32話
1ヶ月以上も投稿に間が空いて申し訳ありません
書きだめをある程度作ったので、もう暫くは投稿ペースが安定するかもです
それから2日後の土曜日。総悟とマリベルは再び魔法界を訪れていた。予めマリベルとアリエルが声を掛けておいたという同僚に会うため、酒場に向かう。
既に日は傾いており、空は紫色に染まっている。目的地に向かうため、宵闇の街の狭い路地を2人は歩いていた。酒や料理の香りが混ざり合った夜の匂いが鼻を突く。
「こんな所にあるんですか?目的地の酒場」
「おうよ。出来るだけ上の連中に嗅ぎつけられない所が良い」
曲がりくねった路地を通り抜け、ボロボロのポスターが何枚も張られた石造りの建物の中に入る。建物の内部には幾つもの扉や洗濯物が存在しており、濃厚な生活臭を感じさせた。
「こっちだ」
マリベルに言われるまま、総悟は入口から向かって右側の扉に向かう。そこを開けると、下へと続く階段があった。階段の下には、扉が見える。
下に降りて扉を開けると、とたんに独特な香りが総悟を出迎えた。例えるならそれは、異国のアロマに煙草の匂いを合わせたようなものに近い。
カウンターと見られる場所には、一人の少女が立っていた。少女は胸元が強調された紫色のドレスを着ており、艶っぽい雰囲気を漂わせていた。
「あら、マリベルじゃない。久しぶり」
「おう。久しぶり、ママ」
ママ、と言われた少女は妖艶な笑みを2人に向けて浮かべた。
「この子は?」
「ん、ああ。あたしの契約者さ」
「如月総悟です。宜しく」
「ふふ。宜しくね」
「部屋はどこだい?」
「あそこよ。他の娘たちはもう来てるわ」
突き当りにある扉を指差す。扉は種類の解らない生物を象った彫刻が設置されており、奇妙な雰囲気を醸し出していた。
扉を開けると、アリエルと神楽を含めた少女たちが2人を出迎えた。
「遅いじゃない、マリベル」
ポニーテールの少女が、口を尖らせてマリベルに言う。
「主催者が遅刻しちゃあ駄目でしょ」
似た顔つきをした少女が、それに同調する。
「悪い悪い。ちょいと立て込んでてな」
「こんばんわ、レムさんとサナさん」
「こんばんわ、ソウゴ君」
「今日も可愛いねー。これ終わったらおねーさんたちの家に来ない?」
双子は総悟の両サイドに座り、身体を密着させて誘惑する。
「はいはい。男に飢えてるのは解るけどその辺にしときましょうね」
アリエルが窘めているのを横目で見ながら、マリベルは机に置かれた、手つかずの酒を一口飲む。すると早々に、レムが口を開いた。
「それで、内通者の件だけど…私、少し心当たりあるかもしれない」
「本当か!?」
思わず大声を出してしまったが、咳払いをして平静を装う。
「ビフレストの関係者に、その内通者がいるかもしれない」
「ビフレスト?」
耳慣れない単語に、総悟はオウム返しで返す。
「非魔法界にある諜報班の拠点のことよ。24時間体制で無魔の動向を監視しているの」
「そもそも最近起きた失踪事件だけど、どうして防げなかったか知ってる?」
「確か無魔の出現に人員割かれたせいで事件の方にまで手が回らなかったって話だよな?」
レムは首を横に振り、重々しい口調で続けた。
「それが違うの。そもそも失踪事件発生の情報が本部に届いたのは、事件発生したと考えられる時間からおおよそ3時間後のことなの」
「…!」
マリベルは思わず目を見開き、動揺する。通常、情報の伝達は魔法で構成されるシステムによって即座に行われる。しかし、それが行われなかったということは———
「…ビフレストの奴等はどう言ってるんだ」
「通信越しに言うにはシステムの調子が悪いとのことよ。笑わせるわ。事件が起こる前に『システムのメンテナンスをした』って何度も報告をしてるのに」
本当に機材の整備不良が原因だったなら、職務怠慢で人員をまとめて更迭するつもりだ、と彼女は言う。
「通信越し?直接会いには行かなかったんですか?」
神楽が、横から疑問を挟む。彼女も、この話題に興味があるようだった。
「あいつら自分らの領域に部外者が入るのを極端に嫌うからね。それに加えて滅多に外に出ることもしないし」
「…そのビフレストって組織が怪しいのは解りましたけどどうやって調査するんです?聞く限りだと追い返されそうなんですけど」
総悟が当然の疑問を口にする。
「安心して。手はちゃんと打ってあるから」
そう言ってレムは鞄から一通の書状を取り出し、机に置いた。
「これは?」
「団長直々の捜査許可証。こいつさえあれば問答無用であいつらの拠点に踏み込むことが出来る」
強硬な手段に、マリベルは感心して溜息を吐いた
「はえー。えらく強気だな。いつやるんだい?」
「団長もあいつらのことは悩みの種だったみたいだからね。今回の件でとうとう許容出来なくなったみたい。執行日は明日よ」
サナが補足している横で、レムは得意げに微笑みグラスを抑えた。
「ま、ここからは私たちの役目だからね。マリベルたちは戦果を楽しみにしててよ」
「そういえば…」
総悟が口を挟む。
「レムさんとサナさんって普段どんなお仕事しておられるんです?」
「本部の方で役員やってるわ。毎日沢山の書類と格闘する素敵なお仕事よ」
レムは皮肉交じりに言った後、自嘲気味に笑った。
注文した料理があらかた無くなった所で、飲み会を兼ねた会議は終了となった。総悟はしきりに双子に誘惑されたが、マリベルとアリエルが軽く受け流したため事なきを得た。
解散後路地裏を抜け、ターミナルへと急ぐ。夜の街を歩いていると、背後から声を掛けられた。
「やあ。こんな所で会うなんて奇遇ね」
そこに立っていたのは、白いゴスロリを着た少女だった。そして頭には、蛇の髪飾りを付けている。
「官庁」
マリベルとアリエルが頭を下げるのを見て、総悟が問い掛ける。
「マリベルさん、そちらの人は?」
「ウートガルザ官庁。あたしたちの上司だ」
総悟と神楽も彼女らに引き続いて、頭を下げる。
「始めまして。マリベルさんの契約者の如月総悟です」
「アリエルさんの契約者の天川神楽です」
満面の笑顔を浮かべながら、ウートガルザは手を叩いて言った。
「うんうん。貴方たちが2人の契約者ね。話には聞いてるわ。所で…」
ウートガルザは、総悟に顔を近付けて言う。
「最近どう?遊んでる?」
「え?」
「遊んでる?」
少し考えた後、無難なことを言った。
「て、適度に勉強して、適度に遊んでます」
「訓練は?」
「それも適度に」
「そかそか」
次に彼女は、神楽にも同様なことを質問した。
「貴女はどう?遊んでる?」
「あ、はい。私も勉強部活遊びは適度にやってます」
「うんうん。良きかな良きかな」
ウートガルザは笑いながら、軽く拍手をした。
「適度に学び適度に遊ぶ。この先長い人生生きて行く上でこれ大事よ?」
そう言ってにこやかに笑っていたウートガルザだったが、急に語気を切り替えて言った。
「あーそうそう。マリちゃんとアリちゃん」
「はい」
「何でしょうか?」
「ビフレストの強制捜査の件は知ってるかな?」
「はい。先程本部勤めの人員から聞いた所です」
ウートガルザは少し気落ちした声色で、続けた。
「私、個人的には反対なんだよね」
余りにも意外だった言葉に、マリベルは思わず驚いてしまった。
「ええっ!何故です?」
「ほら、あの子たちにもポリシーとかあるじゃない。流石に可哀そうだと思ったのよ。…まあ会議でそんなこと言ったら他の子たちから不況買っちゃったけど」
ウートガルザの声音には不服で満ちていた。頬を膨らませながら、彼女は4人に向けて言った。
「ね、今から呑みに行かない?パーっと騒いでスッキリしたいの」
魔法少女2人は申し訳なさそうに頭を下げた。
「すいません。さっき飲んだばかりなので…」
「私も今日は…」
先程飲んで来たため、断りを入れておく。
「…なら仕方ないか。まあ貴女たちも明日の仕事があるからね」
そう言ってウートガルザは不貞腐れたようにどこかへ行ってしまった。後日何か埋め合わせをしよう、とマリベルが算段を立てていると、傍らにいた総悟が質問をした。
「…あの人がマリベルさんが以前言ってた『先生』ですか?」
「うんにゃ。先生はまた別の人だよ」
それからターミナルへ向かい、ゲートに入る。非魔法界への転送が完了した所で、不意にアリエルが言った。
「…しかし珍しいわね、あの人にしては」
「何がです?」
「官庁、少し依怙贔屓が過ぎることもあるけど基本的に仕事には私情は持ち込まないのに。あんなこと言うなんてらしくないわ」
顎に指を置き、考えるアリエルに、総悟は疑問を投げかけた。
「…ビフレストに気に入ってる人がいるとかじゃないですか?」
「それこそ無いわ。あの連中は外部のメンバーと慣れ合おうとしない。ましてや他部署の幹部職の人となんて猶更よ」
マリベルは、酒場での話とウートガルザの発言から今後起こるであろう出来事を推測する。不可解な動きを見せていたビフレストに、本部が強制捜査に向かうことになった。団長共々その案には賛成していたが、珍しく、ウートガルザは快く思っていない。このことから推測されるのは———
(いや、まさかな。あの人に限ってそんなこと…)
マリベルは脳裏に浮かんだ疑念を、腹の中に仕舞い込んだ。




