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01 私なりの幸せ

最後までお読みいただけるとありがたいです……。

本当に幸せに突っ走るお話です。

気楽に楽しんでいただけると嬉しいです。

誤字脱字は都度直しますので感想も含めお待ちしております。

「殿下、メアリ様がご到着なさいました」


 執事は深礼をして、後ろに控える私を引き合わせた。


「ルドルフ殿下、お待たせを致しました」


「――うむ、行こうか」



 半年後の結婚に備え、今日は2人で式次第しきしだいの確認、招待者の選別などを行う予定だった。

 私の慎重な所作と詰まった予定に明らかに彼は苛立っている。


 殿下にとっては3度目の結婚だったが、私は一生に一度の大切な儀式の準備だった。


 それでも、殿下にお会いするのは今日で4回目、結婚式当日で5回。そして妻になる。

 私の家のような中流貴族が皇族に嫁ぐことは、百年に一度、千歳一隅、まさに奇蹟!

 巷では妬みと好奇、異彩の2人として話題だった。



 周りの者たちは殿下の黒い噂や、年齢差など悲観しているが、私自身もあまり人に言える立場じゃない。

 父や母は断ることも喜ぶことも出来ず困惑しているようだったが、私は恩を返す機会を与えてくれた神に感謝をし、夫となる人物の評価など気にならなかった。



「――兄上の皇帝陛下から、祭礼では神剣を下賜され――」


 午後の打合せの開始が遅れ、既に夕暮れを迎えても予定の半分しか終わっていない。

 ルドルフ殿下は無言のまま怒りを溜めているのが誰の目にも明らかだった。

 決裁を取るにも進行役はおののき、指先まで震えながら、感情を殺して確認をしている。



「ええい! 私は帰る! 勝手に進めておけ!」


 立ち上がり、怒りに震える彼は私たちを見下ろしながら、立ち去ろうとしていた。


「お、お待ちを! 殿下、もう少しだけ!」


「うぬ等はそれしか言えんのか! メアリ、おぬしに任せる。セバス、戻るぞ」


「はっ」



 結局私の目も見ず、立ち去ってしまった。

 残された私たちはどうしていいか分からず、関係者や進行役は呆然となる。



「お、お嬢様、大変失礼いたしました、なんと申し上げてよいのやら……」



 進行役は消え入りそうな声で震えている。


「心配なさらずに、私は大丈夫ですよ。それよりも、もう少し私たちで煮詰めましょう」


「は、はぁ」


 私は彼らを心配させまいと、王宮に仕えるために勉強した知識を生かしながらひとつひとつ整理をしていった。


 結婚式の前後も含め、おおよそ掴むと、当日のスケジュールを教えてもらいながら少しずつ理解を深めていく。

 進行役の説明を受けながら、メモを取り、頭の中で再構築をしていった。



 一刻程掛ったが、夕食後に再開することにして、私はここぞとばかり関係者全員を呼んでもらうことにした。

 総勢36名の家臣や神官たちを前に、思いの丈を伝える決心を固める。



「皆様、この度ルドルフ殿下と不詳私わたくしの結婚式のご準備をしていただき、ありがとうございます。殿下は先に下がりましたが、式の始終を私に託しました。この先のお打合せは――すべての責任を私が負います、まずは無礼講で話し合いましょう」


 何が始まるのか不安な者たちから一斉に声が漏れた。



「皆様のご想像通りです。……ふぅーーー。正直、つまんないですよね?」


私は吐露した気持ちに同意を求めていく。まずは共感から始める。


 どよめきと失笑が漏れる。当事者がこれでは誰も本気なんか出さない。



「おっかなびっくり、自分の命を懸けてまったく面白くもない、何のためにやっているか分からない儀式を皆さんはやらないといけない。こんなおかしな話、聞いたことないです」


「お、お嬢様、皇家には、伝統というのがありまして――」


「ええ、存じております。詭弁に聞こえるかも知れませんが……だからこそ伝統を作ることも私の役目だと思います。――もっと簡単にいうと――つまんない、長い、幸せにならない! のオンパレードです」



「……」


「中流の出で言うな、って顔していますが、私は割とどうでもいいんです。――来てもらった方やお世話になった方の気分を害し、一生を傍で遂げる殿下に最悪の感情まま夫婦になって欲しくない、これに尽きます」



「「確かに」」



 周りの同情を買うつもりはないが、政略結婚とはいえあまりに不憫で悲しい。

 誰からも祝福されない式なんて嫌すぎる。



「しかし、何をどう変えるのですか?」


「そうですね……まず皆さんに変わっていただきます」


「我々、ですか?」



 それぞれが首を傾げ、お互いの顔を見合わせた。

 いい兆候。これならきっとうまく行く!



「先ほども言いましたが、命がけの結婚式って何でしょうか? 本来は2人の祝福の前にはどんな失敗でも笑い、ハプニングを楽しみ、門出を祝うものでは? 儀式は大切ですが、雰囲気とはまったく別です」


「た、たしかにその通りですが、実際に進行するのは私たちです。ひとつでも失敗は……許されません」



 進行役の重い空気に皆が押され始める。



「はいはーい、そこまで! 皆さんはプロとして実力を最大限に発揮する、このことに失敗は許されないだけです。当日に何が起こるか分かる人がいるんですか? ――ですので約束します。プロの矜持を持たない人の咎はあって当然ですが、準備を越えるようなことが起きた場合は私が真っ先に笑い飛ばします! もちろん殿下も同じです。罪に問うようなことはさせません」



「――そこまでおっしゃるなら。承知しました。私はお嬢様に賛同します」

「私も……やりましょう!」



 次々に関係者や職人たちは声を上げてくれた。

 もっとも気が短く、癇癪持ちの王弟殿下をいかに楽しく、時間を忘れてもらえるか、

 ――私たち36名+花嫁のミッションが始動する。



 進行役が早速大事なことを聞いてきた。



「まず、お嬢様のお考え、全体像を聞かせていただけませんか?」


 関係者の前で話すのは緊張したが、数々の経験が生かせるこの場で躊躇いは一切なかった。



「まず! 時間を縮めます! 皇族の結婚式は、貴族のものとあまり変わりがありません。司教様が教主様へ、仲人が皇帝陛下に変わるだけです。それなのに式の進行も飽きてしまうものばかりで、2日間もお客様を拘束してしまうことになります」


 私は立ち上がりそうになったが、こらえ、なるべく皆に伝わりやすく本音を織り交ぜた。



「次に! 披露宴はただの社交場で誰も新郎新婦に気を留めていません。料理は冷たく美味しくない。疲れ切って話も盛り上がらない。成人しか入れないため、子どもに幸せな姿や将来の希望すらみせることができません。――大きくいえばこの2つを変えます!」



 ここに居る者たちは既に私と同じ気持ちだった。もう止まれない。いくしかない!



「……時間ですが――1日に短縮します。――お昼から初めましょう」



 破壊力十分な言葉だった。あちこちから悲鳴に近いどよめきが起こる。



「具体的にはお客様には結婚の宣誓と披露宴のみに参加いただきます」


「す、すみません、陛下の下賜や祝言、拝礼などはどうなさるので?」



 進行役以上に祭礼司教や儀式官吏が心配の声を上げる。私は最初に気付いた矛盾点を挙げる。



「もともと教会、神の前で行うことが必須の儀式は教主様の祝詞と結婚の宣誓しかないですよね?」


「そ、そうですがだからと言って皇家の大切な儀式をやらない訳には……」


「いえ、すべて行います。やる場所と順番、タイミングがおかしいと思います」



「「「……!」」」


 司教は大いに納得をしていたが、王宮側は慌てた。



「私の知識はにわかですので、途中おかしなところがあったら修正してくれませんか?」


 私の問いに一同が頷いた。



「帝国の起こりは1人の英雄の物話でもあります。結婚式にもこの英雄譚にならい、様々な儀式が結婚の宣誓後・・・に半日あると聞きました。ここまでよろしいでしょうか?」


 誰も異議を挟まない是と受けとる。



「実際の史実は、立国の英雄は皇帝に就かれてから皇后をお迎えしています。しかも結婚まで2人は一切の面識が無かった、と。そこで同様に、英雄とまったく同じに振舞ってもらうのです」



「「「おお……」」」



 感嘆の声は上がっているが、イマイチ納得をさせられていない。

 ここで助け舟が欲しい。どうしても歴史は苦手だ。



「具体的には……どのような本位儀式です?」


 殿下の付き人が儀式官吏に尋ねる。



「そうですな、開国の英雄エイデンに倣うなら……順番は悪を討つことを誓い、剣を授かる、祓い魔の剣舞を行う。最後の出征に出て、魔を倒し、救国の英雄として帰還、その後開国。――結婚式で行うのはこのうち神剣拝受と剣舞、神前報告の3つだ」



「なるほど……それなら神剣拝受を陛下の民衆講話に合わせるのはどうだ? 結婚はもう周知済みだ。しかし日程は1か月前に告知される。告知の後に儀式、そして陛下の講話と続けば不自然さはない。しかも集客効果もあり、陛下の尊厳は崩れない」


「うーん、良い流れだと思うが何か足りない」



 それぞれの意見が活発になってきた。私は呼び水を投げてみる。


「いっそのこと陛下にもご参加いただき、生誕祭に合わせるのはどうでしょうか?」



「「おお!」」


「しかし……」


「いや、いい案だ。 結婚式の2ヵ月前に生誕祭が行われる。余興も多く、陛下を英雄と同一視させるには丁度いい機会だ。殿下とご兄弟でこの一連の儀式を執り行えば結婚式では必要ない」


「陛下を差し置いて殿下を英雄視しないだろうか?」



「それは問題ない。殿下が陛下を初代皇帝の冠名で呼ぶだけでいい。もっというと剣舞もご兄弟でおこなえば……どちらの人気も上がる」



 知恵者同士の話は白熱していき、やがてスケジュールが完全に形になっていく。



「陛下の生誕祭に儀式を合わせて行い、剣舞はご兄弟でできれば行い、〆の武術大会に優勝者にも称えてもらう。武術武技に秀でる陛下と殿下ならきっと喜んでくれるのではないか? 皆どう思う?」



「いい提案だ」


「私は支持するぞ」


 確認から賛同の声が上がり続け、今まで以上に儀式に重きを置け、王族の威光と尊厳は増した提案だった。

 それに伴い、すべての骨子案がまとまったときには夜中を過ぎており、あまりの白熱ぶりに全員が徹夜覚悟だったが、私が先にダウンした。

 明け方には素晴らしい上奏文が出来ており、承諾を得て初めて私の結婚式が始動することになる。



 計画は完璧に思えたし、官吏たちの自信も感じられたが、私は政治の駆け引きには疎く、決まるまで気が気でなかった。



宜しければブクマ評価などいただけたらありがたいです。

お時間をいただきありがとうございます。

よろしくお願いします。

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