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女の中で男が一人  作者: 零位雫記
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02

日和見部隊がOTQでパーティーランキング103位となった次の日の朝、ぼくは目覚し時計が鳴るよりも前に目が覚めていた。しかしベッドからは起き上がらず、ずっと横になっていた。


 ぼくはこの年の三月に大学を卒業した。卒業はしたが、どこの企業にも就職していない。ぼくには夢があった。それは小説家。小説を書いて身を立てようと夢みていたぼくは、どこかの企業に就職し働くというイメージが湧かず、みなが就職活動の最中さなかでもそれをおこなわず、小説ばかり書いていた。


 ぼくは今まで、自分の作品を三作ほど出版社に投稿していたが、どれもなんの賞にもかからず、現在に至っている。


 元々ぼくは、自分でいうのも気恥ずかしいのだが、純文学作家を目指していて、そういう現在世界を描いた作品ばかり書いていた。


 が、応募した作品は一次審査も通らない。それを考慮し、もしかして自分は純文学には向いていないのかもと、今考えると自分で自分を慰めるために――いや、視野を広げて作品作りするのも手かと、もっと違う分野の小説も書いてみよう


 としたのだ。


 小説の分野にはぼくの知る限り純文学の他、私小説、ノンフィクション小説、推理小説、時代小説、歴史小説、冒険小説・・・・・・など様々な種類の形式がある。


 だがしかし、ぼくが興味をもった分野は前記のどれでもなく、純文学からはもっとも遠い位置にあると考えていた「ライトノベル」だった。


 ライトノベルの分野は、今やネットから投稿できるサイトが数多く存在し(もちろん純文学や他の分野の小説も投稿できるが、ライトノベルが占める割合が他を圧倒)、出版業界も注目しているのだ。


 実際、ネットに投稿してそこから出版社に認められ、書店に自分の作品が並ぶ人も増えてきている。


 だからぼくはライトノベル作品を完成させてあるサイトへの投稿を考えていた。


 でも今までそんな物語書いたことがない。


 ライトノベルによくある話は、ファンタジーの世界のお話。


 ドラゴン、ユニコーンなど想像上の生き物がその世界では生息し、その世界に生きる人々を描いた作品。それがライトノベルの概要。ぼくはそう認識していた。


 でも、ファンタジー系の作品をあまり読んでこなかったぼくは、その世界に疎く、書こうにも書けないでいた。


 だからぼくは、ライトノベルーー特にファンタジーの世界観を知るために勉強を始めた。ファンタジーに関することが記された本や雑誌を読み始めたのだ。


 これがおもしろい。ファンタジーといっても、ドラゴンやユニコーンだけではもちろんなく、ギリシャ神話、クトゥルフ神話、アーサー王伝説など物語を書く上で参考になる書籍を読みまくった。


 映画も観た。アニメも観た。


 そしてこれらと並行して始めたのがOTQだった。ぼくは今一人暮らし。


 両親は健在だが、彼らは日本を離れ今ベトナムで生活している。


 父親が商社に勤務しており、その仕事の関係でベトナムに赴任しているのだ。


 母も父についていった。旅行感覚で母はついていったのだが、もう彼らは予定の赴任期間一年を余裕で越え、すでに三年向こうで生活している。よほど仕事が忙しいのか、それとも居心地がいいからかわからないが、両親がその三年間で日本に帰国したのは、わずか二回だけ。


 ぼくの過ごす家は二階建てで、ダイニング、リビングの他に部屋が三つある。この家に独りでいるのはとても寂しく、ぼくは在宅時に不特定多数(のちに特定の人だけとなるが)の人とチャットしながらゲームができ、しかもファンタジーの勉強もすることができるということでOTQを始めたのだ。


 これがよかったのが、想像上の敵

ゴブリンやドラゴン

に実際に遭遇し、戦い、ときにはその強さに驚き、ときには不意の遭遇でびっくりするという臨場感を味わえたことだった。


 これは物語を書く上で、登場人物の心理面に使えると思った。あとゲームに出てくる多数のアイテムや武器の名称も独創的で参考になった。


 ぼくにとって、ファンタジーの世界を知るために始めたOTQだったが、その面白さにのめり込んでしまった。のめり込んでしまったが、物語を書くことも並行しておこない、ゲームを始めてからも十二万字ほどの作品をニ作完成させていた。でも出版社が主催する賞や、ネットには投稿せずにいた。それは、単純に作品に自信がなかったから。もっと推敲する必要があると思ったから。


 ぼくは大学二年の頃から、通っていた大学構内にある書店でアルバイトとして働いており、卒業した現在もその書店で働かせてもらっている。


 そこでは何冊かのライトノベルも販売されていて(この書店でとあるライトノベルを手にしたのがファンタジーの世界に興味を持ったきっかけ)、ぼくはそれを社員割引で安く購入して仕事の休憩時間や帰宅してから読んでいた。


 その読んでいた作品と比べてもぼくの書いたモノは作品としてインパクトが欠けているように感じ、投稿するにはまだ早いと思っていた。


 自分の作品はなにかぶっ飛んでいない。


 平凡なのだ。


 ただ空想上の生き物を出し、ファンタジー感を演出しているだけ。表現方法も堅苦しく、気軽に読めない。


 もっとファンタジーの世界に没入しないと! もっと表現に目を配らないと!


 天井を見ながらあれやこれや考えていたら、目覚し時計がけたたましく部屋に鳴り響いた。ぼくはベッドから跳ね起き、下の階へ朝食を摂りに行った。

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