112_君が死んだ気がした(Я чувствовала, что ты умер.)
「ならいい。悪かったな、食事中に」
後ろ手に扉を閉めると、オリガは鼻を鳴らす。
オリガは、チャイハネを探していた。チャイハネに銃を渡し、ニフシェの抹殺を命じたのは、昨日のことである。
昨晩は、イリヤたちの騒動にかかりきりで、オリガはそのことを忘れていた。チャイハネから、結果の報告を受けていないと気付いたのは、今朝になってからだった。
チャイハネを探したものの、彼女がどこにいるのか、オリガは分からなかった。本来ならば、ペルガーリアや、ほかの巫皇たちと一緒に、オリガは“花嫁の間”で朝食を摂っているはずだった。今は「トイレに行く」と言い、心当たりのあるところを、片っ端から訪ねているところだった。
しかし、いつまでも席を外しているわけにはいかない。
オリガはきびすを返し、“花嫁の間”へ戻ろうとする。それでも諦めきれず、オリガは遠回りをすることにした。わざと二階へ上り、渡り廊下を抜け、それから降りて、“花嫁の間”に戻る。
渡り廊下に出れば、中庭を一望できる。もしかしたら、窓の外から、チャイハネが見えるかもしれない。
朝の陽射しを受け、渡り廊下の窓は輝いている。
外の様子に気を取られていたオリガは、ふと、だれかがこちらへ向かってくることに気付いた。シュムだった。
オリガの心は弾む。「チャイハネとシュムがデキている」と、オリガは知っている。
「おはようございます」
「会えてよかったよ」
「どうしてです?」
「チャイがどこにいるか、知らないか?」
シュムの表情から、笑みが消える。
「探してんだよ。キミ、フィアンセだろ?」
「さぁ。シンダンジャナイデスカ」
シュムの言葉の意味が、オリガはすぐに理解できなかった。
「え? 何?」
「死んだんじゃないですか、チャイなら。私には分かりません」
失礼します、と素っ気なく言い放つと、シュムはオリガの脇を抜け、反対方向へと去っていく。