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ラヴ・アンダーウェイ(LOVE UИDERW∀Y)  作者: 囘囘靑
第7章:ラヴ・アンダーウェイ(LOVE UИDERW∀Y)
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165_ラヴ・アンダーウェイ(LOVE UИDEЯW∀Y)

  どこか知らないところから来て、

  だれだか知らない者であり、

  いつか知らないときに死に、

  どこか知らないところへ行くのに、

  なぜ私はこんなにうれしいのか。


【ドイツの牧師である、マルチヌス・フォン・ビベラッハの墓碑に刻まれた詩】


クニカへ




 オレは今、手紙を書いている。ふつう、手紙を書いているときに「私は手紙を書いています」なんて書かないと思うんだけれど、とにかく今、オレは手紙を書いている。この手紙は、書ききった後にジナイダに渡して、ジナイダはそれを、星誕殿(サライ)で焼いてくれるんだってさ。がんばって書いたのに焼かれちまうのは悲しいけれど、とにかくそれでクニカに届くんだったら、それでいいと思ってる。


 あれからずっと、オレはお前と話をしようと思っていた。お前は光の中で、お前とそっくりの、なんだかほんわかした感じの女の子と手をつないでいたのを、オレは見た。もしあの子が、ジナイダの言う“霊長の魔法使い”だったのなら、その子にもオレのこと、よろしく言っておいてくれよな。


 話をしようと思いながら、二年が経ってしまった。お前も分かっているかもしれないけれど、色々あったんだ。それでも、シャンタイアクティの街は順調に復興しているし、南の大陸全体にも、ようやく活気が戻ってきた。北の大陸は、それこそ何もかもメチャクチャだけれど、それでも、みんな元気を取り戻して、復興に向けて努力をしている。


 それもこれも、みんな、クニカのお蔭なんだと思う。オレは今、ようやく落ち着いて、ニコルと一緒に、北の大陸に移り住んでいる。今いる場所はニコルの故郷で――といっても、何もないんだけれど――、オレはニコルと一緒に、馬のための牧場を再建しようとしているんだ。


 もちろん、一筋縄ではいかないことくらい、ニコルもオレもよく分かってる。化学肥料がたくさん撒かれたせいで、土地はガラス質になっているし、そうなるととうぜん、牧草は生えない。馬がまともに世話をできるようになるまで、何年も、いや、何十年もかかるかもしれない。


 それでも、ニコルもオレも、希望を失っちゃいないんだ。話が戻っちゃうけれど、クニカ、オレはあれからずっと、クニカに見守られている気がするんだ。まぁ、「クニカに見守られている」なんて、何だかへなちょこな気がするけれど、それでもそんな気がするし、ほかのみんなも、そう言っている。そして、見守られている間は、どれほどくじけそうになっても、きっと大丈夫だ、きっと良くなる……って気持ちになるんだ。


 それで、「そういう気持ちになるのは間違いじゃない」って、ジナイダが言うんだ。初めオレは、ジナイダが言っていることが何だかよく分からなかった。それで、何回も繰り返し、ジナイダにしつこく聞いたんだ。まぁ、結局よく分かんないんだけどな。たぶん、というか、確実に、ジナイダはオレなんかより、頭の出来がいいんだと思う。


 今だによく分からないけれど、とにかくジナイダにしつこく頼み込んで、ジナイダに言いたいことを音読してもらったんだ。それによるとな、


「クニカと“霊長の魔法使い”は、創世神話の時と同じように、互いに協力し合い、手を携えて、世界を再生させた。ただし、『世界を再生させる代償として、クニカと“霊長の魔法使い”は命を喪った』と解するのは性急である。クニカと“霊長の魔法使い”は、自らの生を世界に委ねたのであり、その意味で、クニカと“霊長の魔法使い”は、世界と一体化しているということができる。


 私たちは、この世界の中で生を()けている以上、クニカと“霊長の魔法使い”の世界観における世界内存在であり、その中で私たちが感じたこと、考えたこと、そして行ったことは、全てクニカと“霊長の魔法使い”の世界観における世界内行為である。


 だから、この世界における私たちの振る舞いは、全てクニカと“霊長の魔法使い”の知るところであり、逆に言えば、クニカと“霊長の魔法使い”の知らないところを、私たち世界内存在は感じることも、考えることもできない。私たちが喜んでいるときは、クニカも“霊長の魔法使い”も喜んでいるし、私たちが悲しんでいるときは、クニカも“霊長の魔法使い”も悲しんでいる――」


 らしいんだ。やっぱりよく分かんなかったけれど、とにかく、最後の「私たちが喜んでいるときは、クニカも“霊長の魔法使い”も喜んでいるし、私たちが悲しんでいるときは、クニカも“霊長の魔法使い”も悲しんでいる」というところに、オレはすごく勇気づけられた。だって、そうだろ? オレが嬉しかったり、幸せだったりした時は、クニカも、クニカの隣にいた女の子も、同じように嬉しかったり、幸せだったりする、ってことだろ? それって、すごくステキなことだと思うんだ。


 それに、さっきも書いたけれど、「お前に見守られている間は、どれほどくじけそうになっても、きっと大丈夫だ」って気持ちになれるんだ。だから、オレはこれから何が起きても、希望を失わないで生きていけると思うし、ほかのみんなも、きっとそうだと思う。


 最後に、クニカ。オレと同じ感情を、クニカも持ってくれているのなら、もう分かると思うけれど、オレはお前のことを愛している。思えば、クニカはオレに「愛してる」と言ってくれたような気がするけど、オレはお前に、ちゃんと言ってあげることができなかった。こういうこと、言うの恥ずかしいし、ここだけの話だけれど、言ったら言ったで、ニコルとケンカになっちゃうんだ。あの人、案外やきもち焼くんだよ。


 多分、お前のことを愛している人は、オレ以外にもたくさんいると思う。もしかしたら、オレも知らないようなどこかの誰かが、ふとお前の存在に気付いて、やっぱり愛するかもしれない。ニフシェの話のとおりなら、オレが誰かを愛しているときは、つまりお前もその人を愛しているし、その人がオレを愛してくれるのなら、お前もやっぱり、オレのことを愛してくれている、ってことになるだろうからな。だけど、オレはお前のことを本当に愛していて、まだまだその愛し方は中途半端(ラヴ・アンダーウェイ)かもしれないけれど、この気持ちだけは、誰にも負けないつもりでいるんだ。


 クニカ、最後まで読んでくれて、ありがとうな。







【追伸】


 そうそう、赤ちゃんが生まれるんだ。


 名前は「クニカ」にしようと思ってる。何だかほんわかした名前だけれど、男の子につけても、女の子につけても良さそうな名前だし、ニコルも「賛成だ」って言ってたんだ。


 でも、もし子供が生まれた後に、お前がひょっこりとうちの牧場にやって来たら、どうしようかなとも思ってるんだ。何だか、そんな気がするんだ。そのときは、間違えて呼んでも、勘弁してくれよな。


 待ってるからな、クニカ。


 約束だぞ。




『ラヴ・アンダーウェイ』

 『ラヴ・アンダーウェイ』は、本話にて完結です。お読みいただきありがとうございました。

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