ぉおおぅいぃっ?! カイルっ?! 俺の良い所は?!?!」
「うるせぇですよダンケ隊長。いつまでも泣いてんじゃねぇですよ」
行きますよ? と静かに笑うカイルに、ダンケが引きずられて行った。
「言わんこっちゃない」
「……怖ぇぇ」
「うわぁ〜〜ハインリッヒ様が余計なこと言うから」
「これは大変な訓練になりそうだぞ?」
「隊長っ、成仏して下さいぃぃ!!!!」
「…俺、知〜らないぃ」
カイルは普段丁寧口調で笑顔なので騙されやすいが、結構短気だし、毒舌である。気に入らない相手には剣より寧ろ、笑顔&毒舌で精神攻撃をする。
俺は何か初めから気に入られていて、会うといつもお菓子をくれた。
何でだろうかと思って聞いたら、癒されるかららしい。何故……?
「そう言えば、キール。 フィーリちゃんの様子はどうだ? 元気に過ごしてるか?」
そう聞いてきたのは、ムースだった。彼はカイルの補佐をしている苦労人だが、フィーリを気にかけてくれるうちの一人だった。硬派で寡黙な独身だが、結構モテているのを彼だけが知らない。
「元気だよ。今度の祭りにも行くって言ってた。そう言えば、俺がいない時、フィーリを助けてくれたんだって? ありがとな。 お礼したいって言ってたぞ」
「いや、偶々通り掛かっただけなんだ。でも、良かった。怪我はしなかったんだな。 あの後すぐに行かなくちゃ行けなくて、確認できなかったんだが……そうか」
「なんだぁ? ムース、そんな事やってたのか?」
「へぇ、やるじゃんか」
「格好良いですぅぅ! 僕もムース先輩やキールみたいに女の子を助けてみたいですっ!!」
「ミドはその口調を先に治した方がいいと思うぞ」
「酷いや、ケビンの馬鹿ぁ!」
そう言ってケビンをポカスカ殴るミド。
ケビンとミドはカイルの補佐をしている。互いに従兄弟同士らしいが、ミドの方が若干年下らしい。けれども、何と言うか、俺よりも歳下に見える。これまた一部の女性陣に人気(?)らしい。ショタって何だ?
ケビンはそんなミドをからかって遊んでいる。ハインリッヒに少し似た性格だと思う。朱に交わると何とか……。
けれども二人とも、普通に強い。
ハインリッヒにカイル、そして、ムースやケビンやミドは、ダンケ同様俺とフィーリと特別に親しい、友とも呼べる存在だった。
「ミド、ケビンを殴るんじゃない。そして、ケビン。ミドをあまりからかうな」
「「……はい」」
「まぁま、ムースも本気で怒らないことだぜ。 むしろ見てて面白……じゃなかった、飽きない……」
「アンタが一番大概だと思うな」
本音を隠そうともしないハインリッヒを、俺はジトっと見つめた。ムースも似たような顔でハインリッヒを見ている。
と、ダンケを連れて行ったカイルが戻ってくるのが、ハインリッヒの頭越しに見えた。
俺とムースは目で合図し合い、見なかった事にする。
すると、何を勘違いしたのかハインリッヒがカイルの事を話題に出した。ケビンとミドが慌てて合図しているが、気付いていない。
「ええぇ〜だってなぁ。 ほら、俺ってば心が広いから! カイルと違って……」
「誰の心が広いんですって?」
「ゲッ!!!! カイル! いや、別に、ホラ。 ……カイルの器が広くて部下が優秀だっていう話をしてたんだよ、なぁ?!」
「「「「……」」」」
同意を求めるようにこちらを見られても、困る。俺達はそっと目を逸らした。
カイルがニコニコと微笑んでいるが、何やら黒いオーラが漂っているのは、決して気の所為なんかじゃないと思うので。
「それはそれは、嬉しいですね。 お褒め似いただき恐縮ですよハインリッヒ」
「いや、まぁ、な! ハハハ……」
「そんな貴方に、仕事をあげましょう。 貴方の大好きな書類仕事ですよ、嬉しいでしょう?」
「いや……それは、遠慮しま……」
「何でしょう?」
「……イエ」
ハインリッヒは、相変わらず黒い笑みを浮かべているカイルに連れられて、騎士団の建物内に姿を消した。二人の力関係は、明白である。
ちなみに、書類仕事は普段カイルの仕事で、ハインリッヒは大の苦手だそうだ。頑張れハインリッヒ……。
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