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ラヴ・アンダーウェイ(LOVE UИDERW∀Y)  作者: 囘囘靑
第7章:ラヴ・アンダーウェイ(LOVE UИDERW∀Y)
161/165

161_アルファにしてオメガ(Альфа и Омега)

 手を取り合いながら、クニカとセツは通路を進む。通路には照明が灯っていたが、光は弱く、見通すことができるのは、ほんの少し先までだった。


 クニカの耳が、自分たちのものではない、誰か足音を拾う。逆方向から、誰かがクニカたちの方へと近づいてきている。


「大丈夫だよ」


 セツを匿うようにして、クニカは通路の正面に立つ。立ち尽くすクニカの前に、相手の姿があらわになった。亜麻色の髪を肩まで垂らし、青色のシャツを着た、サンダル履きの少女――ニフリートがそこにいた。


 ニフリートと対峙し、クニカは立ちすくむ。戦うことになるのではないか。そんな不安とは裏腹に、クニカは違和感を覚えずにはいられなかった。これまでに出会ったどのニフリートも、青白い、鉛色の光の印象を帯びていた。目の前のニフリートには、それがない。


 手に持っていた懐中電灯の光を、ニフリートは、クニカの背後に投げかける。


「溶けてるよ」


 ニフリートの言葉に、クニカはきょとんとしてしまった。


「後ろ、うしろ」

「え? ――あ」


 ここまで言われて、クニカもようやく気付く。セツを後ろに匿ったとき、クニカは、セツと手を離してしまっていた。振り返ってみれば、セツは、口元の辺りまで溶けてしまっており、自分自身の水たまりに浸かって、セツはあっぷあっぷしていた。


 クニカは慌てて、セツの手を取る。“竜”の魔法が開花し、周囲が光に包まれる。光が蒸発したときには、セツの身体はもとどおりになっている。


「ダイジョウブ?」

「あ……」


 ニフリートの青い瞳を、クニカはじっと見つめる。ニフリートは、本心から自分たちを心配してくれている――。


「はい……」

「ビビるなよ。キミと敵対するつもりはないから」


 ニフリートは言った。その言葉も、本心からのようだった。


「あなたは?」

「ニフリートだよ。分かるだろう?」


 咳ばらいを挟んでから、ニフリートは答える。


「キミはもうすでに、ボクのクローンに、嫌になるほど出会っているはずなのだから。けれど、ボクはほかのボクとは違う。ボクはΩ(オメガ)なんだ」

「オメガ?」

「ほかのボクと違って、ボクは魔法が使えない。オリジナルのニフリートが、魔法が使えない自分自身のクローンを、一体だけ要請した」

「どうして?」

「分からない。たぶん、気まぐれだと思う」


 ニフリートΩ(オメガ)は、肩をすくめてみせる。


「だけど、悪い気分じゃない。むしろ、自分でも信じられないくらい、今は健やかに生きている。――けだしオリジナルのニフリートも、本当は今のボクみたいに生きたかったんじゃないかな? ボクはあまり生きるのに器用ではないけれど、今は丁寧に生きていける自信があるよ。もっとも、前提となる世界がなくなってしまっているけれど」

「わ、わたしは――」

「知ってるよ。クニカ。分かるさ」


 ニフリートは笑った。


「それで……ニフリートは、どうしているの?」

「ずっと宮殿で過ごしてきた。お茶を()れたり、本を読んだり、模型を作ったりしながらね。あと、皇帝(コスモクラトゥーラ)の世話もしている」


 “皇帝”。その言葉を前にして、クニカは奥歯を噛みしめる。


「会いに来たんだろ、皇帝に?」


 クニカはうなずいた。


「じゃあ、着いてきて。皇帝もキミたちに会いたがっている。――あ」


 きびすを返そうとしたニフリートは、再びクニカたちに向き直る。


「お嬢さん、名前は?」


 クニカの腕に、セツがしがみついてくる。そんなセツの様子を見て、クニカは状況も忘れて噴き出してしまった。セツが不安に思うのも当然だ。彼女にとって、ニフリートは二人目の“他人”なのだから。


「この子はセツ」


 セツに代わって、クニカが答える。


「口がきけないみたいで」

「初めまして。大いなるセツ」


 セツの正面に立つと、ニフリートは手を伸ばした。何か良くないことをされると思ったのだろう、セツは目をつぶり、肩をすくめる。


 そんなセツの髪の毛を、ニフリートはそっと撫でた。


「いい名前ですね」


 その言葉に、セツは目を見開く。ほっぺたが赤くなった。


「あなたを生むために、大勢の人間が死んだ。世界も死んでしまった。にもかかわらず、あなたと、もうひとりとだけが、世界を救うことができる。笑えないでしょう? そんな場面に、魔法を使えないボクが立ち会っている」


 セツの頭から手を離すと、ニフリートはクニカに向き直った。


「それじゃあ、クニカ、セツ、行こう」


 ニフリートに案内され、クニカとセツは、更に奥まで進む。

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