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復讐者はこの世界でも頂点を目指す  作者: くまけん
第四章 〜俺達はもっと強くなりたい〜
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第52話 「I wanna be a strong beast」

「凄い! あはは凄いぞアレイヤ! 何だそれは! はははははは!」

 『マジック・ネグレクター』を目の当たりにしてザハドは機嫌良く笑った。

「魔術を消すなんてありかよ! いや理屈は大昔から発案されてたが、実際にやってのけた奴は初めて見た! これ大発見なんじゃないか?」

 ザハドはテンションが上がっていた。この技術自体は大昔に見つかっていたのか? だったら一般化されてもおかしくないだろうに。具現化魔術で生成されたものは、どれだけ迫力があっても結局魔力の創造物だ。数秒しか維持出来ないものなら人為的に消すのも可能だと思ってたけど……そんな簡単な話ではなかった?


「……ふざけてる」

 キョウカは低く呟き、大きな鉄塊を手の上で生成した。お得意の『アイアン・ファング』だ。鉄塊は先端を尖らせていき、俺の方を向く。

「魔術を否定する魔術師なんて。だったらこれも消してみる?」

 これは小手調べなんてもんじゃない。キョウカの魔力の全霊が篭った、一撃必殺の弾丸だ。

 キョウカは挑発的に言った。この一撃を止めてみろって挑戦状だ。いいさ。受けて立つ。

 ベクトル変換を間違えて、あの巨大な鉄塊を強化して食らったら、俺の胴体は粉砕されるだろう。正真正銘命懸けだ。キョウカはそんなの知らないだろうけど。


 俺はキョウカをまっすぐ見て集中した。キョウカはたじろぐ様子を表しながらも、やけくそ気味に鉄塊を放った。

 攻撃が近付く。許された時間は一瞬だ。その隙に魔術を打ち消す。

 失敗の恐怖が無いとは言えなかった。油断はしていない。だとしても、恐怖に負けて背を向ける気も無い。一度の成功で終わらせるな。何度でも成功するからこそ奥の手は奥の手になれる。

「『マジック・ネグレクター』!」

 俺の声が終わると共に、鉄塊は霧散した。敵を貫くために生み出された魔術は、その責任を果たさず去る。


「こんなの……こんなの……」

 キョウカの瞳に影が宿る。ザハドは興味深そうに俺を見つつ両手を上げた。

「これ降参じゃあないかなー? 具現化魔術でアレイヤには勝てなくなっちゃったし」

 状況を的確に示したザハドの一言だった。魔術の撃ち合いは最早勝負として成立しない。『マジック・ネグレクター』は、強力な具現化魔術の完全な対抗策だ。

「だったら!」

 キョウカは腰を深く落とし四つん這いの体勢になった。俺を睨んで獣のように唸りを上げる。

「『アイ・ワナ・ビー』……。肉体を強化出来るのは貴方だけじゃない」

 キョウカの声が重く感じる。彼女の圧力に目を離せない。少しでも気を抜けば首を引き裂かれる雰囲気さえあった。

 息を、飲む。


「役割追従魔術!? そんなマイナーな魔術練習してたのかキョウカ!」

 ザハドは目を丸くしてその後ゲラゲラと笑った。

「あはははははは! しかも、猛獣の真似って! ふはははははは!」

 え? 何がおかしいんだ? 役割追従魔術って? ここに来て、また知らない単語が増えた。

「うるさい、ザハド。アレイヤを叩きのめしたら次は貴方だから」

 キョウカの戦意は一切揺らがなかった。具現化魔術を無力化された後も継続して使用する魔術……それにキョウカの発言を鑑みるに、あれは身体強化の魔術か。人術の《(しつ)》や《(ごう)》に似た技だとしたら、多分『マジック・ネグレクター』は通用しない。

 というか、理論上は無効化出来るはずだけどベクトルが分からないから演算出来ない。

 具現化魔術は動きが単純だし、理論を予め聞いていたからなんとか無効化出来た。でも理論が未知の魔術はベクトルが不明。つまり、どうすれば0に出来るかも不明だ。


 俺はミリオン・ワンドを構えた。魔術の撃ち合いは終わり、ここからは肉弾戦が始まる。

 イメージする。接近戦と中距離戦に向いていて、攻撃にも防御にも長けた武器。様子見のための、汎用性の高い形体。ミリオン・ワンドが今なるべき形は。

「形体変化、棍」

 俺が魔力を込めると、ミリオン・ワンドは長い棍に姿を変えた。どこから攻撃が来てもいいように神経を尖らせる。

「それが優勝賞品なのね。貴方に使いこなせる?」

 キョウカは四つの手足で床を駆けた。速い。人間が四つん這いになって出せる速度じゃない。まさしく獲物を狩る獣のようだ。あっという間に彼女は俺の目の前に到達していた。

 だけど、グリミラズの《(しつ)》はもっと速かった。それに比べたら、まだ目で追えない速度じゃない。


「くっ……!」

 キョウカの爪の一撃を棍で防ぎ、押し返した。キョウカが怯むかと思ったけど、彼女は綺麗に受け身を取ってすぐさま第二撃に転じる。

 素早い攻撃に対処するのが精一杯だった。キョウカは単純に襲ってくるだけじゃなく、フェイントを仕掛けたり背後に回ったりと巧みな動きを混ぜてくる。まるで知性を持った獣だ。その表現は若干失礼かもしれないけど。

 人術使いとの戦いを連想させる。苦戦はするけど、むしろ慣れている分野だ。

 必ず隙はあるはずだ。防御を続けて観察していれば、ほらここに。

「そこだ!」

 キョウカの大振りの攻撃が外れた。体勢を崩したキョウカはすぐに回避出来ないはず。俺は棍を突き出して渾身の反撃を放った。


 しかし、外れる。

 避けられるなんて思わなかった。その前提で動いてしまった。だから隙を生んだのは俺の方だった。

 これはキョウカの罠だったんだ。攻撃を外したフリをして、隙を晒した演技をして、俺の反撃を誘った。それにまんまと騙されてしまったのが俺だ。

「馬鹿ね」

 キョウカの嘲笑が聞こえたと同時に、腹に激痛が走る。カウンターに対するカウンターが、これ以上なく強烈に決まった。

「がっ……!」

 俺は鈍い声を漏らし、床に倒れた。キョウカに殴られた箇所を押さえ、俺は回復に集中した。

 やられた。身体能力的には互角だろうけど、駆け引きで負けた。

 いや、まだ負けてはいない。白旗を上げるには時期尚早だ。


 俺はミリオン・ワンドを再び構える。キョウカは反撃を予知してか俺から距離を置いた。一瞬で間合いの外に逃げられる。想像以上の機敏さだ。

「だったら……形体変化、弓!」

 魔力を込めるとミリオン・ワンドは弓に変化した。矢は生成出来ないらしい。その分は具現化魔術で補おう。

 俺は弓を構え、金魔術で具現化した矢を番えた。よく狙って撃ったつもりでも、キョウカには当たらなかった。発射された矢を見てから回避出来るスピードは凄まじい。まぁ避けられるだろうなとは思ってたけど。


「牽制にすらならないな。どうすれば」

 ミリオン・ワンドは便利な武器だけど、変化機能以外には特別な魔術補助が施されてる訳じゃない。普通の武器と変わらない性能だ。俺の武器習熟度が低い限りは、ろくに当たりもしないだろう。

 じゃあアプローチを変えるか。まだ試したい事が一つだけある。エムネェスとの会話で浮かんだアイデアを、ぶっつけ本番で形にしてみようか。

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