23話
昨日に引き続き投稿します
少しずつ話の本筋を動かす予定です
春の陽気な空気が頬を撫でる感覚に、総悟は眼を開けた。眼に残る強烈な光に、眼を瞬かせる。
周囲を見回すと、そこは見慣れた住宅街だった。眼の前にあるコンビニは、いつものように営業している。どうやら、無事に帰還出来たらしい。
「全員いるかい?」
「ええ」
「は、はい」
「…はい。全員いますよ」
マリベルは後方を振り返り、そこにいるであろう3人に呼び掛けた。予想通り、三者三様の返事が返って来る。
「うう…やっぱり慣れませんね、これ…」
「そ、そうだね…」
胸元を押さえ、吐き気をこらえながら神楽が言う。総悟に至っては、神楽の肩に担がれていた。流石に色々な意味で拙い状況だったので、やんわりと断りを入れておく。
「ね、ねえ神楽ちゃん」
「ん?何ですか?先輩」
「何で俺背負われてるの…?」
「だって先輩具合悪そうでしたし」
「それは神楽ちゃんもでしょ?それにこういうのは普通男がやるものっていうか…」
「私の方が先輩より体大きいですから多少はね?あと今時男ガー女ガーとか言ってる人は男女問わずモテませんよー」
負けた。後輩の女の子に体格で負けた。流石にそろそろ成長期来て欲しい。
「先輩はそのままの方が私は嬉しいなー。その方が可愛いですし」
「同感よ」
総悟の心情を読み取ったのか、神楽が妙なフォローを入れ、それにアリエルが便乗した。彼自身にとっては、余り嬉しくないことだが。溜まらず、反論する。
「…背高い方が頼りがいあると思いません?」
「そういうのは見かけよりも中身です。幾ら体が立派だからって中身が成熟してなきゃ意味ありませんよ」
「そうよ。そもそもショタが成長するってシチュ自体が…ごめんなさい、この話は止めにしましょう」
(アリエルはリアルとフィクションを混同する癖を治した方が良いな…)
3人の漫才を傍目から見ていたマリベルは、内心でアリエルに突っ込みを入れた。
和気藹々と話す3人。そろそろ帰ろうかとマリベルが彼らに呼び掛けようとした。刹那
「っ!?」
けたたましいブザーが、魔法少女2人の懐から鳴り響いた。総悟と神楽の2人も、この音には聞き覚えがあった。
「無魔が出やがったか!」
「また複数出現か…私達は最寄りの所に行くわよ。付いてきて」
「はい!」
「解りました!」
昼間の住宅街を、4人は駆け出した。
白昼の公園では既に狂宴が始まっていた。休日で家族連れで賑わうそこは、怪物の咆哮と人々の怒号が飛び交い、血飛沫が舞い散る地獄絵図がそこには広がっている。
「いやー!助けてー!」
「く、来るな…こっちに…ぎゃあ!」
チーター型の無魔がカップルを追いかけ回し、逃げ遅れた男の腹を食い破った。直後に女性の方にも飛び掛かり、首筋を噛み砕く。
「来ないで…せめてこの子だけでも…」
「怖いよぉぉぉぉぉ!」
一方では猿型の無魔二頭が親子を追い詰めていた。既に父親は首をもがれ、物言わぬ姿と化している。
「お願い!私のことは殺しても良いからこの子の…この子の命だけは…」
「ママぁ…」
泣きじゃくり、決死に懇願する、母親と見られる女性。二頭の無魔は互いに顔を見合わせ、にやりと厭な笑みを浮かべた。それから一頭は母親の襟首を掴み、もう一頭は子供を母親にみせつけるようにして抱き抱えた。
「な、何を…する気なの…」
子供を抱えた猿は、泣き叫ぶそれを慈しむように頭を数度優しく撫でた。それから首に手を添え、力のままにそれを———
「ギィっ!?」
横から飛んできた少女の脚に頭を蹴られ、無魔は悲鳴を上げて吹き飛んだ。少女は無魔の手から零れた子供を抱え、安否を確認する。
「おい君!大丈夫か?」
「うーん…お姉ちゃん…誰?」
その少女は、肌の面積が多いゴスロリのような衣装を着ていた。それが魔法少女であると、無魔は瞬時に理解した。
突然の襲撃者に、母親の方を拘束していた無魔は母親を放り出し、魔法少女に飛び掛かろうとして———
「あら、自分から突っ込んじゃうなんてねぇ」
不意に喉元に翳された曲線を描く刃に、その首を刈り取られた。アリエルは自己の力で死んだ無魔に、冷たい一瞥をくれてやる。
「所詮は理性の無い獣ね。畜生にはお似合いの末路だわ」
「サンキュー、アリエル。君、怪我はしていないかい?」
「う、うん。大丈夫…」
マリベルは少年の無事を確かめると、後続の少女に少年を引き渡した。
「カグラはこの子とそっちの女性を頼む。あたしらが戦っている間はコイツを使うんだ」
そう言ってマリベルは、翡翠色に輝く石を手渡した。
「何ですか?これ」
「結界石だ。こいつを頭上に翳すだけで結界が張れる。簡易的なものだけどな」
「立てますか?お母さん」
「こ、腰が…」
一方で総悟は母親の方を介抱していた。腰を抜かしていたようだったので肩を貸し、神楽の元へと連れて行く。
「グ…ギャアアア…」
今しがたマリベルが蹴り飛ばした無魔が、ふらつきながら立ち上がる。その傍には、先程まで一般人を追いかけ回していた無魔が集まってきていた。チーター型の無魔が雄叫びを上げ、蟹の姿をした無魔が血に濡れた鋏を鳴らす。
「…ギャラリーは一杯いるようだな。踊りがいがあるぜ」
マリベルは軽口を叩きつつも、剣を構える。それに合わせてアリエルと総悟も、各々の獲物を構えた。
「裁かせてもらおうかしら。この世に生まれて来たっていう罪を」
啖呵を切った少女たちに向かって、純白の獣たちは唸り声を挙げ、一斉に踊りかかった。
白昼の公園で魔法と剣檄に彩られた饗宴が始まった。




