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冬ごろも 

掲載日:2020/02/23

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 お前はさ、新年度になったらやりたいことってある?


 ――なに、新年が開けた時には似たようなことを訊かれた?


 おお、それはすまねえな。

 ほれ、新年度になったらクラス替えがあるだろ。こうしてお前と顔を合わす機会も少なくなるかもだしな。もし、抱負なぞがあったら心得ておこうと思ってよ。

 俺たちはもう何回も「新年度」を迎えている。他の行事と同じで、いやでもやってくるもんだからよ。そいつの訪れを当然のように思っていないか?

 俺たちが当たり前に過ごしている一年も、裏じゃ意外な労力が払われているかもしれない。それについては、俺もいくつか興味が湧く話を聞きかじってな。興味があったら、そのうちの一話を聞いてみないか?

 

 むかしむかしのこと。とある村では冬の終わりが近づくと、村人が総出で行うならわしがあった。

 その年、村の近隣で霜柱が立ったところの土を、丹念に掘っていくのさ。そうして最初に出くわしたものを回収する。

 土そのもの以外だったら、なんでもいい。石、木の根っこ、ミミズやモグラの類だって歓迎だ。それらを捕まえたら、村はずれにある蔵へ持っていく。

 その蔵はずっと昔から存在するものらしくてな。他の家々に比べると、壁には苔がはびこり、足元にはひびにも似た木の根がいくつも走っている。入り口を閉ざす鉄の扉もすっかり錆び切って、血に似た臭いを漂わせている。

 

 村長曰く、この中では季節を醸成させているのだという。

 季節はそのときどきに応じて変わる、世界の姿。我々が時期によって、薄着や厚着をするように、世界もまた薄着や厚着をする。その衣替えをする時の服を、この中へとっておくのだとか。

 そして冬の気配が近づいてくると、とある期間だけ蔵の戸を開ける。季節が服をまといにやってくるらしい。最低限の見張りだけ立たされて、他の者は蔵に近寄ることを禁じられた。


「誰だって、おめかしをしているところをのぞかれたくはないだろう? そっとしておいて、服を着替えるのを待つんだ。機嫌を損ねて、冬が来なくなったらことだからな」


 大人は子供たちにそう話して聞かせたそうだ。何世代もまたいで守られ続けた風習だったが、やはり何事もつつがなくとはいかねえ。


 ある年、村中の土を掘り返しても、中から何も出てこなかったことがあったんだ。小石ひとつ、生き物ひとつ出てこない異常な事態。

 村人たちは躍起になって探る範囲を広げたけれど、土の中の者たちは一斉に天へでも上ったのか、一向に見つかる気配がなかった。

 この村では春の訪れを、草木をしならせる強い風をもって判断する。吹く時期はほぼ決まっていて、それ以降のものは冬のものと認められない。このままだと、蔵の中を空っぽにして来年を迎えることになってしまう。


 焦った彼らは、代わりに木の葉や木の実、冬の間に狩って貯めておいた獣の肉などを、蔵の中へ捧げた。めいめいのものを運び終わった直後、件の強い風が巻き起こり、期限の終わりを告げる。

 形だけでも守ることのできた伝統。当初こそ不安に駆られた人々だったが、田畑の仕事が本格的に始まり、厳しい暑さを迎えた夏を終えると、ほとんど気にする者はいなくなっていた。そうして秋の収穫まで終わり、再び冬が近づいてきた時のこと。


 例年通り、蔵の戸を開け放って見張りがそばに立ったんだが、皆が寝静まった夜半に、見張りのひとりの悲鳴が村中に響き渡った。

 他の見張りたちが駆けつけたところ、彼の身体は木の葉まみれになっていた。それだけでなく、葉の下からは木の実や、からからに乾いた肉片などがびっしりこびりつき、息さえしにくい状況だったという。

 どうにか解放された彼は語る。「ゴウゴウ」と耳元で強い風が吹いたような音がしたかと思うと、突然、目の前に葉っぱたちが渦を巻いて現れたとのこと。その動きは早く、たちまちのうちに体中に覆いかぶされて、悲鳴をあげるのが精いっぱいだったとか。


 彼にくっついていたのは、いずれも蔵の中に放り込まれていたもの。それを外から張り付けたにしては、あまりに頑丈にこびりついていた。肌にじかに接していた肉などは、最も浅い部分の皮と一緒に、引きはがさざるを得ないほどだったとか。


 ――冬が我々の用意に怒っているのではないか。


 そう考えた村人たちは話し合いを始めたけれど、異変はすぐにやってきた。

 まだかろうじて葉を保っていた、村の周囲の木々たちが一斉に散り始めたんだ。風はまったく吹いていないにもかかわらず、地面にそのまま落ちるものはない。いずれも寸前でするりと浮き上がり、木立の間へ導かれて飛んでいく。

 家々も同じだ。屋根のようにはがれやすい部分から、持っていかれだす。壁や柱にも、ひとりでに亀裂が入っていった。


 村の人たちは逃げ出した。とどまっていたら、家がこのまま崩れてしまうかもしれないからだ。

 彼らはそのまま半里ほど離れた、砦の中へ立てこもる。他の村と争いごとが起きた時に利用する、拠点のひとつだ。村人全員がしばらく留まれるほどの用意が、常になされている。

 その砦の物見やぐらから村のほうを見た者の話では、渦を巻きながら空中高くに登っていく、家々の一部が確認できたとか。この現象は、およそ丸一日続いたらしい。


 竜巻が見えなくなってからしばらくし、様子を見てきた者が帰ってくる。報告によると、家々は形は保っているものの、妙なかっこうになっているという。

 実際に人々が確認したところ、彼らの家は確かにもとあった位置に存在した。でも、つぎはぎした衣服のように、家のところどころで建材がごちゃまぜになっていたんだとか。

 木の床のところどころが、固まった牛糞に置き換わるなど当たり前。ひどい時には、冬眠中の熊らしき生き物が、ぴったりとはまっていることもあったらしい。

 その年には普通に冬の一部がとれ始めたところを見ると、冬そのものも別の服を繕ってほしかったんじゃないかと、人々はうわさしたんだってさ。



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