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「――わたくしにはよく聴く音楽がございます」
「もしかして幽霊の霊に、座るってかいて霊座
レーザー
の曲か?」
たちゃねさんは横を向いて灰我さんに問うた。たちゃねさんの飲み物は先ほどから生ビールからワインに変わっている。生ビール六杯をオフ会開催から一時間ほどで平らげたたちゃねさんは、ワインも美味しそうだなと灰我さんにスイッチを押してもらい伺いにきた店員さんに灰我さんやぼくが飲むものと同じワインを注文した。顔色はそんなに変化してないが眼球が少し赤っぽくなりそれが血走って見えるのはぼくだけか。
「ええ、よくご存知で……」
当たってんだ、たちゃねさんの言ったバンドの名前。レーザーっていうバンドがあるんだ 僕は知らなかったそんなバンド名。
「あれじゃろ、霊座のボーカルって灰我だろ? まだメジャーデビューはしてないけどインディーズじゃ有名なもん霊座は。オレもヘビメタたまに聴くから霊座知っててそのボーカルが灰我っていうことも知ってた。その名前を日和見部隊で目にしてひょっとしたらこの人霊座のファンなのかなぁってずっと思ってたんだけど、灰我のチャットって上品でとてもヘビメタ聴く人じゃないって思っていたから、偶然に名付けてできたキャラの名前とおれは思ってた。でも偶然じゃなかったんだな、やっぱ霊座のファンでそのボーカルの名前をキャラにつけたんだ。
「ええ、そうです」
灰我さんは頷く。
で、霊座ってバンドがOTQを始めるきっかけにどういう関係があんの?」
と、灰我さんに尋ねたたちゃねさんはすぐさまワイングラスを傾ける。
「はい。わたくしは、正真正銘霊座のファンでございます。そしてこれは霊座のファンの間でまことしやかに囁かれていることなのですが、その霊座のボーカル灰我さまが、このOTQをプレイしていると霊座の交流サイトで噂が立ちまして、そのわたくしはその霊座の中でも特に灰我さまの大ファンなので、ゲームとはいえ灰我さまと同じフィールドの中に立てるならとこのOTQをプレイした所存で、『ございますっ!』
灰我さんのコメントを聞き終えた瞬間、彼女以外の全員が目を丸くした。最後の、『――ございます』があまりにも大きな声で、一同びっくりしたのだ。しかもだ、しかもその最後の「ございます」と言ったのと同時に灰我さんはぼくの方に目をきっと鋭く向けたのだ。ぼくはその瞬間、ギリシャ神話に登場するメデューサに睨まれ石化したかのように硬直してしまった。
「そ、そうなのか……」
さすがのたちゃねさんもなんだかわからない灰我さんの圧力に覇気弱めに声を出した。まだ灰我さんはぼくを見ている。じっと。
「灰我、大丈夫カ?」
しるヴぃあさんが心配げに声をかける。
「え? あっ、はい、すみません、わたくしとしたことが少し酔ってしまったのか、大きい声を出してしまいました。申し訳ありません」
「よ、酔ってんの灰我? おまえ今飲み干したグラスでまだ二杯目だろ? おかわりしろや! 酔うことはいいことだ。みんな飲もうぜ、おれも一緒にワインのおかわりしてくれ!」
「私モワインニスル!」
「じゃあわたしもワインにしま~す」
何かたちゃねさん以外の人も様子がおかしくなってきた。アルコールで精神に火がついたのか? しるヴぃあさんが声高らかに意味もなく笑っている。ぼくの隣にいるSOWさんも奇声を出している。
「――おえっ? わりゃ、どうするでアーロ?」
「へ?」
「なに注文するんじゃ?」
「い、いや、ぼくまだグラスにワイン残ってるんで」
「そんな量今すぐ飲み干せや」
「は、はい」
ぼくは飲み干した。
「同じもんでええか?」
「はい、同じくワインで」
「おっしゃー、灰我、ボタン押せい!」
「御意」
灰我さんはくるっと華麗に翻り、背後にあるスイッチを押す。すぐさま店員さんがやってきて注文を聞き襖を閉めていった。
「今日も飲んで飲んで飲みまくるでー!」
たちゃねさんが絶叫した。