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少年と魔法少女と三つの世界  作者: ドラゴン☆リンクス
12/40

11話

連続投稿です。

これでメインヒロイン全員が登場しました。

1段落着いたので次は各キャラのプロフィール、作品の用語集を投稿します。

夕日が差す街を、神楽は独り歩いていた。オレンジの光が、寂し気な背中を照らす。

 真子が変死してからというものの、クラスは火が消えてしまったかのように活気を失っていた。彼女は学校に校則で禁止されているような物を持ち込んで指導される、ということを何度も繰り返しているような問題児であったものの、それと同時にクラスのムードメーカーでもあった。彼女を何度も叱りつけている生徒指導の教師も、今回の件に関しては酷く落ち込んでいる様子だった。

「あのーすいません」

 とぼとぼと歩いていると、不意に背後から呼び止められた。おもむろに振り返る。

 振り向いた先には一人の少女がいた。顔立ちからして、神楽と年はさほど変わらないように見える。

「…何ですか」

 人と話す気分になれず、不愛想な態度で答えてしまう。

「ハンカチ、落としましたよ」

 その言葉を聴いて神楽は数秒前の己の言動を酷く後悔した。折角親切にしてくれた人に対して私は何て態度を取ってるんだ。

「ありがとう」

 ございます、そう言い終わらない内に、神楽はその少女に腕を掴まれ、路地裏へと引っ張り込まれた。少女のものとは思えない力に、尻餅をつく。

「きゃっ⁉何すんのよ!」

 神楽は眼前のそれに、言葉を失った。それは喩えるならキリンだった。長い首を持った四足歩行の動物。それは正しくキリンそのものだった。染み一つない純白の体色と、鋭い歯を蓄えた口、眼が存在しないことを除けばだが。

(コイツ…まさかみこっちが言ってた…)

 真っ白な体の化け物。それは今は亡き友人が言っていた怪物の特徴そのものだった。

「まさかこんな所に魔人がいたなんてねぇ。正に僥倖ってやつかしら」

 少女は倒れ込んだ神楽を見下ろす。逆光で顔までは見えなかったが、笑みを浮かべていることが言葉の調子から解った。

「誰よ…あんた」

「名乗る義理も無いわねえ。餌に対して自己紹介するヤツがどこにいるってのよ」

 怪物が息を吐きながら顔を近づける。臭いこそ無いものの、その迫力に気圧されて神楽は顔を背けた。

「チッ、勘づかれたか」

 突如少女は舌打ちを一つすると、人のものとは思えない脚力で跳躍した。そして家屋から家屋へと飛び移って行く。

「オラよっ!」

「大丈夫ですか!」

 少女と入れ替わるようにして、二人の人物が現れる。一人はゴスロリと水着を足したような奇妙な装束を纏った少女、一人は制服姿の少年。奇妙な組み合わせの面々だった。

「もう一体の方には逃げられちまったか…おいソーゴ、その子を頼む」

「はい!」

 少女は路地に飛び込むと同時に怪物の顔面に跳び蹴りを浴びせる。象が足を踏み鳴らすかのような轟音が響く。さらに衝撃によろめいた怪物の顔面を、手にした剣で切り刻んで行く。刃が顔を抉る度に、白い粒子が花弁のように舞う。

 そして少年の方は神楽の傍に寄ると、彼女の体を助け起こした。彼の顔を間近で見て、神楽は驚愕した。

「あ、ありがと……先輩⁉」

 彼女の親友である、如月総悟その人だった。奇妙な造形の剣を手に持つその姿は、普段の彼からは考えもつかない。

「か、神楽ちゃん、どうしてここに…兎に角俺の傍から離れないで!」

 総悟は神楽に背を向け、剣を構える。

 戦闘は、マリベルの優位に進んでいた。軽快な動きで、マリベルは巨大な怪物を翻弄する。閉所である路地において、彼女に地形のアドバンテージがあるのは総悟から見ても明白だった。

 大振りな一撃を躱し、空いた部分に連続で斬撃を叩き込む。確実に、怪物の体力は消耗していた。

「さあ、フィナーレと行こうか」

 小粋に言い放ち、マリベルは怪物の頭上へと跳躍する。魔力が刃に収束し、太陽のように煌めいた。

「今回はクールに行くぜ。『水神の断頭台』!」

 魔力が水に置換され、それは巨大な刃を作り出す。冷たい凶刃は、無魔の首を一刀両断した。

 首を切り落とされた怪物は一瞬硬直し、その後バランスを失ったマネキンのように倒れた。地響きが、その場に居る者達の鼓膜を打つ。

「終わりましたね。神楽ちゃん、立てる?」

 総悟は神楽の方へと振り返り、彼女へ手を差し出す。マリベルも、二人の元に歩み寄ろうとした。———刹那

 斃した筈の怪物。その腹部に当たる部分から、無数の触手が吹き出した。さらに切断された首が、まるでそれだけが1つの生物であったかのように、動き出す。

「しまった!コイツ、まだ生きてたのか…」

 迫る触手を纏めて両断しつつ、マリベルは歯噛みする。

(虚人が手塩に掛けて育てた無魔って時点でもっと警戒すべきだったか…)

「きゃあ!」

「神楽ちゃん!」

 悲鳴に振り返ると、そこでは神楽が触手に絡めとられていた。何重にも渡って巻き付くそれを、総悟は必死に切断しようと剣を振るう。

「くっ!こんの野郎!」

 しかし、偽装錬器の性能では無魔の体の一部を両断することもままならなかった。弱固体なら一撃で葬る刃でも、強大な力を持つそれ相手には形無しだった。

「待ってろ!すぐ行く!」

 二人の元へ駆け出そうとしたマリベルだったが、背後から触手に巻き付かれてつんのめる。

「離せ!」

 慌てて火炎魔法で焼却して脱出したが、全身を襲う脱力感に膝を着いた。

「コイツ、魔力を吸収しやがるのか…」

 魔法少女の衣装が、シースルーのように薄れ出す。魔力の急激な減少によって変身状態を維持するのも困難となって来ているのだ。

「いやあ!」

 神楽の体は、無魔の口元へと引き寄せられていた。無数の牙が、彼女の柔らかい肉体を咀嚼しようと音を鳴らして迫り来る。

「うおおおおおおおおおお!」

 総悟はがむしゃらに、触手に向けて刃を叩きつける。しかし、幾ら攻撃を叩き込もうとも、反ってくるのはゴムのような手応えのみ。彼の攻撃では、無魔を傷つけることすらも敵わなかった。

 いよいよ口まで引き寄せられた神楽は、その残忍な穴に放り込まれようとしていた。何も見えない暗闇と、純白の凶刃が迫る。神楽は絶望し、眼を閉じた。刹那——

 鎌鼬のような風の刃が、触手を一気に切り刻んだ。支えを失った神楽の体は、地面へと落下する。

「危ない!」

 総悟が慌てて飛び込み、抱き抱える。


「全く…どうしてこんなにも醜いのかしら、無魔(お前)共(達)は」


 それは、一人の魔法少女だった。青や紫等の寒色を基調とした、ゴスロリと水着を足したかのような際どい装束。彼女のそれは胸元の膨らみが大きい分、より煽情的に見えた。

 腰までのツインテールを風になびかせ、その魔法少女は冷酷さを湛えた瞳で無魔を見下ろす。

「ただ獲物を喰らうことだけを考え、どんなに傷付こうが生き長らえようとする。醜い、実に醜いわ」

 無魔はその魔法少女へと標的を変更すると、大口を開けて飛び掛かった。幾本の触手が彼女を捕えようと蠢く。

 しかし、彼女はそれに動ずることなく杖を構えた。先端に魔力が収束し、青い光球を形作る。

 そして、それは打ち出された。光は冷気を放ち、その姿を氷の塊へと変えて行く。氷塊は柱のような造形となり、無魔の大口に挟まった。

 があああああああああああああ…!

 口を縦にこじ開けられ、無魔は苦悶の雄叫びを上げる。触手で取り除こうとするも冷気で氷塊に触手が張り付き、ただただ痙攣することしか出来ない。

「さあ———死になさい」

 少女が杖をくるりと一回転させると、氷塊が巨大化した。それはみるみる膨張を続け、怪物の痙攣も激しくなる。

 そして、破滅の時は訪れた。無魔の顔は氷塊の膨張に耐えかね、白い粒子を巻き散らして破裂した。それに伴って触手も、ぴんと硬直した後粒子化して行く。

 無魔が完全に消滅したことを見届けた彼女は、地上に降り立つ。開口一番、彼女はマリベルに話しかけた。

「久しぶりね、マリベル」

 温和に微笑むその表情は、先程までの冷徹なそれとは全く似つかない。

 彼女を見るなり、マリベルは言った。

「おー久しぶり。三カ月ぶりだな」

 和気藹々と話すマリベルに、総悟は問う。

「あのー、どなたですか?この人」

「ん、あぁ。アリエルだよ。アリエル・デカント。今朝話したろ?魔法界から来客があるって」

「初めまして、アリエル・デカントです。君がマリベルの契約者かしら?」

 アリエルは総悟の傍に寄り、彼の顔を覗き込む。彼女の方が10センチ程度背が高いというのもあってか、胸元が間近で見えた。

「は、はい!如月総悟です」

 赤面して、声が裏返ってしまう。

「ふふ。如月ソウゴ君か。宜しくね」

「なあ、ここじゃ何だからあたしの家で話そうぜ。おっとその前に」

 マリベルは先程から状況についていけず、眼を点にしている神楽に歩み寄り、手を彼女の額に当てた。魔法少女という存在を秘匿するための精神操作である。

「すまんな。お前さんを危険な目に合わせてしまって」

 記憶を消そうと魔力を手に込めた所で、マリベルはその作業を中断した。

「えっと…何ですか?」

 何をするのか、という神楽の問いを手で制し、振り返って二人に言う。

「…よくよく視てみりゃこの娘、魔人の素質持ってるじゃねーか。記憶処理は一先ず止めだ。彼女には話をしなきゃならねえ」



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