第3章 クローバー
ドライブを楽しむ、沙紀に対し、健一は疲れがたまり半ば居眠り運転をしていた。
「早川赤!!」
沙紀が叫んだおかげで健一はあわててブレーキを踏んだ。
「わりぃ!!沙紀、大丈夫か!?」
「うん。大丈夫。」
(ごめんね。)
必死に謝る健一に対し沙紀は心の中で自分の身勝手さを謝った。
一方バッティングセンターで野球を楽しんだ茜と長山はラクーア周辺を歩いていた。
「今日は楽しかったね♪♪」
「ああ。茜、部活何やってたの?」
「小学校の時はソフトボールと早川のお父さんが監督の少年野球を5・6年の時にやってた。中学高校は野球部のマネージャー。」
「成程ね。茜はどこ守ってたの?」
「私もハヤケンも外野を守ってたの。6年の時、地区優勝しておおはしゃぎしたっけな~」
茜はそう言って昔を懐かしんだ。
「どうりで巧いわけだわ。」
茜に感心する長山はふと思った。
(ハヤケンか。茜が早川に対してあんなにはしゃぐとは・・・)
一方の茜は健一との再会を振り返り嬉しそうな表情を浮かべていた。
(懐かしいなぁ。ハヤケン、全然変わってなかったな~)
「じゃあね。」
「うん、じゃあね。」
二人は手をふり、駅で別れて帰っていった。
健一と沙紀は東京湾で海を見て、高速をひたすら走り、江戸川の土手に行き、二人で夕焼けを見ながら座っていた。
「今日は楽しかった~海をみたり、高速走ったりして。」
沙紀が満足そうに健一に言ってきた。
「あぁ。・・・」
河川敷で野球をやってる子供の方を見ながら健一は物思いにふけっていた。
「ちょっと、早川~聞いてる!?」
「聞いてるよ。野球かぁ~懐かしいなぁ。」
「も~。懐かしいね、早川、中学の時は3年間野球部だったもんね。」
野球バカの健一に少々呆れながら沙紀も懐かしんだ。
「あぁ。野球って良いよな。」
「そうだね。特にボールを打つのが楽しいよね。」
「まぁね。・・・ちょっとまて、お前野球やったことあるの!?」
「あれ?言ってなかったけ?私、小学校の時少年野球やってたんだよ。」
「初耳だわ~」
「私、都大会にだって出たことだってあるんだからね。」
驚く健一に沙紀はエヘンと自慢した。
「俺も都大会なら一回だけ出たことあるよ。」
沙紀はまたしても健一に肩透かしを食らってしまった。
「なんだ。ちなみになんてチームなの?」
「早稲田モンキーズ。」
そう言って、仰向けになり健一は昔を思い出していた。
沙紀も仰向けになり空を眺めてる事にした。
少年野球都大会予選新宿区決勝。早稲田モンキーズVS戸山チーターズ。
現在延長9回裏モンキーズの攻撃に入る。
1―2でチーターズのリード。
円陣を組むモンキーズ。
「お前ら良くここまで来たよ。あの地区最強のチーターズに1対2だぞ!!さて、取られた分は倍にして返そう!!」
監督の健治が激を飛ばす。
健一は皆の推薦でキャプテンを勤めていた。
「よーし。モンキーズ!!ファイト―×4。」
健一の呼び掛けに続くナイン。
9番、茜からの打順。茜は打席に入り相手投手の甘い球を初球から打ちセンター前ヒット。
茜のヒットにベンチは盛り上がった。
次の1・2番は三振に倒れ後が無くなった。
そして打順は3番の健一に回ってきた。
『キャプテン頑張れ!早川頑張れ!健一頑張れ!』
ベンチが一緒懸命応援する中、健一は真剣な面持ちで打席に入った。
一方、相手の投手も2年連続の都大会進出に王手をかけ燃えていた。
そして、初球。
健一はピッチャーのストレートをレフトにおもいっきり飛ばした。
『うそ!?』
全員がそう思うであろう。
レフトの女の子が必死に打球を追うも打球は奥の土手まで飛びサヨナラHRになってしまったからだ。
健一は、全力でホームまで走りゲームセット。
そして、健一は、チームメイトから手荒い祝福を食らっていた。
『キャプ良くやった!!サイコー!』
そして、試合終了後、監督を胴上げしたのであった。
夕焼け空の中、父親の涙がキラリと見え健一も嬉し涙を流していた。
ふと、昔の思い出を思い出した健一はいつの間にか目頭が熱くなっていた。
「夕焼け空きれいだな。」
健一はそう言って沙紀に話しかけてきた。
沙紀も仰向けになり空を見上げて呟いた。
「そうだね~♪」
沙紀も当時の事を思い出そうとしていたがイマイチ思い出せないでいた。
沙紀が考え込みながらがふと周りを見回すと季節はずれのクローバーを見付けた。
「見て!夏なのにクローバーがあるよ。珍しいね。」
感心する沙紀に健一も回りを見渡しクローバーを探してみた。
「そうだね~おい、こっちにもあるぞ。」
健一はそう言ってクローバーをとり沙紀に見せた。
健一のとったクローバーを見た沙紀は驚いた。
「早川、それ、四ツ葉のクローバーじゃない!?」
健一のとったクローバーは四ツ葉だった。
「本当だ!!」
健一は驚き四葉のクローバーをジーっと見た。
「良いな~私も四ツ葉のクローバー探してみよっと。」
沙紀はそう言って必死に四葉のクローバーを探し始めた。
30 分後。
「なぁ、沙紀。そろそろ帰ろ~」
「いや、まだまだ。……ん!?あったー!!早川~あったよ~私も見つけたよ~♪!!」
沙紀は無邪気に喜んでいた。
「良かったね。」
生返事の健一に沙紀はムッとした。
「もう少し喜んでよ~」
沙紀は健一と一緒に喜びを分かちたかったのだ。
「さて夕飯どうしよっか?」
健一はゆっくりと起き上がり沙紀に言った。
「もぅ~、う~ん?久しぶりにどこかで食べよう。」
沙紀は珍しく素直に応えた。
二人は車に乗り、土手を後にした。
車を運転している健一は助手席に乗ってる沙紀に夕食をどうするか聞いてみた。
「沙紀、夕飯何食べたい?」
健一はそう言いながらスピッツを流した。
「イタリアン♪おっスピッツ!!」
「OK!スピッツ良いだろ?」
「うん。私も大好き!!しかし、早川はいろんな場所や道を知ってるね。」
スピッツにノリノリの沙紀は健一の土地勘に感心していた。
「だろ~まぁ、俺はどっかの誰かと違って、方向オンチじゃないからな。」
健一はそう笑い沙紀を皮肉った。
「あっ、私の事でしょ!!ふん。どーせ私は方向オンチですよ~」
沙紀はそう言って健一の皮肉に開き直った。
「ハハ。まずは散歩してみると良いんじゃない?楽しいよ。」
そんな沙紀に対し健一が明るく笑った。
「へぇ~散歩か、今度試してみよ。」
沙紀はそう言って窓に目をやった。
スピッツの曲がハチミツから恋の始まりに変わりいつの間にか車内は静かになっていた。
「沙紀?」
信号待ちをしている間いつの間にか静かになった沙紀を心配し健一が声をかけてきた。
いきなり声をかけられた沙紀は何故か動揺した。
「エッ!?あ~この曲なんて言うの?」
「恋の始まり。俺の一番好きな曲。今、流れてるサビが特に最高なんだよ!!」
サビの部分が流れる車内。
健一がふと助手席へと向くと沙紀と目が合った。
見つめあう二人。
沙紀はワインを飲んだときみたいに顔が赤くなってきた。
その時、信号が青になり後ろの車からクラックションが鳴ってきた。
「ヤベェ!!青だ。」
健一は慌てて車を走らせた。
「もうすぐ着くからな。」
「うん。」
健一に見つめられた沙紀は返事するもののボーッとしたまま顔が熱くなっていた。
その頃、祖父の元治は二人が向かってるレストランで吉本昌彦と夕飯を食べていた。
「今日は元治にやられたわ。」
「ハハ!!次も勝つからな。」
元治はそう言って豪快に笑った。
その時、店から健一と沙紀が入ってきた。
祖父に気付いた健一は驚いた。
「あっ!?じぃちゃん。」
元治と昌彦は健一の言葉に後ろを振り向いた。
「健一君久しぶり。」
「あっ、吉本さんいつも祖父がお世話になってます。」
「ハハ。ところでそちらのお嬢さんは?」
「あ~♪健一のこれじゃよ」
元治は小指を立てて笑った。
「いえ、中学からの親友です。」
動揺した健一は即座に否定した。
沙紀もお辞儀をして笑うが慌てて否定された事に虚しく感じた沙紀は作り笑いになっていた。
「成程。あ~そうだ健一君。久しぶりに野球やらない?」
昌彦の唐突な言葉に健一は驚いた。
「ブランクがあるしちゃんと出来るか・・・」
「そんなもん気にしないで今度遊びに来てよ。」
昌彦はそう言って笑った。
健一は考え込んだ。
「今度っていつですか?」
昌彦は手帳を開きパラパラっと捲った。
「え~っと、あっ、明日だ!!午後 13 時~16 時に夢の島グラウンド。」
「えっ、明日!?」
あまりにも急な出来事なので健一は驚いた。
「うん。でも、健一君。日曜暇でしょ?」
昌彦は元治から事前に健一の生活を聞いていたのだ。
「まぁ、確かに暇ですけど・・・考えてみます。」
「うん、明日、楽しみにしてるよ。決まったら電話頂戴ね。」
昌彦にそう言われた健一は軽く会釈し窓側の席に向かって行った。
沙紀も昌彦に会釈して健一の後を追った。
「しかし、お前も随分と強引じゃのう。」
「ハハ。善は急げだろ。乾杯!!」
昌彦はそう言って元治と乾杯した。
沙紀と健一はメニューを見ている。向こうでは老人二人の笑い声が聞こえる。
「全く呑気なもんだよな。」
健一は愚痴混じりのため息をついた。
「良いじゃない。草野球は楽しむことが一番なんだから。勝つ野球は社会人野球や学生野球なんだから。ね?」
沙紀はそんな健一を励まし明るく微笑んだ。
「・・・・沙紀、お前ってたまに良いこと言うよな。」
沙紀の意外な言葉に健一は思わず笑ってしまう。
「何よその反応~ふん。」
沙紀はそう言ってふて腐れた。
「アハハ。ごめん×2。」
健一は沙紀のふて腐れた顔を見て明るく笑った。
沙紀もフグみたいな顔をした自分がバカらしくなりつられて笑いだした。
「ねぇ、早川。私も明日の野球に行っても良いかな?」
「どうした急に!?」
「私も久々に野球にふれてみたいな~と思って。」
沙紀は頬をかき照れながら水を飲んだ。
「へぇー良いよ。じゃあ 10 時に沙紀の家に迎えに行こっか?」
「うん。そうしてくれると助かる。」
その時、店員が注文を聞きに来た。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
「えっと私は生ハムとキノコのピザとアイスティーで。」
「じゃあ俺はマルゲリータを一つとアイスティー。」
「かしこまりました。」
店員は注文を受け立ち去って行った。
しばらくして、ケータイを取り出し予定をカレンダーに入力した沙紀はため息をついた。
8 月 5 日誕生日。
(早川覚えてないだろうな。)
「どうした?」
「ううん、別に。」
沙紀は悟られないよう慌て誤魔化した。
それからまもなく二人の元に料理が運ばれたので二人は仲良くピザを食べる事にした。
「旨いだろ?」
健一はピザを口に頬張りながら沙紀に聞いた。
「うん。美味しいね。」
沙紀も健一同様に食べニコッと笑い喜んでいた。
沙紀にとっては余程の不味い料理じゃない限り健一とこうして食事をしてる事だけで幸せなのだ。
一方、向こうの席ではそれを幸せそうにみる昌彦と元治の老人二人組がいた。
「あの二人仲良いね。」
昌彦が元治に話しかけてきた。
「あぁ、まるで健治と佳代さんを見てるようじゃよ。」
元治は死んだ健一の両親を思い出していた。
「そうか?」
昌彦は思わず首を傾げた。
「あぁ、結婚する前の健一と佳代さんはあんな感じじゃったんだよ。」
「そっか。」
二人の老人は遠くから健一と沙紀の二人を見守るのであった。
夕飯を済ませた健一と沙紀は車で沙紀の家へと向かっていた。
「今日は楽しかったね。まさか、四ツ葉のクローバー見付けるとは思わなかったね!!」
子供の様にはしゃぎ屈託のない笑顔を沙紀は浮かべていた。
「そうだな!!大事にとっとけよ。」
運転に集中してる健一は前を見ながら沙紀に返答した。
「うん!!」
沙紀も健一の運転の邪魔をしては悪いと思い少し黙った。
二人の会話が途切れてしまい、しばらくの沈黙が流れる。
「・・・・今日はありがとな。」
健一は恥ずかしながらも沙紀に礼を言った。
「えっ!?」
なんでありがとうなのかイマイチ良く分からず少々驚く沙紀だが健一にお礼を言われ、顔が赤くなってしまった。
沙紀の家に着いた二人は、車から降りた。
「なんか、楽しいことってあっというまに過ぎるもんだね。」
沙紀はしみじみと言いなんだか物寂しそうだった。
「そうだな。じゃあ、明日、野球行く前にちょっと買い物したいから、10 時に向かえに行くわ。」
「うん。今日はありがとう……じゃあね。」
沙紀も手を振りながら家へと入って行った。一方の健一は、車を走らせ自分のマンションへと帰っていった。
「今日は楽しかったな~♪♪・・・あっ!?沙紀の奴、俺のゲーム片付けてないな。まぁ、今日は多目にみてやるか」
そう言って笑う健一はすっかり沙紀に振り回されたことを忘れてとても晴れやかな気分だった。




