16話
連続投稿です。
今回は5回分投稿します。
晴天の元、1人の少女がビルの屋上で黄昏ていた。黒いゴスロリ姿の彼女は空を見上げて溜息を吐く。
「ったく。いつまで気に病んでんだよ母ちゃん。あんな奴また作ればいいだろ?」
背後から、黒いジャケットを着込んだ青年が話かけてくる。振り返って、返事をする。
「フェンちゃん…そんなこと言わないで頂戴。あの子も大事な息子なのよ」
「その通りだ、フェンリル。お前はもう少し母上の心情を理解するよう努めた方がいい」
どこからか現れたスーツ姿の紳士が、少女の言葉に同調する。その男に、フェンリルと呼ばれた男はうんざりとした顔を向けた。
「ヨルムンガンド…はいはいアナタ様のおっしゃる通りですよっと」
ヨルムンガンドと呼ばれた男は、殊更に不機嫌になった。
「おい貴様。少しは真面目に…」
「もう。喧嘩はよしなさい、2人とも」
言い争いを始めた男達の間に、少女が割って入る。
「貴方たちは私の子供なんだから仲良くして。それに…」
少女は、宝石のように輝く石を2人に見せる。それを見るよ否や二人の男は感嘆の声を上げた。
「おお。コイツは」
「完成したのですね」
少女は、得意げな顔で言った。
「やっとコレが出来上がったんだから。計画もやっと大詰めになって来たのに家族で争ってちゃ元も子も無いわ」
少女は手に握ったそれを、慈しむように見る。それは心臓のように脈打ち、生きているかのように蠢いていた。
「これで我々の計画も次のステージに進めますね」
ヨルムンガンドの言葉に、少女は同調して頷く。
「ええ。更に量産するとしましょう。我々の仲間を」
「つーことはまた材料集めかよ。アレ結構面倒臭いってのに」
不満げな態度を見せるフェンリルに、彼女はフォローを入れる。
「そんなこと言わないの。仕事が終わったら貴方がシて欲しいこと幾らでもしてあげるから。ね?」
「マジで!?」
フェンリルは大仰にガッツポーズを取ると、屋上のフェンスに跳び乗った。
「よし、じゃあ早速行ってくるぜ!」
彼はそこから跳躍すると、猿のように建造物間を飛び移っていった。
「いってらっしゃーい」
少女は既に見えなくなった背中に向かって手を振る。単細胞な奴だ、とヨルムンガンドは内心で嘲笑した。
完全にフェンリルの姿が見えなくなった所で、少女はヨルムンガンドに言った。
「ねえヨルちゃん。貴方も何か欲しいモノだったりシて欲しいことがあったら言ってもいいのよ?」
その言葉に彼は、恭しく頭を垂れた。
「ありがたき幸せ。では新しい衣装を…」
「服ね。いいわ、幾らでも買ってあげる」
少女はぐっと伸びをすると、地面に寝転がった。降り注ぐ太陽の光が、肌に心地よい。
「さあ、もう少しで楽しいお祭りが始まるわ。楽しみね、ヨルちゃん」
「はい、ロキ様」
「もう。他人行儀は止めてって言ったじゃない」
少女は頬を膨らませる。ヨルムンガンドは、時たま失念して彼女を名前で呼んでしまうきらいがあった。
「申し訳ありませんでした、母上」
「うん、宜しい」」
少女———虚将ロキは無邪気に微笑んだ。
颯爽と2人の元を離れてからフェンリルは、『材料』を何にするか目星をつけていた。魔人を『材料』にしてしまうのがベストだったが、そうそう巡り合えないのは明白であった。
「しゃあねえ。材料が多く集まる所はどこですかっと…お?」
質の向上が望めないのであれば、量に重きを置く。フェンリルの視界に偶然、10数人程度の人々を乗せたバスが映り込んだ。
「まずまずだな。だがその前に」
フェンリルは指で陣を切り、虚空に紫の円を出現させた。そこから複数体の無魔が出現する。
「魔法少女に見つかると面倒なんでな。誘導は頼んだぜ」
フェンリルは無魔達をバスの進行方向とは真逆の方に解き放つと、舌なめずりをしてバスを見据えた。
「さあ、狩りの時間だ」
白昼の街に、一匹の狼が舞い降りた。




