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女の中で男が一人  作者: 零位雫記
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08

ゴールデンウィーク初日ということもあって交通機関は混み合っていると予想していたが、みんな朝から活動しているのか、昼がとうに過ぎた電車内はそこまで人がおらず、座ることができた。


 電車に揺られる。窓越しに外を見れば、快晴。青空と所々に白い雲。今年のゴールデンウィークはすべて晴の予報だ。


 外の快晴と同じように車内の人々の表情も、始まったばかりのGWに喜々としているようで、みな晴れやかに見える。


 だが、ぼくの表情は彼らと違っていつの間にか真顔になっていた。


 家を出たときはウキウキしており、電車に乗った直後もウキウキワクワクしていた。だが、窓の外を見たり、周囲の人の表情を見ているうちに、ぼくは自分が無表情になっていることに気がついた。


 不安になっていた。


 周囲の大多数の人は、それは当たり前のことなのだが、自分が知っている人――家族、恋人、友人らと出かけて、または待ち合わせをして遊んだり食事したりする。でもぼくが今日神戸の三宮で待ち合わせしている人は、顔も本名も知らない人だ。


 そういえばとぼくは思い返す。


 OTQは、そのゲームを始める前に規約の同意が必要で、その中に、「出会いの目的として当ゲームを利用することは固く禁じます。ただ、当人同士で会う約束をし、そのことで問題が発生したとしても弊社はなんら責任を持ちません」という一文が記されていたことを。




(やっぱりまずかったかな?)




 日和見部隊のみんなと逢えるということで、ぼくは物事を冷静に考えられなかったかもしれない。よくよく考えれば、OTQを販売、運営する会社も規約の中で警告していた。面識のない人と会うということはなんらかの犯罪に出くわすことがあるから注意、警告を表示しそれに同意を求めたのだ。


 ぼくは、ウェブサイトを介して見ず知らずの男女が顔を合わせるという、いわゆる出会い系サイトといったツールを利用したことがない。利用したことがないから、知らない人と会うことも初めて。考えれば考えるほど、今日みんなと逢うことは尚早だったのかもしれないと不安になってくる。今日会う人が男か女かさえわからない。うわぁ、みんなと会うべきじゃなかったか・・・・・・。


 いつの間にか不安は後悔へと変わっていた。


 今からたちゃねさんに電話をかけ、今日行くのは止よすことにしようか・・・・・・。あぁあ、見ず知らずの他人と会うなんてなんと軽率な約束を取り交わしてしまったんだ・・・・・・。


 しばらく後悔を抱えながら電車に揺れていた。三宮までいくには一度乗り換えが必要であり、そのことは事前にインターネットで調べてわかっていたのだが、今から他人と会うことを考えすぎていたため、その乗り換えの駅に到着し、停車しているのにも関わらず、ぼくは座席に座ったままで、開きっぱなしの扉から見えるホームの風景をぼおと眺めていた。が、ホームの柱に縦付けされたプレートを見て、はっとした。プレートには乗り換えの駅名が記されていて、この駅で下車しないといけないことに気がつくと、リュックを抱えたまま急いでホームに降りた。


 電車の中で色々考えすぎたのか、それとも急に座席から立ち上がったためかよくわからなかったが、目の前が眩くらみその場でフラフラした。数秒間、視界は薄暗かったが、すぐに回復した。回復直後、眼下からの光を感じそちらへ視線を集中させた。そこには二本の鉄の筋があった。果たしてそれは線路。二本の鉄筋は快晴の太陽に照らされ眩しく光っており、この5月初旬の太陽光でもそれが大量の熱を内包していることが触れなくともわかる。ホームに風はなく、暑かった。ぼくは線路を見ながら腕まくりしようと手首のボタンを外した。そのときだった。心地良い涼風の流れが、ぼくの左頬を撫でていった。ぼくは撫でられるまま吹いていった風を見送ると、首を返し風がやってきた方角をみた。そこにはどこまでも続く線路があった。延々とした線路の先には神戸三宮がある。


 ・・・・・・・・・・・・だれしも初見のときは、互いに互いのことは知らない。


 そうだ、知らないぞ。


 しかもだ。知ったからといって、良好な関係が築かれるとは限らない。


 ぼくは日和見部隊の人たちと今まで顔は直接合わせなかったが、二年も一緒にゲームしてきたのだ。彼らが何歳で本当の性別もわからないが、チャットで知り得たぼくなりの分析では、一人でも極悪人がいるパーティーだとは考えられなかった。




「大丈夫・・・・・・」




 風が不安と後悔をどこかへ飛ばしてくれたみたいだった。ぼくはリュックを背負った。一分後、神戸三宮行きの電車がホームに入ってきた。ぼくは力強くその車両に乗り込んだ。

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