12話
久々の投稿です。
今回は3話投稿します。
「とまあ。こんな所何だが…信じてもらえたかな?」
あらかたの説明を終えたマリベルは、眼前で相槌を打ちながら話に聞き入っていた少女に問う。最初は半ばパニックになっていた彼女だったが、冷静になるよう総悟が諭した所でようやく話を聴き入れるようになった。
「嘘みたいな話ですけど…本当なんですよね?」
「ああ」
「そっか…あいつが…あいつらの所為でみこっちが…」
自然と、握った拳に力が入る。どう返事するかはもう決まっていた。
「私も、戦います」
「神楽ちゃん…」
総悟は彼女に戦って欲しくなかった。無関係な人が傷付くのを、彼は見たくなかった。ましてや彼女は大切な友人だ。彼女には、この戦いに関わって欲しくなかった。
「止めないで下さい、先輩」
神楽は強い眼差しで、総悟を見据える。
「私はあいつらを許さない。いや、許せないんです」
それは大切な存在を亡くした者が持つ、屈強な意思だった。幼い頃に両親を亡くした経験がある総悟には、それが深く理解出来た。
「…そっか。所で、ねえマリベルさん」
「何だ?ソーゴ」
「契約相手はデカントさんになるんですかね?」
基本的に魔人との契約は、魔法少女1人につき1人までとの原則が定められている。そのことを以前、総悟は彼女から聞いたことがあった。
「姓じゃなくて気軽に上の名前で呼んでくれると嬉しいわ、ソウゴ君」
ここまで無言を貫いていたアリエルが、ようやく口を開く。
「あ、はい。アリエルさん」
「うん、宜しい。…天川カグラさん、だったわね」
アリエルは、神楽の眼を見据えて言う。神楽は、さながら心を見通されているかのような感覚に陥った。
「は、はい」
「私からも確認しておくけど…本当にいいのよね?」
厳しく、だがどこか優しさを感じさせる声音で、魔法少女は少女に問う。
「私と———魔法少女と契約するということは無魔との戦いに巻き込まれる、つまり命の保証は無くなるということでもあるの。引き返すなら、今の内よ?」
「いいんです。私はあいつらを残さず倒す。私の大事な友達を奪ったあいつらを…」
それは復讐心だった。大切な存在を奪った者に対する怒り、その感情が彼女を戦いへと駆り立てていた。
(同じだわ…私と同じ…)
ふとアリエルの脳裏に、あの日の情景が浮かぶ。物言わぬ死体に泣きつく幼い頃の己。
アリエル自身もまた、無魔への復讐のためにこの日まで戦っていた。
「…貴女の決意は解った。なら契約を結ばせてもらうわね」
アリエルは指で陣を切って魔法陣を床に描き、その中央に立つよう、神楽へ促す。
「それから屈んで」
「はい」
己の指にナイフで傷を付け、神楽に舐めさせる。細い舌が指先の赤い雫に触れた刹那、魔法陣が閃光を放ち、中央にいる二人を包み込んだ。
「くっ…う…」
「痛…!何…コレ…」
全身に劇薬を浴びせられたかのような激痛に、二人は身悶えする。神楽は、意識が吹っ飛びそうだった。
ほんの数秒程度でそれは収まり、魔法陣も消失する。全身のそれは収まったものの、今だに痛みを訴える手の甲を見て、神楽は眼を丸くした。
「山羊…?」
そこには二本の角を蓄えた哺乳類のような模様があった。それは血のように赤く、耽美さを湛える輝きを放っている。
「ちゃんと刻印が浮かんでるわね。これで契約完了よ」
神楽は、己の手の甲に浮かんだ紋章を、まじまじと見つめる。その姿に総悟は、マリベルと契約して間もなかった頃の自分を重ねた。
「これが…契約の証ですか…」
「そうよ。目立つから普段は隠しておきなさい。暗示するだけで出来るからやってみて」
「暗示、ですか?」
「そう。刻印が消えるよう念じれば出来るわ」
数秒程、眼を閉じて刻印に意識を集中させる。眼を空けて手の甲を見ると、そこには痣の影も形もなかった。
「出したい時はまた同じ風にやれば良いわ。さ、これでやることはやったしそろそろお暇しましょうか」
引き揚げようとする二人を、総悟は呼び止めた。
「あの、もう遅いですしウチで夕飯食べて行きませんか?」
「あら?じゃあお言葉に甘えて」
「いいんですか?ありがとうございます」
よし、と総悟は頷き、携帯を取り出す。
「寿司でも頼むかな。生魚とか大丈夫ですか?」
生の魚介類は好みが分かれる、若しくは文化的に食べない地域もあるため聴いておく。ましてやそれが異世界の住民なら猶更なことだ。
「問題無いわ」
「マリベルさんはどうです?」
「右に同じ。あ、あたしは酒買って来るわ。ビールでいいよな?アリエル」
「うん、それでお願い」
玄関に向かうマリベルを横目で見ながら、総悟は携帯に番号を打ち込んだ。




