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ぼくの日常は、起床して朝食(主にトーストとゆで卵、スーパーに売っているサラダ)を食べ、卒業した大学の書店に30分ほど自転車をこいで通勤し、そこで夕方まで働き、帰宅後夕食(主に自作のカレー、インスタントの味噌汁、サラダ)を摂り、風呂に入ってから小説を書き、キリがついたら就寝するというものだ。
ただ、金曜の夜と祝日の前日の夜は小説は書かず、OTQをプレイする。
チャットをしながらゲームするうちに、ぼくら日和見部隊は、それらの日にプレイすることを決めたのだ。
でも、いつも決まった日にメンバーが揃うとは限らない。
しるヴぃあさんがプレイできないときもあるし、ぼくだってこの二年で数回ゲームに参加できないときがあった。他のメンバーも同様に用事かなにかで不参加のときもあった。が、そんなときは、プレイヤー無しでそのプレイヤーが操作しているキャラをパーティーに同行させることはできる。
OTQでは、キャラ自体のレベルを上げるには、クラスがファイターの場合だったら、モンスターに直接打撃を加えると攻撃技能が上がり、またモンスターの攻撃を盾で防げば防御技能が上がるということになっている(最終的に各クエストのボスモンスターを討伐しないとそれまで倒した雑魚モンスターや中ボスを倒したときに得た技能レベルはご破算となってしまう)。
プレイヤーがいないキャラは、オート機能によってパーティーに同行はできる。が、動きはすこぶる単調で、はっきりいって足手まといになりがちなのだが、それでもモンスターと戦い、最後にボスモンスターに勝利すれば各々の技能レベルは上がるので、パーティーメンバーもメンバ一不在のキャラを同行させるのだ。
ただし、メンバー不在のキャラをパーティーに同行させてもパーティーランキングは上がらない。プレイヤー全員が揃ってモンスターやゲーム内で与えられる謎を攻略しないとそれは上がらないのだ。
そうなると、二人だけのパーティーは、メンバーが揃いやすくパーティーランキングが上がりやすいと思われるのだが、そこはゲームの販売会社も考慮していて、あるゲーム誌の情報によると、同レベルの二人パーティーと五人パーティーが同一のクエストを攻略して得られるパーティーランクの上昇率は、およそ百倍は違ってくると算段されている。つまり五人パーティーが、あるクエストをクリアし、例えばパーティーランキングが「1」上がったとして、その同一のクエストを二人パーティーは百回クリアしてようやく1上がる計算となるのだ。
このゲームは、最少数(2)と最大数(5)のパーティーを比べたとき、パーティーランキングを上げることに関して見れば圧倒的に後者が有利なのだ。
パーティーランクはOTQを進めていく上でもっとも重要であると言われていて、このランクが上がればあがるほどそれ相応のクエストが用意され、そのクエストをクリアすれば、大量の技能レベル、莫大なお金、上級アイテムが獲得できる。だからプレイヤーたちは、キャラのレベル上げにも勤しまなければならないが、それにも増してパーティーランキングを上げることに気を遣わなくてはいけないのだ。
だがぼくらのパーティー(日和見部隊のリーダーであるたちゃねさんは、パーティーと呼ばず、チームと呼ぶ)は、あまりパーティーランキングのことは気にせず淡々とゲームしてきた。淡々としてきて気がつけばパーティーランキング103位。
このゲーム内外で日和見部隊といえばちょっとした有名集団だった。
どこの誰だかが、このゲームに関するブログを開設し、その中でも日和見部隊のことが掲載され、何回か話題にもなった。
ぼくもそのブログをたまに覗くことがある。
ブログには、OTQでのパーティーランキングの他、プレイヤー個人の総合レベルランキング、個人の技能レベルランキング、ゲーム内で得た称号数のランキングなど、様々な情報が記載されている。
日和見部隊のメンバー構成もご丁寧に記載されており、以下がそのメンバーの
五人。
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たちゃね(女)27歳・ヒューマン・ウォーリアー・総合レベル136(リーダー)
灰我(女)112歳・エルフ・ビショップ・総合レベル67
しるヴぃあ(女)25歳・ヒューマン・ソーサラー・総合レベル99
SOW1008(女)108歳・ドワーフ・ファイター・総合レベル198
アーロ(男)23歳・ヒューマン・シューター・総合レベル109
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ちなみにぼくが使用しているキャラはアーロ。クラスはシューターで主に弓矢を武器にモンスターと戦う。
総合レベルとは、各技能レベル(攻撃、防御、耐久、魔力、俊敏)の平均から割り出されたレベルで、このレベルが上がることによって、クラスチェンジができる。ぼくの場合だと総合レベルをあと11上げれば、「スナイパー」という上級クラスにクラスチェンジできる。
前記のメンバー表を見てわかるように、この日和見部隊、ぼく以外のキャラの性別は全員女性。
ぼくは年齢、性別共に現実世界での自分のものをキャラクターに反映させている(OTQの世界は、現実世界の時間経過と同じく時間が進む。ぼくがOTQでキャラ登録したのが21のときだから現在23歳。エルフやドワーフは登録した年齢に3~10の数字がランダムに掛けられる)。
他の人はどうなのだろうか?
ゲームのチャットでプライバシーに関わることとか、プライベートな話題をほとんど話したことがないので、他の人がどこに住んでいて、どういう素性の人なのか、実年齢がいくつなのか、まったくもって不明だった。
ゲームではぼくのキャラ以外の性別は女性だが、キャラを操作するプレイヤーが実は男性ということも有り得る。
もしも仮に、今後パーティーランキングが100位以内に入り、日和見部隊のメンバーと直に逢うことになれば、実は全員が男、しかもぼく以外は中年男性といことも否定できないのだ。
まぁ、それはそれで面白いのだが、果たしてメンバーと直に逢うといことは現実味があるのだろうか?
ぼくは大阪府に住んでいる。他の人はどこに住んでいるのだろうか? OTQは全国各地でプレイされているゲームだ。北海道でプレイしている人もいるだろうし、沖縄でプレイしている人もいるだろう。たちゃねさんは東北地方に在住しているかもしれないし、灰我さんは九州のいずれかの県に住んでいるかもしれないのだ。やはりみんなと逢うということは無理がある。それにみんなもきっとこの約束を忘れている。
「――やばい、遅刻する!」
トーストを口に押し込み牛乳を飲んで身支度をしてからぼくはすぐにバイトに出かけた。