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クローバー  作者: 瀬賀拓
9/11

第8章 突然

8 月 6 日月曜日。


健一は元治と二人でクローバーで働くも現在 12 時の時点で客は0人と客足が悪かった。


「今日は客足が悪いな。」


「そうだね。じいちゃん今日はどうしたの?」


健一は元治の顔色の悪さが気になった。


「うむ。なんか、昨夜から体調が悪くての・・・」


そう言って咳込む元治の額に手を当てた健一はあまりの熱に驚いた。


「ウヮ、凄い熱!!二階で休みなよ。」


その時、元治が意識を失い、いきなり床に倒れた。


「どうしたの!!じいちゃん!!大丈夫!?待ってて救急車呼ぶから。」


健一はややパニックになりながらも電話で救急車を呼んだ。


その時、昌彦が店に入り目の前の光景に驚いた。


「健一君!!どうしたの?」


「なんかじいちゃんが凄い熱でいきなり倒れて。」


昌彦は元治の額に手を当てた。


「救急車は?」


「呼びました。」


「よし。じゃあ私の病院に搬送しよう。」


数分後、救急車が到着し元治を吉本病院へと運んだ。


健一と昌彦も一緒に乗り病院へと向かった。


吉本病院に運ばれた時、元治は意識不明の重体だった。




「ん?ここは?」


周りにはクローバー畑。


元治の目の前に一本の橋があり川が流れていた。


「あの橋はなんだろう?」


元治が行こうとしたその時


「父さん!!」


「お義父さん。」


「お~健治。佳代さんも!久しぶりだね。」


健治と健治の妻の佳代が元治を呼び止めた。


「あなた!!」


「純子!純子か?」


元治は妻の純子との再会を果たした。


「渡らないで!!」


橋を渡ろうとする元治に純子が強く叫んだ。


「もう少し私達の代わりに健一の面倒を見てくれないかしら?」


そう言って純子が川の水に下界の映像を映した。


元治が見てみるとそこには孫の健一が元治の手を握っている様子が写し出されていた。


「父さん、佳代や、母さんの代わりに健一の結婚式にでて俺らの代わりに健一の晴れ姿を見届けて来て欲しいんだ。」


健治は元治に必死になって頼んだ。


「・・・・・」


「父さん、・・・ゴメン。」


「待ってくれ!!」


消える3人に対し元治は叫んだ。


目が覚め元治がふと周りを見ると病室で点滴をうけていた。


病室には健一と昌彦が見守っていた。


「あ~良かった。気が付いたようですね。」


院長の昌志が言った。


「ここは?」


「吉本病院。働いてる途中、熱を出して倒れたんだよ。意識が無くて心配したんだから。」


健一が詳しい状況をあれこれと説明した。


「そうだったのか。・・・・心配かけてすまん。さて、帰るか。」


そう言って起き上がろうとする元治を一同は強く押さえ付けた。


「ダメです。あと一歩で肺炎になるところだったんですよ!!一週間はここで入院して絶対安静にしていてください。」


そう言って昌志が厳しく言った。


「そうだよ、今は点滴で落ち着いているんだから、店は俺に任せなよ。」


健一が元治を諭した。


「ゆっくり休んどけって、入院中は、俺が話し相手をしといてやるから。」


昌彦がそう言って元治を諭した。


「父さん!ここは病院ですから、少し静かにしてくださいよ。」


院長の昌志が注意する。


「分かっとるわ。」


昌彦が反論する。


「大丈夫。わしも疲れてるから多分静かじゃよ。せっかくだからゆっくり休むよ。」


そう言って元治は床に就いた。


「まぁ意識も戻ったことだし、健一君、疲れてるでしょ?今日は帰りなさい。後は僕に任せて。」


院長の昌志が頼もしく言った。


「すいません。祖父をよろしくお願いします。」


健一はそう告げ家へと帰って行った。


翌日、店で働く健一は元治が無事でホッとするも疲れが溜まりテンションが低かった。




その時、沙紀が店へとやってきた。


「よっ!!」


沙紀はいつもの調子で明るく振る舞っていた。


「あぁ、沙紀か…」


「なんか、元気無いね~……あれ、マスターは?」


沙紀はやっと店の異変に気付いたようだ。


「あぁ。今、病院。」


健一はため息をつき沙紀は驚き元治を心配した。


「えっ!?何があったの?」


「昨日、高熱を出して倒れたんだ。」


「大丈夫なの?」


「あぁ。一時は肺炎の一歩手前まできていたらしいが、今は点滴受けてピンピンしているし吉本さんがついてるから安心だよ。来週中には戻ってくるから・・・・」


しばらく黙りこくる沙紀はふとある事を思い付いた。


「ねぇ早川~♪♪私、店、手伝うよ。一回喫茶店で働いてみたかったのよね~」


沙紀はそう言って明るく笑って見せた。


「えぇー!?いいよ~、お前が手伝うと更に仕事が増えるから。」


健一はそんな沙紀に対しおどけてみせた。


「失礼ね~私、これでもマックでバイトしたことあるんだからね~!!」


沙紀は少し怒り健一をジロッと睨んだ。


「分かった×2、じゃあ、沙紀には 19 時まで働いて貰うよ。」


健一は仕方なく沙紀の手伝いを認めることにした……


「あれ?店は 22 時までだよね?」


「うん。でも、見舞いとかじいちゃんの世話しなきゃいけないからしばらくは店を早閉めにするんだ。」


「あっ、そうだね。じゃあ、一丁やりますか~」


沙紀はそう言って店のエプロンを着け作業し始めた。


さっきから沙紀の方をジーっと見ている健一に対し沙紀が訊ねてきた。


「あっ、いや、その……ありがとな。」


健一はそんな沙紀に照れ隠しでボソッと呟いた。


「べっ、別に……」


沙紀もそんな健一の言葉に思わず顔を赤らめ黙々と作業していた。


それからの一週間。


クローバーでは健一が調理、沙紀がレジ・接客と分担し店を切り盛りしていた。


「沙紀ちゃん可愛いね~♪」


「沙紀ちゃん彼氏いるの?」


「沙紀ちゃんいっそのことずっとクローバーで働いてよ。」


元々接客上手な沙紀はクローバーの常連達にすっかり気に入られ、看板娘と化していた。


一方の健一はそんな常連達に野次られながらも黙々と料理を作り腕を上げていった。




そして 8 月 12 日火曜日。


昨日、風邪が治り無事退院した元治が健一と沙紀の3人で仕事をしていた。


「せっかくマスターが退院したっていうのに来ませんね~」


元治が退院したっていうのに午後 18 時を過ぎても常連客の誰一人も来ない状況に沙紀は不審を抱いていた。


「そぅだね~」


元治も少し気にはなっていたがこれもこれでたまには静かなのも良いかと自分に言い聞かせていた。


「まぁ、今日は確かに少ないけど、ウチは元々19 時~が一番忙しくなる店だから今はまだ良いんじゃないの?」


二人を見かねた健一はそう言って外に出て看板の明かりを点け close を出した。


「まぁ、それもそうだ。久しぶりだからど~も感覚が鈍ってしまってわしも歳だな。」


元治はそう言って笑いコーヒーを飲んだ。


そして、19 時。


クローバーの店には続々と常連客や近所の知人・昔の親友らが入ってきた。


「いらっしゃいませ。」


健一の言ったように店は 19 時から混み始めてきた。


「マスター、久しぶり。」


いつも以上に続々と入って来る客に元治はただただ驚いていた。


「いや、これは一体……」


その時、常連客であり元治の親友である昌彦が店に入りこう言った。


「元さん、退院おめでとう。」


昌彦が花束を渡すのと同時に今度は常連客全員がポケットからクラッカーを取りだし一斉に鳴らした。


『マスター退院おめでとう。』


あまりにも突然の出来事に驚く沙紀をよそに健一は近所の八百屋や酒屋から頂いた退院祝いの品々の準備をしていた。


「ありがとう。みんな、心配をかけたな。」


元治は感激して目頭が熱くなっていた。


「よし、今日は店を貸しきるぞ!!」


昌彦はそう言って全員を盛り上げ乾杯した。


準備を終えた健一は事前に下拵えした料理を振る舞い皿を洗うのに追われながらもお祭り騒ぎの雰囲気を楽しんでいた。


23 時。飲み会を終え、健一は店内の片付けを、元治と沙紀は常連客らを見送っていた。




そして、最後に昌彦が帰ろうとする所を元治が呼び止めた。


「昌彦。ワシの退院祝いに皆を集めてくれたのお前だろ?」


実は今回の退院祝いを企画したのは昌彦と健一だった。






8 月 9 日。


9 時。


見舞いに来ていた健一は突然院長室に呼ばれた。


「やぁ、健一君。」


そこには白衣を着た昌彦が神妙な面持ちで椅子に座っていた。


「あの・・・・祖父の身に何か。」


健一に緊張が走る。


「いや、元さんはあの通りピンピンしているから予定通り、月曜日に退院できるよ。」


健一はホッと胸を撫で下ろした。


「うん。それで今日呼んだのは、今度の火曜日に、元さんの退院祝いを常連客や近所の人達でやるんだが君にも協力して貰いたい。」


昌彦の言葉に健一は驚いた。


「あっ、いや、そんな、申し訳ないですよ~ちょっと入院した位で、そこまでしなくても……」


「火曜日は何日?」


昌彦は恐縮する健一に日付を聞いてみた。


「えっと 8 月 12……あっ!!」


「やっと分かったようだね。」


気付いた健一を見て昌彦はニヤリと笑いこう付け加えた。


「健一君、君には色々と協力して貰うよ。」


元治はそう言って健一に全容を教えた。




店を貸しきる為、会費は一人1万円。


次に健一は当日までに全員に出す料理を考え下拵えをし事をスムーズに運ばせる。


当日は昌彦の指示で常連客全員は健一が店の灯りと close の札をかけるまでは入店しない。


健一の合図が出たら5分か10分おき位で徐々に入店し健一はその間近所の八百屋、酒屋から仕入れた品々を運び料理、お酒などを振る舞い終わりの方で何か一言言って閉めるという内容だった。


「火曜日頼むよ。」


「分かりました。」


健一は昌彦に一礼し部屋を後にした。


「唯一の想定外は、健一君が後藤さんに知らせなかったのとスピーチする暇が無かった事かな。」


昌彦はそう言って笑い沙紀は健一の方を振り向いた。


健一は黙々とテーブルを拭き食器を片していた。


「それにしても、お前といい、健一といい、凝った演出が好きだな。」


「まぁね。それに、今日はクローバー開店 30 周年だろ?」


昌彦の言葉に思わず驚いた元治はしみじみと思い出していた。


「あぁ~そうか。純子と店を始めてもう 30 年も経つのか………」


「あぁ、長いもんだね……じゃあ、沙紀ちゃんもまたね。」


しばらく昔に浸っていた昌彦はそう言って手を振り笑いながら帰って行った。


二人は昌彦を見送り店に戻ると元治が沙紀に封筒を渡してきた。


「少ないかもしれんがバイト代。」


「えっ、そんな・・・」


いきなり渡された沙紀は驚き遠慮した。


「いや、わしのせめてもの気持ちだから。受け取ってくれ。」


「そんな…マスター私は………」


「いや、渡さんとわしの気がおさまらんのだよ。」


「・・・・ありがとうございます。」


元治の押しに根負けした沙紀は遠慮しながら元治からお金を受け取った。


「さぁ、今日は遅いから帰りなさい。」


「・・・はい。お疲れ様でした。早川、私、帰るね。」


そう言って健一に別れを告げた沙紀は明るく微笑み店を後にした。


健一は沙紀にあぁ。という生返事を返し再び皿を洗った。


「バカモン、後はわしがやる。お前は急いで沙紀ちゃんを送って行け。こんな夜道を女一人で歩いて帰らせたら危ないだろ。」


元治に軽いげんこつを食らった健一は作業を止め帰りの身支度をし始めた。


少しきつく言い過ぎたと思った元治は続けてこう言った。


「今日はありがとな……」


元治の言葉に照れる健一はどういたしましてと呟きながらにロッカーから鞄を取り出し沙紀の後を追った。


車を走らせた健一は沙紀を見つけ車を止めた。


「送って行くよ。」


健一はそう言って助手席のドアを開けた。


「あっ、ありがとう。」


意外な展開に戸惑う沙紀ではあったが内心かなり嬉しかった。


そして、再び車を走らせた健一は沙紀の自宅がある小岩へと走って行った。


「早川、やるじゃない。」


沙紀はそう言ってニヤッと笑った。


「何が?」


「退院祝いよ~」


沙紀はそう言って健一の左肩を突っついた。


「あぁ、開店 30 周年だったしな・・・・」


「でも、私にも教えてくれれば良かったのに。」


沙紀はなんだか少し寂しい気もした。


「お前、お喋りだからダメ。」


健一の言葉に沙紀は少しムッとした。


「そんな事無いわよ。失礼しちゃうわね~」


沙紀はそう言ってiPodを流し不貞腐れながら音楽を聞いていた。


「まぁ、なんだその……この一週間、色々と手伝ってくれてありがとな。」


健一に感謝され沙紀は照れていた。


「ううん。むしろ、私の方こそお礼が言いたい。私、この一週間かなり楽しかったし、マスターが元気になって今日のお祝いの現場にいられてとても楽しかった。」


そう呟いた沙紀は明るくニコッと微笑んだ。


しばらくして、沙紀の家に到着した健一は沙紀を車から降ろした。




「じゃあ、今日はお疲れ。」


沙紀はそう言って健一に手を振った。


しかし、沙紀には健一に言っておきたい事があった……


『あっ、あのさ』


それは健一も同じだったのか沙紀と健一が同時に言葉を発し二人は思わず笑ってしまった。


「沙紀からどうぞ」


「いや、早川から。」


互いに互いを譲る二人だが、結局、健一の方が折れた。


「あのさ、………明後日の東京湾花火大会さ、一緒に行かないか?」


緊張している健一は頭をかきながら沙紀に言った。


「えっ!?」


自分が言おうと思ってた事を言われた沙紀は驚いた。


健一の方はさらに緊張が走った。


「うん。全然良いよ!!何時に待ち合わせする?」


健一に誘われるとは思ってもみなかった沙紀は快くOKし舞い上がっていた。


「じゃあ、15 時にここで。」


「車で行くの?」


「いや、電車で行く。」


「分かった、15 時ね。」


「あぁ、沙紀はなんだ?」


ふと、健一は沙紀の質問が気になった。


「えっ!?あれ?なんだったけな~?」


まさか、自分も同じ事を言おうとしてたと言うのが恥ずかしかった沙紀はとぼけて誤魔化した。


「・・・まぁ、いいや。じゃあな。」


健一は沙紀に手を振り車に乗った。


「うん。じゃあね。」


沙紀も健一に手を振り家の中へと入っていった。



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