24話
書き溜めが少なくなってきたので、また投稿に間が空くかもしれません
幾本もの光線が錯綜し、剣と爪が打ち合う音が木霊する。白の粒子が舞い散る中、三人は背中合わせで向かいあった。
舌打ちしつつ、マリベルは吐き捨てるように言う。
「ちっ。数が多過ぎるぜ」
「本当ね。雑魚だけに群れることしか能がないのかしら?」
「ざぁこ♡ざぁこ♡ってか?」
「うわぁ…」
猫撫で声を出すマリベルに、総悟は思わず小声で引いてしまう。それを耳ざとく聞き取ったのか、彼女は少し顔を赤くして怒鳴りつけるように言った。
「と、兎に角行くぞ!総悟は煙幕で奴らの視界を奪ってくれ。奴らが怯んだ所で…」
「私が重力魔法で奴らを団子にする。そして最後に…」
「あたしが爆破魔法でフィナーレって訳さ。じゃ、行くぜ」
「は、はい!」
総悟は偽装錬器に煙幕弾のマガジンを装填し、無魔の一団に向けて狙い撃つ。地面に着弾したそれは広範囲に粉塵を巻き散らし、周囲を白で埋め尽くした。無魔たちは溜まらず、狼狽の鳴き声を挙げる。
「ソウゴ君!私に掴まってて!」
予め視力強化の魔法を自身に掛けていた魔法少女が動き出す。先ず始めに巻き込まれないよう総悟に促した上で、強大な重力を放つ球を無魔の一団めがけて放る。
「跡形も無く———拉げなさい」
アリエルは凶悪な笑みを浮かべ、指を鳴らす。
「重力爆撃」
乾いた音と共に強烈な引力が球を中心に発生し、無魔を上空に吸い上げる。球まで引き寄せられた無魔は悲鳴のような鳴き声を挙げながら混ざり合う。最終的にはまとめて球状に変形し、収縮するかのようにして消滅した。
「…終わったわね」
敵の消滅を確認した所で、総悟はアリエルに言った。
「ねえアリエルさん」
「何?ソウゴ君」
「マリベルさんもそうでしたけど…今しがたアリエルさんが言ってた技名、みたいなのって口に出す意味ってあるんですか?」
そこまで言った所で、慌ててフォローを入れる。
「いやーそのお2人の戦い見てると技名叫ぶ時と叫ばない時があったもんでちょっと気になったんです」
その質問にアリエルは「あー」と納得したように呟き、答えた。
「名前を叫ぶ呪文は大体決め技…上位の術だから成功させるのに『詠唱』が必要なのよ」
「つまり技名を叫ぶのは『詠唱』だと」
「そういうこと」
戦いも終わったのでそんな雑談を交わしていると、不意に総悟は先程襲われていた親子のことを思い出した。
「そ、そうだ!あの人たちは…」
携帯を取り出し、駐車場の神楽に連絡を入れる。
「神楽ちゃん。お母さんとお子さんは大丈夫かい?」
「はい。最初はパニック起こしてましたけど今は落ち着いてます。…良い意味ではありませんけど」
その言葉の意味を理解するのに、時間はかからなかった。
「そうか。お父さんが…」
「はい。眼の前で殺されてしまったそうで…」
生涯のパートナーが惨殺される光景を目の当たりにしたのだ。相当気落ちしているのだろう。無意識の内に、携帯を握る手に力が入る。
「嘘…嘘よ…こんなの…」
「ママー。パパ、どこに行っちゃったの?」
電話越しに親子の声が聞こえる。総悟は子供の無邪気な反応に、やり切れなくなった。
『やだよぉ父さん、母さん…』
『お前は…逃げるんだ…』
あの日の光景が、頭の中でフラッシュバックする。思わず手が震えて携帯を取り落としそうになる。
「先輩…先輩…聞いてますか?」
神楽の声に、総悟は現実に引き戻された。
「ん?ああ何?」
「もう戦いは終わったんですよね?」
「うん。まあそうだ」
「いや、まだよ」
総悟の声を遮り、アリエルが言う。
「へっ。どうやら増援のようだな…」
マリベルはニヒルに笑い、剣を構える。
羽搏きの音と共に、そいつは現れた。そいつは鉤のような嘴を持ち、頭頂部に鶏冠を付けた鳥だった。
「随分とまあ、お喋りなのが来たな」
「イヤダアアアアアアアアアアアアアアアア………!!」
巨大なインコの姿をした無魔は、地上に降り立つと共に首を振りながら
咆哮を上げた。インコだからだろうか。人の声を真似たようなそれは、何十人もの人々の叫びを統合し、エコーを掛けたかのような、聴いていて強く不快感を覚えるものだった。
咆哮と共に紫色の霧がインコの体から放出され、それをもろに浴びた総悟は脱力感に膝を着いた。
「くっ…これは…」
「ほら、しっかりしなさい」
アリエルが総悟に手を翳し、淡い光を照射する。すると途端に活力が戻り、総悟は立ち上がった。
「偽装錬器でも防ぎきれない程度の瘴気、か…」
「相当な大物がお出でなすったな」
魔法少女2人は冷や汗を垂らしつつ、シニカルな笑いを浮かべる。先程までの敵とはレベルが桁違いであると、彼女たちはすぐに理解した。
マリベルは総悟に手を向け、下がるようにジェスチャーする。
「ソーゴは下がってろ。今のお前が敵う相手じゃない」
総悟はその言葉に憤りを覚え、食い下がる。
「何言ってるんですか!俺も戦いますよ」
総悟の反応に、しかしマリベルは頭を振った。
「頼むソーゴ。あたしはお前が死ぬのを見たくないんだ」
子供を窘めるように、彼の眼を見据えながら彼女は言う。しかし総悟は引かなかった。
「嫌です!何も出来ないなら死んだ方が」
刹那。アリエルが陣を切り、指先を総悟に向けた。淡い光が数秒間程度彼の身体を包む。
「瘴気・物理防御の術を掛けたわ。これで多少は打たれ強くなる」
「アリエル…」
マリベルが非難するかのような目で彼女を睨む。
「確かにマリベルの気持ちも解るけどさ…もしこの子を戦わせずに私らがあいつに倒されでもしたら本末転倒って奴でしょ?」
マリベルを窘めた後、彼女は総悟に向き直り、言った。
「ねえソウゴ君。君がやりたいっていうのなら私は止めはしない。けどね」
烈火の如き怒りが込められた眼差しが、総悟を射抜く。
「間違っても『死んでも良い』何て言うのは止めなさい。自己犠牲が常に正しいことだとは限らないのよ」
「…」
アリエルの言う言葉に、総悟は沈黙する。それを肯定とみなしたのか、アリエルは無魔の方に向かい直った。
(自己犠牲何て馬鹿げたことをするのは私一人で十分よ…)
内心で毒吐きながら、彼女は得物を構える。敵は巨大なインコ型の無魔。大型の体躯に比例してか体内に秘められた魔力も膨大なものであろうことが推測出来る。
「何デエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ………!!」
先に仕掛けたのは無魔だった。大音量と共に盛大な羽搏きを行い暴風を起こし、それと共に何百もの数の羽を飛ばす。ナイフの如く鋭利な羽が、三人に襲い掛かる。
「くっ!」
アリエルは透明な赤色の壁を展開し、羽弾を全て防御する。しかし、無魔の猛攻は止まらなかった。
次に無魔は羽を一際激しく、一瞬溜めを行ってから勢い良く振る。十字型の鎌鼬と化したそれは轟音を挙げてバリアに着弾、そして
「うわあ!」
「きゃあっ!」
「ぐ…うう…」
澄んだ音と共に、バリアは砕け散った。破片が舞い散る中、無魔は更なる攻撃に打って出る。
「来るぞ!」
無魔は総悟たちに向かって滑空。さながら猛禽類のように鋭い爪を振りかざし、襲い掛かった。
「オラァ!」
「このっ!」
マリベルは剣を、アリエルは大鎌を構えて爪の一撃を防ぐ。続けて手に筋力倍化の魔法を掛けつつ、引っ掻きを躱しながら切り結んで行く。
「アリエル!」
「ええ!」
アリエルは魔導錬器を魔法の扱いに長けたロッドモードへと変形。拘束魔法を唱え、インコの脚を縛り付ける。
無魔はけたたましい鳴き声を上げ、振りほどこうと藻掻く。マリベルはその隙を付いて、無魔の首元まで飛び上がった。
「その首、二度と振れないようにしてやるぜ!」
首を切り落とそうと飛び掛かった刹那。無魔は予想だにしない反撃を繰り出した。
「ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア……!!」
無魔は首を振り始めた。それも先程この場に降り立った時のものとは比較にならないくらいに、高速の首振りを。狙いが定まらず、マリベルは思わずたたらを踏んでしまう。
「な、何を…っ!」
その時、マリベルの戦士としての直感が働いた。マズい。アレを食らったら一発でやられる。
慌ててマリベルは地上を目指し、急降下する。
彼女が降下を始めた所で、それは放たれた。プロペラの如く高速回転する首から放たれたのは、小さな竜巻だった。天然のものよりも小さく、しかし人を挽肉にするなら造作もないであろうそれはマリベルの足元を掠め、空の彼方へと消えて行った。竜巻の進路に巻き込まれた鳥の群れが、骨となってぼとりぼとりと落下する。
「ぐあっ!」
直撃こそ避けたものの風圧に煽られ、マリベルは地面に叩きつけられた。幸い、頭をぶつけた訳ではなかったので、すぐに立ち上がり体制を整える。
「ずいぶんとまあ…風を起こすのがお好きなようで…」
軽口を叩くが、その口元は引き攣っていた。これ程の威力を持つ竜巻なぞ、喰らったら一溜りもない。どうやら、火力で言えばあちらの方が何倍も上手のようだ。
「げっ!あ、あれって…」
総悟が何かに気がついたのか、無魔を指差して言う。その声音には、強い恐怖が混ざっていた。
見ると、無魔は欠伸をするように嘴を開けていた。その中にあるものを見て、魔法少女2人も嫌悪感に顔を顰める。
「おいおい。コイツは笑えねえな…」
苦虫を潰したような顔で、マリベルが軽口を叩く。3人が見た物は、白い『顔』だった。無魔の口内には白い人間の顔が視界に入るだけでも3,4つは張り付いており、先程から無魔が挙げる人間のような声は、その『顔』から発されていた。『声』が出る度に『顔』の口元が歪むのが見える。
「モウ…ヤダ…」
「痛イ…痛イヨ…助ケテ…鋼牙クン…」
(コウガ?いや…そんなまさか…)
聞きなれた名前に、総悟は思案する。最悪の状況を考えると、後ろからアリエルが発破を掛けてきた。
「何ボーっとしてるのよソウゴ君。あんな悪趣味な奴、飛び切り苦しめて殺してやらなきゃ気が済まないわ」
鎖を引きちぎったインコは滑空し、咆哮をあげつつ滑空を繰り出す。アリエルは杖を振り翳し、火球を連射して迎撃するが、それらは無魔の体に赤い花を咲かせるものの、身じろぎさせるには至らなかった。
無魔は爪を総悟目掛けて振り下ろす。アリエルは急いで陣を結び、結界を張ってそれを寸前で防いだ。
澄んだ紫の壁に皹が入り、結界越しに伝わる衝撃にアリエルは歯を食い縛る。
「くっ…!」
「アリエルさん!」
「…ソウゴ君、魔力貸してもらえる?」
「…確か手を翳すんでしたよね」
「ええ。両手、背中に着けてもらえる?」
「は、はい!」
汗ばんだ、剥き出しになっている背中を、両手で支えてやる。アリエルの体に何かを吸い取られるような感覚が全身から走り、総悟は顔を顰めた。
複合された魔力は結界を強固なものにこそしたが、無魔の攻撃は苛烈さを上げるばかりだった。より一層激しい攻撃が、結界に降り注ぐ。無魔の意識は最早眼前の魔法少女と契約者を仕留めることにしか行っていない。
しかし、それこそがアリエルの狙いだった。上空で待機していたマリベルに向けて、彼女は合図を出した。
「今よマリベル!」
「応よ!」
マリベルは無魔の頭上まで跳躍し、剣を空高く掲げた。剣に鎌鼬が収束して行き、巨大な刃を錬成する。
「その首貰ったぁ!」
急降下し、その勢いのまま刃を項に向けて振り下ろす。巨大な鎌鼬の刃は太い首を胴体から切り離し、無魔の命を瞬時に絶命させた。首の断面から白い粒子が吹き出し、渦を巻いて無魔だったものに収束して行く。
「タ…助ケテエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ……!!」
無魔の断末魔の叫びと共に、白い渦は濃厚な魔力を帯び出した。それは周囲の空気を吸うようにして膨張し、強い光を放つ。
「…っ!やべっ!」
マリベルは今まで、屠った後にこのような反応を見せる無魔を見たことがなかったが、この様子が何か恐ろしいものであることは瞬時に解った。急いで総悟とアリエルの元にまで避難する。
「アリエル!飛び切り強いの張るぞ!」
「解ってる!ソウゴ君もまたお願い!」
「はい!」
3人の魔力を混合させ、無魔の攻撃を防ぐには充分過ぎる程の結界を作り出す。結界を完成させた直後に、それは訪れた。
「来るぞ!」
「ま、眩しい…!」
無魔の体は、強力な閃光と共に爆発した。轟音が鼓膜を打ち、光が目を焼く。結界越しにも、その威力は十分に伝わってきた。
爆発の煙が晴れるとそこには、変わり果てた公園の惨状が広がっていた。石畳はひび割れ木々や噴水などのオブジェは粉微塵に消し飛んだ様は、悲惨なことこの上ない。
ひび割れた石畳の上に、何か黒い、大きな影のような物が横たわっているのが見えて、総悟は眼を凝らした。ソレは死体だった。『幸い』にも消し飛ばなかったそれは表面が黒く炭化し、肉料理のような香りを放っていた。凄惨なものから放たれる不釣り合いなほどに香しい香りに、総悟は思わず口と鼻を覆っていた。
「……っ!」
心の奥底から込み上げる怒りに、手にした剣を強く握り締める。関係ない人を巻き込む無魔を、総悟は許してはおけなかった。
少年が怒りに身を震わせる一方で、2人の魔法少女は今しがた撃破した敵について会話を交わしていた。
「斃されたら自爆する、か。最期までサービス心旺盛な奴だねぇ」
「おまけに身体に着いたあの悪趣味な模様。新型なのは間違いなさそうね」
「だな。帰ったら本部に報告しねえと…」
そう言いながら、マリベルは契約者の少年のことを見つめていた。気付いたアリエルが言う。
「心配なの?あの子のこと」
「…あいつ、たまに思い詰めてるようなことあるんだよな。何かの強迫観念に捕らわれているみたいっていうか」
「それなら聞き出してみなさいな。相方の悩みを聴くのも仕事の一環よ」
「解ってるよ。上手いことやれるかは解らないが」
そう言いつつ、変身を解除しようとした。刹那
「あーあ。簡単にやられちまったな。頭上からの攻撃への対処に難あり、か」
呆れるような語気と共に、そいつは爆発の炎が揺らめく中を歩いてきた。黒のジャケットを着込んだ大柄な男は、首を鳴らしながら頭を掻く。
その男は強大な魔力を全身から放っていた。魔法少女のものとは明らかに違う禍々しいソレは、無魔のものと同じだ。
「その魔力…貴様もしや虚将か?」
ドスの効いた声でマリベルが問い質す。男はそれに対して両手をぱたぱたと振りながら答えた。
「ま、そんな所だな。俺の名はフェンリル。以後お見知りおきを」
軽薄に笑いつつ、男――フェンリルは言う。険悪な雰囲気を醸し出すマリベルに対し、アリエルは尋常でない程度の殺気を放っていた。
「無魔の親玉が、私たちに何の用だ?」
「そんなにカッカすんなよ金髪の嬢ちゃん。俺はただ…」
フェンリルの体が黒い粒子を纏い、異形へと変形して行く。全身は黒く無骨な鎧に。顔は猛々しい狼の顔に。その姿はさながら黒い鎧騎士のようだ。
「楽しいダンスを踊りたいだけさ。おっと、その前にアンタたちには万全の状態になってもらわねえとな」
男は掌に淡い輝きを放つ光球を出現させ、マリベルたちに向けて放り投げた。男の掌から離れたそれは軽い音と共に炸裂し、彼らに柔らかい光を浴びせる。
「…何か疲れが一気に取れたんですけど」
「傷もあっと言う間に癒えやがった…。それにこの魔力は」
「おい。虚将である貴様が何故我々の力を使える?」
ぎろりと睨むアリエルに、フェンリルは軽く笑い言葉を濁す。
「魔法が使えるのはアンタたちだけじゃないってことさ」
フェンリルは体を低くし、爪を眼前で構える。空気を浸食するかのような漆黒の魔力が全身から溢れ出し、地面を震わせる。
「さあ始めようぜ。血と狂乱の舞踏会をよぉ!」




