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アメジストは夕暮れに神秘に煌めく  作者: 十六夜
第1章 旅立ち
10/21

第8話 厄災のPrelude

お久しぶりです。

寒暖の差が激しく春めいて(夏めいて?)来ましたね。

これが三寒四温……、

皆様健康には十分ご注意ください。

 何も言えずに、ただフィーリ達を見つめるしかできない自分にもどかしさを感じるまま、一時とも永遠とも分からぬ時間が流れた気がした。


 不意に、フィーリが口を開いた。


「私は、フィーリというわ。貴方の名前を聞いてもいいかしら」


 そう言って、フィーリはかの白い獣に向かって両手を伸ばす。

 白い獣はその手に鼻先を付けるようにして、目はフィーリを捉えたまま、じゃれている様な動きをした。

 その獣は、判別の出来ぬ言語で、話した。

 恐らく精霊か神か何かの言葉かと思われるそれは、不思議なことに、なんと言っているかは()()()()()


 〈ワレハ(我は)セイナルミツカイ(聖なる御使い)  カミノセノケモノナリ(神の世の獣なり)


 ナガキニワタリ(永きに渡り)   セイナルオトメ(聖なる乙女)


 コナタヲズット(此方をずっと)   サガシテイタノダ(探していたのだ)


 ワレハ(我は)   ルエルエリエンディレン


 オトメノテアシト(乙女の手足と)   ナルモノダ(なる者だ)




 セイナルオトメヨ(聖なる乙女よ)


 コナタノソノナハ(此方のその名は)   マコトノナニアラズ(真の名に非ず)


 シラヌコトハ(知らぬ事は)   オトメノヒニアラズ(乙女の非に非ず)


 シカシトテ(然しとて)   ソレハトテモ(それはとても)


 ナゲカワシイコトダ(嘆かわしい事だ)




 フィーリは白い獣が神獣と名乗ったことに驚いた様だった。

 けれど、フィーリが聖女ではないかと思っていた俺達は、改めて、呆然とただ、伝説の獣と聖なる乙女と呼ばれたフィーリとを、遠くから見つめることしか出来ない。


「私は、フィーリよ。それ以外の何者でもないわ。真の名なんて、知らないもの」


 フィーリは只只、困惑したように、神獣──ルエルエリエンデイレンを見つめている。


 そんなフィーリの様子を見て、ルエルエリエンディレンは首を少し傾げ、訝しそうな顔(獣だから何となく)をした。


 〈オトメガシラヌコトハ(乙女が知らぬ事は)   トテモオオイ(とても多い)


 コナタノフボ(此方の父母)   センダイノシガ(先代の死が)


 ヒキガネトナッタ(引き金となった)


 シカシトテ(然しとて)   カミノサダメタマイシ(神の定めたまいし)


 ウンメイハ(運命は)   カミノミガカエラレル(神のみが換えられる)


 ダカラコウシテ(だからこうして)   ワレガムカエニ(我が迎えに)


 ヤッテキタノダ(やって来たのだ)




 イマコソソノトキ(今こそその時)   コナタハアルベキ(此方はあるべき)


 バショへカエルノダ(場所へ還るのだ)



「私のいるべき場所は、自分で決めるわ!」



 〈イナ()   フカノウダ(不可能だ)


 モウジキココハ(もう時期ここは)   マノモノニヨリ(魔のモノにより)


 ショウドトカス(焦土と化す)   ウンメイナノダカラ(運命なのだから)


 ダカラオトメハ(だから乙女は)   ワレト(我と)コノコラトトモニ(この子らと伴に)


 セイレイカイヘ(精霊界へ)   ユカネバナラナイ(行かねばならない)



「「何ですって?!」だって?!」



 俺とフィーリの悲鳴とが重なる。

 それを見ていた周りの見物人が、途端に、ザワザワと騒ぎ始めた。


 しかし、そんな事に構ってはいられない。



《此処が焦土と化す? 魔物によってだと?! どうゆう事だ!!!》



 かの神獣がフィーリに話した事が信じられずに、俺は堪らず、大声で神獣を問いただしていた。



「ルエルエリエンデイレン!!! この村に魔物が来るとは……焦土と化すとはどういう事だ!!!」



 周りでは蜂の巣をつついた様に、喧騒が大きくなった。


「コイツは何を言ってるんだ?」「誰か、其奴を取り抑えろ!」「精霊様の御前なんだぞ! 選ばれたものでない者が、口を開いてはいかん!!」等という声が聞こえはするが、それよりも、神獣が話した意味の方が、俺には大事だった。


 俺の声はルエルエリエンディレンとフィーリに届いた様で、二人がこちらを向くのが見えた。

 フィーリが一層困惑した様に、「キール……?」と呟く。



ソナタハキノウノ(其方は昨日の)   ワラベダナ(童だな)


 ソナタモマタ(其方もまた)   フシギナエニシノ(不思議な縁の)


 ギセイトナリシ(犠牲となりし)   ウンメイノメシウドニ(運命の囚人に)


 ソウイナイ(相違ない)


 シカシトテ(然しとて)   コナタノミニヤドル(此方の身に宿る)


 アイハンスルチガ(相反する血が)   ソナタヲハメツヘト(其方を破滅へと)


 ミチビクカ(導くか)   ハタマタ(はたまた)


 スクウカハ(救うかは)   ワレモシラヌトコロ(我も知らぬ所)


 ナラバワレハ(ならば我は)   ミマモルトシヨウ(見守るとしよう)




 ルエルエリエンディレンはそう言うと、満足そうに頷き、再びフィーリの方を向いてしまった。


 全くもって、意味がわからない。

 言葉はわかるが、頭が理解するのを拒否しているみたいだ。


 運命の犠牲?

 相反する血?

 なんの事だ。さっぱりだ。


《ルエルエリエンディレンは、俺の事も知っているというのか?》



 頭の中でかの神獣が話していた言葉を反芻するも、余計に訳が分からなくなってくる。

 思考の渦に飲まれそうになった時、不意に聞こえた叫び声が意識を現実に引き戻した。




「逃げろーっ!! 魔物の大群だ!!」




 けたたましい警鐘が(やぐら)から鳴り響き、人々を混乱へと誘う。いつの間にかすぐ側まで近付いていた地響きと、恐ろしい唸り声の数々に誰もが恐怖で顔を歪めた。



 "魔物"



 そのおぞましい言葉が、それも大群ですぐそばまで迫っている事が、何より信じがたかった。

 しかし、鳴り止まぬ警鐘や騎士達の怒号が、それを現実のものとしていた。

 幻想的だった世界が一転し、突如として恐怖の渦に叩き込まれたように感じる。



「全員退避! 騎士団の者は各自持ち場に戻り、陣形を整えよ!」

「住民の避難を誘導せよ! 老人子供には手を貸してやれ!」

「森より魔物の大群が接近! 弓隊は櫓へ向かえ! 魔法士は援護せよ!」



 ダンケ達がいち早く状況を理解し、指示を飛ばし始めた。ハインリッヒやカイル達もダンケと共に指示を出しながら、逃げ惑う人々を掻き分けて櫓の方へと走ってゆく。

 恐らく、そちらが魔物が現れた方角なのだろう。


「キール! お前は早く逃げろ!」


 ムースに肩を叩かれ、俺はハッとした。


「そうだキール、ここは森に近い。 早く安全な場所へ行くんだ。駐屯所の方まで行けば、比較的安全なはずだ」

「俺も皆と戦う!」


 ケビンからも逃げるよう言われたが、俺はただ逃げることなどしたくなかった。

 しかし、いつになく険しい顔をしたムースが、強い力で肩を掴んで留めようとする。


「駄目だっ! キール、お前は騎士ではない。

 忘れるな。なんの為に力をつけようとしたのか。 何がお前の優先すべきことだ? お前の守るべきものはなんだ!」


「俺は……、俺が守りたいのは……」


 そうだ。俺がまず何より確認しなければならないのは、フィーリの安全。

 それに、騎士でない俺では皆の足出まといになるだけだ。


 俺はムースを見上げ、頷く。


「ムース、分かった。俺はフィーリを連れて、砦まで逃げる。 皆も気を付けて」


 ムースは「ああ」と頷き、ダンケ達の後を追って駆け出していった。

 ケビンとミドも、後に続く。



 俺は皆を一瞬だけ見送って、視線をフィーリ達に戻した。


 フィーリは精霊たちに囲まれて、まだ泉の傍にいた。傍らの神獣は、逃げ惑う人々を目を細めて見つめている。


 泉の前にいた人々は互いに押し合いながら、我先にと逃げ出していたが、何人かはその場にとどまって神獣と精霊たちを拝んでいた。


「精霊様! 私達をお助け下さい!」

「今こそ貴方様のお力を振るう時ですぞ!」

「フィーリ! 精霊様に助けて下さるように言って!」


 それらの人々は、日頃フィーリを虐めたり、悪意を持って接してきた奴らだった。

 俺は急いでフィーリの方へと向かうが、人の流れが強すぎて、思うように進めない。



 神獣は只只、自分を拝む人間を見つめていた。



ワレワ(我は)サバキノバンニン(裁きの番人)


 ルエルエリエンディレン


 オロカナニンゲンドモ(愚かな人間共)


 ナガキニワタリ(永きに渡り)   ワレラガオトメニシタ(我らが乙女にした)シウチ(仕打ち)


 ワスレルトオモッタカ(忘れると思ったか)


 タスケハセヌゾ(助けはせぬぞ)   ナンピトタリトモ(何人たりとも)


 コノチニイキヅク(この地に息づく)   モノドモヨ(者共よ)


 スベテガムニカエル(全てが無に帰る)   ソノサマヲ(その様を)


 ミトドケテヤロウゾ(見届けてやろうぞ)!!!」



 美しいはずの獣は、鋭い牙をむき出しにして、荒々しく射殺すような残忍な目をしていた。

 あまりの迫力に、見当違いなことを言っていた村人達も真っ青になって震え始める。


 神獣の助けを得られないと理解したのか、その場にとどまっていた村人達がくるりと向きを変え、こちらに迫ってきた。

 他の皆が向かう砦に逃げる事にしたようだ。



「おい、小僧! 邪魔だ! そっちに行っても無駄だぞ!」


 流れに逆らって進む俺に苛立って、ぶつかりざまにそう怒鳴る者がいた。

 けれど、俺は無視してそのままフィーリの方へと走り続ける。



《一緒にするなよ…。 俺は自分が助かりたいからって神獣に縋りに行く訳じゃない!

 都合よくフィーリに胡麻すりやがって……クソっ》



 腸が煮えくり返りそうだ。

 フィーリがどんな思いでいたか、どんなに傷ついていたか知らない癖に!



《お前達が傷付けたんだろうがっっ!!!》



 こんな時でなかったらぶちのめしてやるのに。



 内心で盛大に舌打ちしつつ、なんとか泉の前に辿り着いた。あともう少しで、フィーリに手が届く。

 近付いてきたのが俺だと分かると、フィーリは少しほっとしたように見えた。



「フィーリ! 早く逃げるぞ!」



 そう言ってフィーリに伸ばした俺の手を、掴み返そうとした彼女の顔が突然、恐怖に染った。


 何事か思案するより先に、背中に感じる、異常なまでの猛烈な熱さ。

 視界が点滅し、何か赤いものが飛び散っていく中で、フィーリが神獣に咥えられ、精霊たちと共に泉の中へと飛び込んでいくのだけがハッキリと目に映った。





「キールッッッッッ!!!!!!! 嫌ぁああぁぁあああああ!!!!!!!!!!!!!!」





 泣きそうな顔で、悲痛な叫びと共に此方へと精一杯伸ばされた彼女の手が、虚しく空を切った。

 握り返したいのに、世界が回る。

 跡形もなくフィーリが消えてしまったというのに、それを追いかけてゆく事も出来ない。

 なんで─────。





「フィ…………リ……」





 世界が闇に包まれ、そして──────。








読んで下さり、ありがとうございます!

いいね・高評価☆☆☆☆☆して下さると、作者のやる気が倍増致します( * ॑꒳ ॑*)

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