13
「へぇー、元々日和見部隊に最初に入隊したのは、SOWさんだったんですか?」
「ああ。おれもSOWもカース(呪い)の状態で作成したキャラだから呪いを解くクエストをまずクリアしなくちゃならなかったんだ。でもその呪いのクエストをクリアするためには、自分のキャラのレベルを上げなくちゃいけない。が、おれたちみたいに再び新しく作成したキャラがパーティーにいりゃあ、呪いの制約として、得られる経験値が通常の十分の一になってしまう。だから呪われていないプレイヤーからしたらそんなやつパーティーに入れるメリットが無いからおれは自分自身で日和見部隊を立ち上げたんだ。そしたら、SOW1008と『タレタレ』『明日の注射が』パーティーに加わってくれたんだ」
たちゃねさんは今、日和見部隊誕生のいきさつについてぼくたちに説明してくれている。
OTQは、それを新品で購入すれば、IDを取得でき、それをもとに個別のキャラを作成することができるのだが(1ソフトにつき作成できるキャラは一体まで)、そのキャラを何らかの理由で消去し、また新たなキャラ(二度目)を作成するときには、ペナルティとして出来上がったキャラに呪いの付加が科せられる。OTQゲーム内でも普通にプレイしていても、敵魔法使いが放つ呪いの魔法を受けたり、ある武器、ある防具、あるアイテムを身につければ、そのキャラは呪いの状態になるのだが、その状態は、街にある教会にいけば解除することができる。
が、二度目(それ以降も)にキャラを作成したときに科せられる呪いは、通常の呪いよりパワーアップしており、教会に行っても解除できない。解除するには、たちゃねさんが言っていた特別なクエストをクリアしなければならないのだが、これがなかなか骨が折れるクエストのようで、クリアは相当難しいようなのだ。
しかもたちゃねさんが言っていた通り、パワーアップした呪いにかかっているキャラが一人でもいれば、得ることのできる経験値が通常(呪われた者がいないパーティー)の十分のーしか獲得できない。
このパワーアップした呪いだか、販売元のゲーム会社がソフト購入者
プレイヤー
がキャラを作ってはそれを消し名前を変えてまたプレイ、また名前を変えてプレイするというを防止する目的で作ったと言われている。
OTQが販売された当初はこのような制約はなかった。このパワーアップした呪いが誕生した経緯はこうらしい。プレイヤーの中には、チャットを利用して一緒にプレイする他のプレイヤーに罵詈雑言を浴びせ不愉快にさせる輩がおり、その輩は、パーティーを分裂させたのち、キャラを消去して新たなキャラを作成しまた別のパーティーに加わりそのパーティーを混乱させ崩壊させるということをやっていたようなのだ。
その防止案としてゲーム運営会社は、パワーアップした呪いをOTQ内に設定したというのだ。
確かにその呪いのおかげでパーティーを崩壊させる輩は減った模様。
ぼくはOTQを新品で購入し、初めからアーロというキャラでここまでゲームしてきた。
でもたちゃねさんは、弟さんが大学を卒業し、社会人として一人暮らしするために引っ越しする際に、その弟さんが置いていったOTQを暇つぶしのために引き継いでプレイしようとしたとき、弟さんが作ったキャラでプレイするのが厭で、呪いのことは知らずに新たなキャラを作り直したということだ。だからたちゃねさんは呪われた。
同じくSOWさんもメイドカフェの同僚から「結婚するからその資金を作りたい」という理由でOTQとハード本体を売ってもらい、それがきっかけでこのゲームをし始めたというのだ。同僚が作成したキャラを消去し、自分が作ったキャラを作り直して。だから呪われた。
たちゃねさんとSOWさんは、タレタレ、明日の注射、計四人で共闘して、それこそ死に物狂いで、数々のクエストをクリアしていき、呪いをとくことに成功。が、なぜか呪いを解いたところから明日の注射は音信不通となり、それからしばらくするとタレタレもゲームからキャラが存在しなくなり、日和見部隊は、たちゃねさんとSOWさんの二人だけになったようだ。そこへ灰我さん、次にしるヴぃあさんが立て続けに加わり、少しして最後にぼくが入隊したということだ。
「まっじで、ありゃー呪いのクエストはきつかったけん、なぁ、SOWよぉ?」
「はい~」
ちなみにぼくがOTQを始めた頃には傍若無人なゲームプレイヤーに対して運営側から「ウォンテッド」として、ゲーム内にそのプレイヤーのIDがさらされることになっていた。
はいーと返事したSOWさんは、今飲んでいる酎ハイで、三杯目。ちょっと瞼がとろんとしてないか。
そういうぼくもワイン三杯目。まだ意識ははっきりしているが、いつもよりペースがはやいような。まぁ、目の前にいるたちゃねさんの飲むピッチがはやいからそれに感覚が麻痺してペースがおかしくなってるのかな? まだオフ会が開催されて45分しか経ってないぞ。
「――でさ、でさ。しるヴぃあはなんでこのゲーム始めたの?」
「ワタシデスカ? エエットソレハ――」
たちゃねさんの問いかけにしるヴぃあさんはゲームを始めたきっかけを話し出した。
要約すると理由の第一は、日本語の習得だそうで、ゲームを楽しみしかもチャットで日本語の練習もできるとしるヴぃあさんは嬉々として始めたそうだ。だか日和見部隊に入隊するまでは中々決まったパーティーに所属することはできなかったようで、というのもしるヴぃあの日本語のレベルは来日したてということも拙く、しかもキーボードを使用しての日本語入力も上手くいかなくて、チャットで仲間と会話すれば、「しるヴぃあのチャット変でウケる」とか、「ゲームに集中できひんからしるヴぃあチャット禁止!」「しるヴぃあ返信おそっ」「ウザイ!!!」 「おまえがモンスター」等の心ない返信が届き、一番初めに所属したパーティーは一時間もしないうちに脱退し、その次もその次も同じような理由で脱退したようだ。
日和見部隊入隊当初は、必要以上にチャットでの会話はしなかったしるヴぃあさんは、しかし時が経つにつれ日本語はよりうまくなり、キーボードでの入力も上達していき、今は楽しくゲームをプレイしているという。
しるヴぃあさんの話が終わるとたちゃねさんはぼくにゲームを始めた理由はなにかと尋ねてきた。ぼくは、お酒が入っていることと、みんなの人となりがわかってきたということで、ここで正直にライトノベルの作家を目指しているということを披露し、その勉強の一環としてゲームをプレイしていると発言した。
「アーロさ~ん、頑張れ~」
SOWさんから激励の言葉をいただいた。
「――灰我は? 灰我はどしてゲームやり始めた?」
たちゃねさんは、続いて灰我さんにもなぜゲームを始めたのかと質問した。
ぼくも気になっていた。見た目は清楚で物静か。口を開いても上品な言葉で会話し、趣味は茶道に生け花といった感じの灰我さんがなぜOTQを始めたのか? それに加えもう一つ灰我さんに関して気になることがぼくにはあった。それはやたらぼくの方を見てくるということだ。
視線を感じそちらに目をやると灰我さんと目が合い、ぼくが視線を外すか灰我さんが視線を外すかというやり取りをおっぱい山からこのお店に到着するまでにも二回ほど(灰我さんは振り向いて素早くチラっとまたぼくをみる)、そして店に到着してからはもう数十回は繰り返されていた。ぼくは灰我さんとはもちろん初見だ。なんかぼくの顔に付いているのか?
「あっ!」
ぼくがモヤモヤしていると、灰我さんがグラスワインを一気に飲み干した。それはとても勢いよく、灰我さんの佇まいからからは想像しにくいものだったので、ぼくは思わず声を出してしまった。
それから灰我さんは、
「わたくしがOTQを始めた理由、それは――」
と、静かに語りだした。