14話
3話目です。
これでまた暫くは投稿に間が空きそうです。
総悟の家から帰った神楽は、玄関を潜るなり溜息を吐いた。今日は恐ろしい怪物に襲われた上に、自分で選んだとはいえその怪物と戦うこととなり、生涯で最も記憶に残るであろう日となった。
「へえ。貴女、良い所に住んでるのね」
今日から共に棲むこととなった同居人である魔法少女が、リビングに上がり込む。神楽の自宅は部屋こそ少ないものの、広さに関しては二人が住むには広すぎるぐらいだった。
「はい。余ってる部屋は無いんですけど…」
「言ったでしょ?問題は無いって」
アリエルは懐からステッカーを取り出し、前にあった柱に張り付けた。それはみるみる内に光を放ちながら、大きさにして2m程度の長方形に変形して行く。
そして光が晴れると、そこには木製の扉があった。ドアノブを引くと、その中には殺風景な造りの部屋が広がっていた。
窓も格子も無い石造りの部屋。布が一枚だけ掛けられた簡素なベッド。壁もしきりも無く剥き出しで配置された便器。何十冊もの本が敷き詰められた本棚。明らかに部屋から浮いている本棚を除けば、それはさながら留置場のような有様の部屋だった。
「えっ…これって…」
「簡易部屋。空間を弄って部屋を作る魔道具よ。最も…この世界みたいにマナ———大気に含まれている魔力が少ないとこんな感じのお粗末な出来になるけど」
淡々と説明するアリエルだったが、神楽はあることに気付く。
「あの…もしかしてここに住まれるつもりですか?」
「そうだけど」
プライバシーの問題もあるが、同居人をが留置場もかくやの粗末な部屋に住む事を許容する程、神楽は無神経ではなかった。
「…私の部屋使って下さい。せめて寝る時だけでもいいですから」
「別に良いわ。慣れれば案外快適よ?仕様上魔法で室温調整出来ないしベッドの寝心地も最悪だけど」
「どこに快適な要素があるんですか。微塵も感じられませんよ」
「野外で何の設備も無しに生活するのに比べたら…多少はね?」
「比較対象が可笑しいんですがそれは」
神楽は嘆息し、アリエルの手を取った。
「ちょ…」
意外な力の強さに、思わず目を丸くする。
「兎に角私の部屋に来て下さい。こんな部屋で過ごすのは衛生上良くないです」
除菌と消臭は行き届いてるからむしろ清潔なんだけど、そう心の中で思いつつ引っ張られて行く。
「ここが私の部屋です」
連行された彼女の部屋は、ピンク色のカーテンやベッドが配置された10代の女性らしいものだった。本棚にぎっしりとライトノベルと思わしき本が詰まっていることから、所謂『オタク趣味』があることが推測出来た。
整頓が行き届いた部屋を見渡していると、アリエルは床に一冊の薄い冊子が落ちていることに気付いた。
「ん?これは…」
(やべっ!片付けるの忘れてた!)
一方で神楽はその冊子を見るや否や、焦燥に駆られた。アレはマズイ。他人に見られるのはかなりマズイ。
「いやちょ…アリエルさんそれは」
同居する以上いつかは露見することではあった。だがそれはある程度の段階を踏まなければならず、いきなりそれを見られることは断じてあってはならなかった。
冊子の表紙に描かれていたのは、2人の男が裸も同然の装いで抱き合っているというものだった。それに加えて、ゴシック体で「日曜日に君は来ない」というタイトルも記されている。
「どれどれ」
「見ちゃらめえええええええええ!」
神楽はアリエルに向かってダイブするがひらりと躱され、カーペットにキスをする羽目となった。
本の内容は表紙の通り、BLだった。濡れ場のシーンは入念に描写されており、この本が所謂『オカズ』にする為のものであるとすぐに理解出来た。
終わった。同居生活1日にして早くも終わった。そう絶望する神楽に、アリエルは言った。
「黒木×火野か…解ってるわね貴女」
しかしアリエルの反応は、神楽が思っていたものとは真逆だった。引く所か関心されている。
「あの…もしかしてアリエルさん…」
「ん、ああ私もバリバリそっち側の人間よ」
だが、同じ趣味だからといって必ずしも馬が合う訳ではなかった。この手の趣味は細かい趣向によって意見が極端に分かれるのだ。
「年上×年下?それとも年下×年上?」
本当に理解し合えるのか、探りを入れてみる。
「前者ね」
「リバは?」
「ナシで」
「…」
「…」
数秒の間の後2人は歩み寄ると、固い握手を交わした。どうやら私と彼女の趣向は完全に一致しているようだ。
握手を解いてから、神楽は言う。
「いやーまさかアリエルさんもこっち側の人間だったなんて思いもしませんでしたよ」
「この世界に来る前からBLにハマっててね。何なら黒ベスの同人も書いてるし」
黒ベスとは、スポーツ漫画の黒木のベースボールの略称である。
「マジですか!?」
「ちょっと待っててね」
アリエルはリビングまで向かい、一刷の本を持って来た。
「ほら。この通り」
その表紙はやはり、男同士が絡み合った艶めかしいものだった。画力はかなりのもので、耽美なそれは神楽の好みの絵だった。
「これをアリエルさんが?」
「ええ。SNSに上げてるんだけど」
神楽はただただ感動していた。まさか同居人がその道の先輩だったとは…
「あの…師匠と呼ばせてもらっても宜しいでしょうか?」
神楽は改まった口調でアリエルに問う。
「私…将来は同人作家になりたいと思ってるんです。だからどうか、弟子にして頂けませんか?」
頭を下げて懇願する彼女に、アリエルは困惑して答えた。
「弟子だなんてそんな…別に私サークルに入ってる訳でもないし…」
「謙遜しないで下さい。アリエルさん…師匠絵上手いし、すごく良いお話書けるじゃないですか。私も貴女みたいに構成力と画力を付けたいんです。お願いします」
正直な所、アリエルは悪い気はしていなかった。これ程己のことを尊敬し、慕うような人物は魔法界にはいなかった。唯一の親友と呼べるのはマリベルしかおらず、彼女は仲間内からは付き合いが悪い奴だ、と陰口を叩かれていた。
「…解った。弟子にしてあげる」
「本当ですか!?」
神楽は顔をぱあっと輝かせる。
「ただし。教えるのは時間が取れた時だけよ。それに貴方の本業は学生なんだから学業も疎かにしちゃ駄目だからね」
「…解ってますよ」
「さて。明日は学校休みだったよね?構成の話とかするにあたって貴女の好みとかも知っておきたいし、今夜は一晩中語り明かさない?BLについて」
神楽は満面の笑みで、こう答えた。
「はい、喜んで!」
夜が更けて行く中、少女2人は部屋の問題も忘れてふしだらな話で盛り上がっていたのだった。




