表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛は赦しの中で  作者: 明智 颯茄
光命の場合
5/14

生まれたての十八歳

 教会の大きな鐘がリンゴーンと鳴り祝福し、人々はライスシャワーを花婿と花嫁に降り注ぐ。参列者の中に光命がいた。三ヶ月前に生まれたばかりだが、十八歳となって、親友の結婚式に招待されたいたのだ。

 光命は軽く曲げた指をあごに当てて考える。


 先月までの世界の法則では、子供は生まれると十八歳まで成長し、大人として生きていかなければいけませんでした。ですが、先日、心の成長に不具合が見つかったのです。ですから、そちらのやり直しを通常の百倍の時が流れる大きな空間の中でやり直すこととなりました。


「――光?」

 地鳴りのような低い男の声が響いた。


 彼の名前はノ花 夕霧命――私の同い年の従兄弟。誕生日はたった三日しか変わらないが、彼はすぐに運命の女性と出会い結婚をし、子供が一人いる。私は最近出会った、知礼しるれという女性と交際中だが、まだ結婚を考えてはいない。


「そろそろ行かないと、やり直しの開始時刻に間に合わなくなってしまうかもしれませんね」

「もうそんな時間か」

「えぇ、それでは行きましょうか」

 待たせておいた黒塗りのリムジンへ慣れた感じで二人で乗り込み、中心街の大通りを走り出した。流れてゆく景色の中で、光命は親子連れを見つける。

「どのようにして子供は生まれてくるのでしょうね?」

「知らん」

 夕霧命は刀で斬るようにバッサリと切り捨てた。

 どっちもおかしなことは言っていなかった。物質が存在していないのだから、卵子とか精子とか受精とかがないのだ。結婚している夕霧命でさえ、生まれてくる仕組みはわかってない。専門の研究機関もあるが、解明されていないことが多いのだ。やはり子供は神様が授けてくださもの、という神秘的な事柄とするのが神世の常識だった。


 リムジンはやり直しの会場へと到着した。全員いきなり十八歳に成長してしまった若者ばかりが集まった前で、係の犬が大きな声を張り上げた。

「それではみなさん。もう一度説明します。みなさんの今までも記憶は一度こちらで預からせていただきます。中へ入るとみなさんのご家族や親戚の方が出てきますが、厳密には本人ではありません。ですが、十八歳の誕生日を迎えたあと、この装置から出た時に、中で過ごしたみなさんとの記憶はお渡ししますので、思い出もきちんと残り共有できます」

 あたりはざわつき、質問が出てくる。

「何も知らない小さい時から、やり直すのと一緒ってことですか?」

「えぇ、そうなります」

「恋人とか見つかりますか?」

「今現在いる方は見つかりませんが、いない方は見るかるかもしれません。同級生や従兄弟などがお相手の場合は出てきて、恋愛関係へと発展する可能性が非常に高いです」

 係の人は見渡してみたが、他に質問はもう出てこなかった。

「それではみなさん、ゲートを開けますので、中へお入りください」

 光命と夕霧命はお互いを見て少しだけ微笑んだ。

「あなたの幼い頃はどのようなのでしょうね?」

「俺はお前がどうなのか気になる」

 一歩足を踏み入れると、真っ白な光に包まれ、光命と夕霧命は一瞬にして記憶を失ってしまった。


    *


 陛下がおわす城に隣接する、女王陛下の姉妹たちが暮らす屋敷の庭で、午後のお茶を楽しむ夫婦が二組いた。天使が祝福するようなキラキラと輝く光の中で、よく似た女がふたりは生まれたての子供を抱いて微笑み合う。

「可愛いわね〜、赤ちゃんって」

「えぇ。三日違いで生まれるなんて、強い運命を感じます」

 紺の長い髪と深緑の短髪を持つ子供がそれぞれの母親の腕の中で、優しくゆったりを抱かれている。夫たちは写真を撮っては、仲良く話し笑みをこぼす。

 カメラのタイマーをセットして、夫二人は母と子に近寄ってきて、

「きっと仲良くなるわ。夕霧とひかりは」

「そうして、元気にすくすくと育って欲しいものです」

 二家族六人で思い出づくりが始まった。やり直しという、記憶を失った特殊な時空の中で。


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ